2022/12/14 カイマナヒラの家③ | 福山機長の夜間飛行記録

福山機長の夜間飛行記録

月曜日から金曜日までの毎晩放送されるラジオ番組"JET STREAM"のうち、福山雅治機長のフライト部分を文字に書き起こして写真を貼り付けただけの自己満足ブログです。(※特定の個人・団体とは一切関係ございません。)

JET STREAM


作家が描く世界への旅。


今週は、『ジェットストリーム イン ハワイ』。


作家・池澤夏樹の小説『カイマナヒラの家』より、一部編集してお送りしています。


今夜はその第3夜。


主人公が、ワイキキの沖で出会った青年ロビンは、伝統的なハワイ建築の広大な家に、ジェニーとサムの3人で住んでいた。


庭から、ダイヤモンドヘッドが見える、家だった。


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ハワイイの名門アレグザンダー家が、1930年頃、当時ハワイイで一番の建築家と言われた、チャールズ・ディッキーに依頼して建てたという、カイマナヒラの家は、全体に開けっ放しで、風のよく通る、明るい家だった。


行っても行っても終わらないほど大きかった。


広大な居間を中心に、やはり広い寝室が6つくらいあって、それぞれにバスルームが付いていて、それから食堂があり、キッチンがあり、こぢんまりした図書室があり、何だか分からない部屋も、いくつかあった。


天井は高く、床は1フィート角ぐらいのきめの粗い石造り。


サムが指差したのは、ポーチの庭に面したガラス戸の上にはめ込まれた、ステンドグラスだった。


流れるような輪郭で描かれているのは、しっかりした顔立ちの大柄な女性。


「ペレだ。


ハワイイの、火山の女神。


強くて、怖い神様だ。


嫉妬深いしね。


でも、ペレがいなければ、ハワイイは無かった。


ここは、火山の島だから」


[ペレ]


ポーチには、全部で4枚のステンドグラスがあり、それぞれにハワイイ神話の4人の神様がいた。


「庭に出てみよう」


と、サムが促す。


庭には、松葉が敷き詰めたように散っていた。


家全体が松林の中にある。


目の前が海。


簡単な柵の向こうに、人が歩けるだけの細い道があって、その先3メートルの段差を下ると、もう砂浜。


その浜も狭くて、すぐに海になっている。


「家から出て、すぐサーフィンができるだろう?」


と言うサムに僕は、


「ボードを抱えて、庭を横切ったら、もう海なんだね」


と答えた。


「それでさ、後ろは・・・ほら、ダイヤモンドヘッド」


そうサムに言われて振り向くと、松の木の間に、山が見えた。


[ダイヤモンドヘッド]


そうだった。


沖から見たのに、さっき、ロビンと来た時は気が付かなかった。


それにしても、こんなに、近いのか。


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「『カイマナヒラ』って歌があるだろ?」


サムが言い出した。


「ハワイイアンのスタンダードナンバー」


と僕は答えて、メロディーをちょっとハミングした。


「そう。


あれは、あの山の事だよ。


ダイヤモンドヘッドは、"ダイヤモンド・ヒル"とも言う。


そして、ダイヤモンド・ヒルをハワイイ語で発音すると、"カイマナ・ヒラ"になる。


ダイヤモンド・ヒル、カイマナ・ヒラ。


分かるだろ?」


その時はよく分からなかったが、この名前の響きは、この家に何度も通ううちに、次第に僕の中に浸透していった。


「夕食に行くんだけど、よかったら一緒にどう?」


と、ジェニーが言った。


「ここはね、だいたい朝はみんな家で食べて、昼はそれぞれ出た先で食べて、夜はどこかに食べに行く事にしているの。


家族ではないから、誰も義務としては料理をしない。


気が向いた時は別だけど」


なるほど、と思いながら、僕は彼ら3人と一緒に、バナゴンに乗った。


「あのフォルクスワーゲンのマイクロバスは?」


と聞くと、


「僕のコレクション」


とロビンが言った。


すると、ジェニーが加える。


「ロビンはコレクターなのよ。


あの車と、ヴィンテージのアロハと、それからゴーギャンの絵の複製と・・・あとは、何?」


「それだけだよ」


「ガールフレンドは?」


と僕が聞くと、


「ハッハッハッハッ、もう若くないからね」


とロビンが笑った。


それがどこまで冗談だったかは分からないが、今考えても、確かにあの場の四人は、もう若くはなかった。


僕はサーフィンに夢中になって、ハワイイに通うなんて事は、20代に済ませておけばよかったのにという年頃だったし、他の3人も似たようなもの、だった。


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