「で………アンタら、ヤッたのか?」
「はあ?」
ショッピングモール内での"女の闘い”は続いていた。
想定外な"しぶとさ”を見せる美葉に、愛華は業を煮やし。
一軍女子としてのプライド(くだらない)が、常に相手に対するマウンティングを行なわせる。
美葉は。
これでどうだ!?と言わんばかりのニヤケ顔の愛華の、場違いで間抜けとも言える"質問”の意図がわからないでもないが、敢えて呆れ顔で尋ねる。
「ヤッた…………って?
何を?」
「トボケんな!!
まあ………陰キャなんかにゃチト、シビアだったか」
愛華は嘲笑ってみせる。
そんな下品な話題を勝手にフッかけておいて勝手にウケている、目の前の"自称一軍リーダー”を美葉は哀れにすら感じ始めていた。
クラスでは校則スレスレのメイクやネイルで自分を盛り付け、ウソ臭い武勇伝、聞いてもいないのに声高な自己アピール。
他人をマウントすることでしか自身の価値を見出だせない輩に…………
「…………もう、やめよう。
こんな大勢の人の居るところで。
恥ずかしいよ」
そんな美葉の忠告も聞こえないかのように、愛華は追い打ちをかけるつもりで叫ぶ。
「どうせ、ソッチは付き合ってるって自分で勝手にモーソーしてるだけだろ!?
ハハハッ
コッチは、陀威也のヤツ、毎日毎日ヤらせろヤらせろってウゼェくらいだっての!!
ま………オンナとして魅力の有るか?無いか?って、一目瞭然さ」
ドヤ顔で見下ろす愛華。
ふと………美葉は思い起こした。
これまで烈貴は、自分に対し"ヤらせろ”などと要求など一度もしてきてないし、アピールもしていない。
ただただ………それまで自分にとってコンプレックスだった部分を褒めちぎり、気に入ってくれ、愛でてくれている。
ありのままの自分を「可愛い」「好きだ」と優しく抱き締めてくれる…………
常に、一緒に気持ち良くなれることを考え、してくれている…………
生まれて初めて、異性の愛情というものを感じさせてもらっている。
改めて美葉は、幸せを覚え。
思わず笑みが溢れた。
その笑みが、愛華には自分に対する嘲笑に見えた。
途端に険しい表情となり、唇を噛み締める。
「………テメェ………どんだけ人をディスれば気ィ済むんだよッ!?」
愛華がなりふり構わず、美葉に掴みかかろうとした時。
「美葉ちゃん!」
振り向くと………そこには。
ヘルメットを脱いだ額に汗を光らせ。
黄色い一輪の花、アキノキリンソウを差し出す烈貴の笑顔があった。

「…………先輩ッ!!」
愛華を振りほどき、美葉は烈貴に抱きついた。
両瞼から、涙が溢れた。
「………先輩………先輩!
良かった………無事に帰って来て」
花を持ったまま、美葉を抱き締め微笑む烈貴。
「言ってたろ?
大丈夫だって」
呆然とする愛華。
「…………陀威也…………陀威也…は?」
「ああ、カレなら。
山を降りきる手前で擦れ違ったよ」
愛華は、思わずベンチに座り込む。
対して、花を受け取り。
烈貴の腕の中でウットリ顔の美葉。
…………負けた。
敗北だ………!
悔しさと、陀威也の不甲斐なさへの怒りが愛華に込み上げて来た。
(アイツめ………恥をかかせやがって!!
捨ててやる………もう、今日限りで他人だッ!!)
その場を立ち去ろうとする愛華。
「………あれ?
どこ行くの?」
引き止める烈貴に、愛華は背中を向けたまま呟く。
「…………スタバの件は、アイツにたかれよ。
ウチは帰る」
「待てよ!」
鋭い声をかける烈貴。
「君のカレシだろ?
勝負のことも、スタバで奢る件も、どうだっていい。
…………帰って来るの、待ってやるのが普通だろ?」
キッと振り返り、険しい目を向ける愛華。
「………あんな奴、最初からカレシでも何でもない。
勝手にウチにまとわりついてたキショい野郎さ。
関係無い!」
今度は美葉が声を上げる。
「ヒドい……………あなた。
男の子のこと、何だと思ってるの!?」
「う………うっせェなッ!!」
追い詰められ、我を忘れてベンチを蹴飛ばし、地団駄踏む愛華。
プライドなど、とうに砕け散っていた。
その頃………
展望台に向かう峠道の、木陰になっているヘアピン・コーナーで。
一台の黒いマジェスティが、大破した状態でガードレール手前に倒れていた。
陀威也の姿は………無かった。
続く
〈砕けたプライド・完〉
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