時折、初夏の強い風の吹き付ける展望台。

それに構わず、重なり立ち尽くす二人。

烈貴は、莉奈の吐息を首筋に感じていた。

「…………礼美(れみ)先輩が付きっきりだったから、あたしは近づくことも出来なかった」

礼美先輩とは。
以前、烈貴が口にした、中村というトロンボーンのOGのことだ。

「…………けど。
あたしは待ってた…………一年も。
それを、あの子は!」

烈貴と見つめ合うと。
莉奈は唇を重ねて来た…………

烈貴には、初めてのことだった。
混乱していた。
だが………
裏腹の、説明のつかない安心感が唇から生まれ。
烈貴のまぶたを閉じさせる。
身体が、熱くなってくる。

莉奈が美葉に攻撃的だった、本当の理由を知ってしまった。
嫌悪と陶酔の狭間で、烈貴は。
波間に漂う小船のように揺さぶられていた。

息が苦しくなる。
それに合わせて、莉奈は唇を離し。
見つめ合い。
そして………
また重ねる………

放心した烈貴が、口づけの合間に尋ねる。

「………先輩」

「………?」

「………なんで、俺なんかを」

切なそうな笑みを溢しながら、莉奈は見つめる。

「………人を好きになるのに、理由なんて要るの?」

眼の前の、莉奈の整った顔立ちに乱れ髪がかかるのを見た時。
烈貴の中で何かが弾けた。

「………先輩!」

それまで莉奈に預けていた身体に力がみなぎり、烈貴も莉奈の背中と腰に腕を回す。

自分より少しだけ背の高い莉奈の首筋から胸元へ顔を埋めていく。
そのことが、莉奈の赤いジャージのファスナーを少しづつ下げていく。
包帯に隠された、額の傷口が少し疼いた。
莉奈の肌からは、薄いコロンの香りがした。

「嬉しい…………!」

莉奈は烈貴の頭を両手で抱え、瞳を閉じて空を仰ぐ。

「……………俺なんか……情けない奴なのに………」

莉奈の胸へ顔を埋め。
小刻みに左右に振りながら、烈貴は呟く。
莉奈は一旦、息を飲み込み。
声を高くする。

「…………それでいいの!
ありのままの烈貴が好きなの!!」

言ってから、また莉奈は空を仰いだ。


いつも………俺はダメ出しをされ続けて来た。
情けない、しっかりしなさい………と言われ。
軟弱者と言われ………
自分を肯定できずにいた。

いつも………誰かの価値観を押し付けられ。
打ちひしがれていた。

けど………今、自分を抱き締める人は違う。

「………先輩………先輩!!」

求められながら次第に息が乱れ。
時折、子供のむずかるような声を出しながら莉奈は。
烈貴の頭を苦おしく撫で続ける。

「………あたしだって………何のとりえも無い女………サイテーな女………おんなじよ!」

日曜日の午後にも関わらず。
展望台は神々に守られたかのように、二人だけの聖域を作っていた。



「来て…………
あたしを好きに出来るのは。
烈貴だけなの」

夕暮れ、二人は。
丘の道すがらのモーテルに居た。

季節外れのラベンダーが、ベッドサイドに揺れていた。


烈貴は。
喘ぐ莉奈の口から、この花言葉を教わったのだった。


続く

〈ラベンダーリップ・完〉

※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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