吉永さんの祝賀会 | 衝撃りかちゃん3万ボルト
今日も今日とて夢を見た。



広い広い講堂の立派な長机に1000人ほどの人達が着席している。
30代から40代の男性が多い。
全員が正装をし、厳かな雰囲気に包まれている。


この日の主役は吉永小百合。
主役なのに真ん中ではなく、隅っこに席を構え控えめに座っているのはさすが吉永さんだ。
もちろん白地の着物に身を包んでいる。




今日は吉永さんの祝賀会だ。
その為にこれだけの人が集まった。
さすが吉永さんだ。


ところでこれは何を祝うんだろう?
何も知らされていないが、人生で三度も鳥に糞を落とされている私になんてわざわざ教える必要もないのだろう。



この祝賀会には沢山の芸能人も招かれている。
タモリさんや鶴瓶さんももちろんいるし、ジャニーズ勢も来ている。



そんな大御所ぞろいの中で鳥の糞の私がみんなの前に立ち、ある方にインタビューをしなければならないことになった。


ある方とはSMAPの稲垣さんだ。


吉永さんの祝賀会で、SMAPの稲垣さんに、鳥の糞がインタビューをする。

はい、問題です!
これによりもたらされる効果は何でしょう?



はーいそうですね!
正解です!
皆さん優秀よ!


答えは、ただの酸素の無駄遣いです(^o^)



えーえーえーそうよ!無駄よ!
ムダムダ!
もったいない!
もったいないランドよ!
歌いましょ!みんなで歌いましょ!
せーのっ!

もったいなーい☆





答えは酸素の無駄遣いで、私自身は稲垣さんに質問なんてなくて、そもそも吉永さんの祝賀会なのになぜ稲垣さんにインタビューするのか。



けれども、いろいろあって牛の糞の中に手を突っ込んだ私にわざわざ教える必要もないのだろう。





事前に台本を渡され「ここに書かれていることそのまま言えばいいから」と指示された。


この祝賀会には主役含め全員参加のリハーサルがあってから本番が始まる。
芸能人が多いからテレビの収録とごっちゃになっているのかもしれない。


今はまだリハーサル段階で、一つ一つ確認しながら本番と同じように進められていく。
私の番は中盤くらいで、そろそろその時間がやってきた。




上がり症なためマイクまで歩いていく姿さえぎこちない。
けれど任され、引き受けたからにはやりとげねばという使命感に燃えながらゆっくり台本を開き、そして緊張した面持ちのまま心の中で思った。






読めない。







もちろん書かれているのは日本語だし、私は日本で日本語を使って生きてきたし、漢字だってバカとは言われないくらいには使えると思っていたがそれにしても読めない。

私の夢あるあるだけれども、いつもなら当たり前にできることが夢だとなんかうまいこといかないことがよくある。

たとえば、怪物が襲ってきて急いで逃げようと思うのだけれどどうにも足が重くてとんでもなくゆっくりでしか走れなく、結果四つん這いで逃げ出したとかである。

今回もそのあるあるに陥ったんだと思う。
いつもなら突然渡された原稿だって入社5年目くらいのアナウンサー並みにスラスラハキハキ喋れるんだ。
私がバカとかではなくて、夢あるあるであって、バカとかではない。



そんなどうしようもない状況に置かれつつ、もう一つ困ったことがある。




実は、インタビューと言っていたが、私が実際に言い伝えられていたのは質問を一つするだけなんで!だ。


質問を一つするだけなら、はじめにペラッと祝いの言葉なんかを告げてその他ちょこっと喋ったのち稲垣さんに質問して終わり。
なんて流れを想像していたが、


それなのに紙いっぱいに文字が並べられた台本は5ページ分はある。
慌てた、慌てて台本をペラペラめくってみるがしかし5ページだ。


質問一つにこんなに喋る必要があるのか?
どこのだれとも知らないやつがいきなりこんなベラベラ話し出したらみんな嫌な気がしないか?
タモリさんがあの漆黒のサングラスの奥から、さらに深い闇のような瞳で私を見つめはしないか?



だけどもやらねば…
私は使命感に燃えているのだから!



そんなこんなで台本を読み始めた。
自分が何言ってんのかわからないくらい漢字が読めないし、文書もわけわかんない。
覚えているのは「何とか藩もその時は」なんて言っていたことだ。


藩といえば薩摩藩や長州藩なんかのことで、江戸時代の話だ。


私は歴史にこれっぽっちも興味がないのだけれど、これはもしかして稲垣さん歴男?歴男なの?てか歴男なんていうの?

とか思いつつ、ぐだぐだながらもなんとか始めのお喋り部分を読み終え最後の質問をする。


これだけの長い前置きをしたのだから、どんな大層な質問をするのだろうと思った。











「オススメの観光地はどこですか?」








その質問に稲垣さんがなんと答えたかは覚えていないが、タモリさんがダークネスな瞳でこちらを見ていたのは確かだった。




これはいったい誰が悪いのか、プロデューサーか?プロデューサーなのか?と探ることもせず、神様を恨むこともなく、この世を嘆くこともせず、ただ全てを自分の責任としリハーサル後に稲垣さんに謝りに行くことにした。



しょぼーんと落ち込みながらざわざわする人混みの中、稲垣さんを見つけ駆け寄る。
稲垣さんは優しい微笑みで私を迎えてくれた。


私「さっきはすいませんでした。ぐだぐだしてしまって。」

稲「お疲れ様。いんだよ、まだリハーサルだしさ、頑張ろうよ。
でもまぁ、本番はみんなお喋りに夢中になって話し聞いてる人なんていないだろうけど僕ら5人(SMAP)はどんな小さな声でも聞いてるから安心して。」


優しい励ましの言葉に加え、天下のSMAPによるTHE アイドルな発言、そして5人の団結力を見事に見せつけてくれた。



しかしあれだけ冷や汗かきながらした話も結局のところ誰も聞いちゃいないという事実が発覚し安心したのか、私はすぅっと夢の世界から目を覚ました。







その翌日、同じ会社の稲垣さんが有給でお休みしていた。
もしかしたらいつの間にか私に代わって祝賀会に招かれたのかもしれない。