松山洋による20,000文字手記“「.hack//G.U.」全記録”後編【3】 | ゲーム制作会社 サイバーコネクトツー 松山洋の「絶望禁止」ブログ

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「.hack//G.U.」完全設定資料集 .hack//Archives_02 WHITE
「.hack//G.U.」完全設定資料集 .hack//Archives_02 WHITE LIGHT EDITION より

▼これまでの「.hack//G.U.」コラムアーカイブ
http://ameblo.jp/cc2-piroshi/themeentrylist-1-10072483124.html



まあ、色々あるけど一番大きかったのはやっぱし“揺光”

当初は「Vol.2」のかりそめのヒロイン揺光。
アトリと単純に対比するだけの損な役回り。
まだ志乃を復活させるわけにもいかないので。
それだけの役目だったはずなのですが。

ところがハマさんが書いた揺光のセリフに私が惚れてしまいました。

そう。

“わたしは一途でしつこいぞ”

あるんですね、そういうこと。
これが作品作りの楽しさでもあり、怖いところでもある。
制作者がキャラクターに惚れる。

ホントに我ながら阿呆か、とも思いますが。
惚れてしまったものはしょうがない。
そうして一気に彼女は物語にとっても作品にとっても大きい存在となっていったのです。

たった1枚の絵が誰かの人生を変えるかのように。

たったひと紡ぎの言葉がその作品のあり方を大きく変化させたのです。

当時の私はその脚本を東京出張中の移動中の電車の中で読みました。
その時に同行していたスタッフの千光士に
“また面白い作品ができちゃうよ”と漏らしたことを今でもハッキリと覚えています。
ハマさんの描く物語は非常にツボなんですね、私にとっても。

ゲーム脚本は、ゲーム開発の性格上だいたい先に一度完成します。
それからまた数年かけてゲーム開発が継続されるのです。
ゲームソフトそのものの完成に向けて。

ゲーム開発において、開発が進行すればするほどその中身は大きな変化を遂げます。
なかったシステムが増えたり存在したはずのシステムや展開がなくなってしまったり。

それがゲームソフトである以上、どうしてもその度に完成したはずのゲーム脚本、
いわゆる物語や展開・セリフのひとつひとつにすら修正が入ります。
恐らく修正が入らない、なんてことはないでしょう。
頭から最後まで至るところに修正が入ります。

ハマさんに脚本をあげていただいたあとからも、
ゲーム開発の進行に伴いやはり至る所に修正が入っています。

それはサイバーコネクトツーの開発の過程で起きていることなので、全てこちらで修正しました。

が、恐らくプレイヤーの皆様が“ああ、ここいいなあ”って思ってくれた箇所は
ハマさんが生み出したところです。

我々はゲーム開発者として“それ”をより食べやすくするのが役目。

本当にいい仕事をしてくれました。

なので、これからもハマさんとはまたたくさん話をして
新しいこともやってみたいな、なんて思うのです。

思っているのです。


ゲームソフト「.hack//G.U.」で起きた奇跡の軌跡。

プロジェクト全体を振り返ると様々なことが思い出されますが、
その中でも特筆すべきことをひとつ。

連続刊行される作品においての現実は“2巻は1巻より売れない”ということ。
当然ながら“3巻は2巻より売れない”ということになります。まあ、それがフツー。

誰だってマンガを買うときは1巻から買う。
私だってそうですし、きっと、誰だってそう。

TVアニメだってドラマだって最初に見るのは1話。
そのあとに“面白いな~次回も見てみよう”なんて思ってくれたら“次”につながります。
が、“うーん、イマイチだなぁ”と思われたら見る人の数は減っていきます。

ま、当たり前のことですね。

実際の話。「.hack//」全4巻も“そう”でした。ざっくりした結果ですが。

「.hack//感染拡大 Vol.1」 25万本
「.hack//悪性変異 Vol.2」 22万本
「.hack//侵食汚染 Vol.3」 19万本
「.hack//絶対包囲 Vol.4」 13万本


これでも1巻→2巻→3巻の下がり幅が少ないほう。
これもフツーはなかなかありえない。フツーはもっと下がっていきます。
いわゆる“脱落者”が増加していきます。

当然、この傾向は前作実績からもわかっていたことですし、
世の中のどの作品にだって同じことが言える。

連続作品である以上避けられない闘い。

“だからこそ”の対策は“色々”とやってきました。

けど、その“色々”も突き詰めると
“下がり幅をいかにして小さく最小限に抑えるか?”ということになります。
そういうタイプの“対策”ということですね。

ところが。

ふたを開けると「.hack//G.U.」全3巻の結果は以下の通り。

「.hack//G.U. Vol.1 再誕」 17万本
「.hack//G.U. Vol.2 君想フ声」 18万本
「.hack//G.U. Vol.3 歩くような速さで」 19万本


驚愕の結果であり事実です。
理由はいくつも考えられます。

狙ってプロジェクトそのもののピークを“「Vol.2」に設定する”ということもやってきました。
TVアニメの最終話の放送日時もラジオの公開録音イベントも
東京ゲームショウも「Vol.2」にあわせたりもしました。

また、一方では“「Vol.2」を発売するまでの4ヶ月間に「Vol.1」の
中古が流通してそれを遊んだ人が「Vol.2」を買ってくれた”
とか分析する人もいました。

こうした様々な分析が色々と関係者からも文字通り飛び交いましたが、私自身が感じたことは。

“きっと、お客様と一緒に歩くことができた”ということなんだろうな、と。

え、飛躍しすぎ?

まあ、それでも。

それでも、それが今でも「.hack//G.U.」全3巻で起きた一番の奇跡であり、
今も尚解明されない“一番の謎”だと思っています。

ひょっとしたら―――


(松山洋による20,000文字手記“「.hack//G.U.」全記録”後編【4】へ続く)


▼これまでの「.hack//G.U.」コラムアーカイブ
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本コラムは、下記冊子より抜粋したものです。


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