「………てて」

額を抑えた烈貴の指の間からは、血が滲み出ていた。

放課後の保健室は既に養護教諭も不在であり、やむなく職員室に唯一人残っていた教頭が同行して烈貴は手当てを受けた。
美葉も一緒だった。

傷は烈貴の額から眉間にかけて2センチ程の長さでパックリと割れている状態にあり、一先ず止血が試みられた。
教頭は保健室内を見回しガーゼと包帯を見つけ、ガーゼを二段重ねにしてから傷口に当てて烈貴の頭を包帯でグルグル巻きにし。
自分は「救急車を呼ぶ」と、一旦保健室を出て行った。

ベッドの上で痛々しい姿のまま横たわる烈貴。
美葉は、その傍らに寄り添い。
烈貴の左手を両手に取り、ただただ顔を見つめる。

「………先輩………ごめんなさい…………………私のせいで………………」

美葉の瞳から、大粒の涙が次々と溢れては流れ落ち。
シーツを濡らした。

教頭の手によって無造作に巻かれた、額の包帯の下のまぶたから烈貴が、美葉の泣き顔を見る。

「……いいんだよ、美葉ちゃん。
俺、大丈夫だからさ、泣かないで。
美葉ちゃんが……無事で、マジ良かった」

間もなく学校へ救急車が到着し、烈貴は救急隊員達によって運ばれて行った。


放課後の音楽室で、突如として発生した"暴行傷害事件”は。
その日のうちに学校を動かせた。

既に夜を迎えていた職員室へ、教頭始め部活等で在校中だった教諭ら全員が集まり。
烈貴を除いた当時者である相川莉奈、部長の前田は勿論、現場の部員達全員が呼ばれた。
既に退校していた校長、連絡を取った地元警察署の警官も向かっている。

一般的なケースで、学校の部活動中に起きた暴行や傷害に対する警察の関与について。
学校と保護者の協力により解決や指導が可能と判断される場合は直ちに警察へ連絡しないことも有り得るが、今回は烈貴が救急で送られる程の怪我を負っており。
学校側の安全配慮の義務も問われる為、必ずしも即座に当時者生徒の逮捕や前科に直結するわけではないが警察に通報・相談する…………という意味合いである。

程なくして、莉奈の母親が学校へ到着し。

そして……
自主練を命じた渡辺も、連絡を受け出先から駆け付けることとなった。


自宅から車で20分の病院の救急外来の処置室で、烈貴は傷口に三針縫い。
その夜のうちに、迎えに来た父親の車で帰宅した。

帰宅道中の車の中、運転する父・正和が語りかける。

「良かったなぁ、カスリ傷で」

今度は"プロ”の看護師の手で丁寧に包帯を巻かれた頭の烈貴が、助手席から父を睨む。

「カスリ傷って!
三針縫ってんだけど?」

「んなの大したこたぁねぇって!
ケガのうちにゃあ、入らねェよ。
俺のころは………………」

言いかけて、正和は止めた。



翌日。
学校に莉奈の姿は無かった。

莉奈は。
15 日間の停学処分と、反省文を課せられたのだった。


続く

〈カスリ傷・完〉

※文中の団体・組織名及び人名は実在するものと一切関わりありません
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