烈貴と莉奈。
街を望む展望台で二人はハチ合わせた。
呆然とする烈貴に、莉奈はマスクを外しながら近づく。
「………やっぱ、あんただったね」
心なしか、莉奈は気恥ずかしそうな笑顔を見せる。
烈貴には、その表情が学校で見る莉奈とは全く別人な程、大人に見え。
思わず釘付けになった。
「………相川先輩」
莉奈は烈貴の前に立つと。
しばらく顔を背けてから、再び向き直り言った。
「………ごめんね。
ヒドい目に遭わせちゃって………」
莉奈は、烈貴と並ぶと少しだけ背が高い。
それが烈貴を見つめる瞳を伏し目がちにし。
尚のほど大人の表情に見せたのだった。
莉奈の瞳は潤んでいた。
もの悲しげでもあった。
烈貴は、どう言葉を返せば良いのかわからなくなり。
ドギマギしてしまう。
そんな烈貴の胸の内を察するかのように、視線をそらし。
含み笑いを浮かべながら、展望台の手すりに寄りかかる莉奈。
「………ビックリした?
あたしが原チャリ乗ってるなんて、知らなかったでしょ」
莉奈の乗る、ヤマハTRY(トライ)。
`85年型のスクーター。
烈貴のRG50Eほどではないが、かなりの年代物ということでは同じだ。
学校の駐輪場で、この黄色いトライを見かけたことは一度も無かったので。
莉奈が通学に使っていないのは確かだった。
烈貴達の高校では原付免許(2026年4月からでいう一種)までは取得が許されていたが、その都度届け出が必要だった。
莉奈の性格を考えると、それすらもしてないかも知れない…………
そう、烈貴は思っていた。
「…………このスクーター、いつから乗ってるんですか?」
話題をバイクに振られて、少しホッとした烈貴は。
ようやく口を開くことが出来た。
「………一年の秋から。
これ、ママが高校の時に乗ってたお古なんだ。
あんま距離乗って無かったから、状態も悪くなくて。
こんなの売っても大した金になんないからさ、捨てるのも勿体無いんで。
あたしが貰ったの」
いつもの明るさを取り戻したかのように、莉奈は烈貴に向き直る。
「お母さんが高校の時に?
じゃ、ウチと同じパターン!」
奇遇に驚く烈貴に
「そういうこと!」
と莉奈は。
これまで見せたことの無い、嬉しそうな笑顔を見せた。
だが………その笑顔も一瞬。
烈貴に近づくと、悲しげな表情のまま。
頭の包帯に、そっと手を添える。
「…………痛そう」
莉奈の瞳が、再び憂いを帯びて来る。
「………あたし………なんてヒドいことを…………」
烈貴の頭を愛おしげに、労るように撫でる莉奈は。
今にも泣き出しそうだった。
「あ………大丈夫です、ホントに、マジでもう平気ですから」
偶発ながら、危害を受けたことも。
もはや烈貴にはどうでも良いことであった。
今は、ただ、そこまで先輩に心配されていることに恐縮するばかりの烈貴。
と…………
莉奈が、おもむろに抱き締めてくる。
目を見開く、烈貴。
ラベンダーのような莉奈の髪の匂いを胸一杯に吸い込み、むせかえりそうになる。
ジャージを通して伝わる、莉奈の柔らかさに。
烈貴は目まいがした。
視界には、一面に午後の青空が広がっていた。
「…………好き。
あんたが好きで、しょうがなかったの」
耳元で囁かれているはずの、莉奈の言葉を。
烈貴は、どこか遠くから聞こえて来る教会の鐘の音のように聴いていた。
続く
〈晴天の霹靂・完〉
※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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