松山洋による20,000文字手記“「.hack//G.U.」全記録”後編【2】 | ゲーム制作会社 サイバーコネクトツー 松山洋の「絶望禁止」ブログ

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けど、私は彼、新里の一番の長所・スキルというものを評価しています。

尊敬していると言い換えてもいい。

敬意を払っていると言い換えてもいい。

それは……“勘所(カンドコロ)”

努力を積み重ねたり、経験によって培われる部分・要素も多分にありますが、
そうじゃあない部分。

なかなか計算もできないし、ある日突然訪れるものでもない。
ひょっとしたら努力と経験の積み重ねなのかもしれないし、
そうでないかもしれない。そういうアイマイな部分。

いわゆる“企画者としての勘所”が新里は“良く”“イケテル”のです。
だから“魂に火が入る”“できる”のだと思います。
まあ、単純に私と“ウマが合う”だけなのかもしれません。

それでもその“相性”だってモノ作りには大切な要素。
ノレるからたどり着くことだってある。
“そう”でなければ絶対にたどり着けないステージだってある。
だから最少人数でやったほうがいいこともあるのです。特に最初はそう。

たくさんの人数でたくさんのアイデアが出せることがマイナスになることだってある。
もっと物事の根幹の、作り手の“妄想”というか“わがまま”と言える部分。
根っこというか体の真ん中にきっとあるであろう“芯”の部分を最初に持っておく必要がある。
絶対に譲れない部分。不退転な決意。

それを対話しながら。まるで確かめ合うように。
少しずつ、オボロゲながら形が見えてくる。作っては壊し、の繰り返し作業。
それでも確実にソレは体の真ん中で成長し続ける。

だから、そうやって、私はいつも新里とふたりでスタートするのです。
未完成の“ガキ”を。

同時に人は万能じゃない。

本作「.hack//G.U.」において“成長”をテーマに据えたときから決まっていたことがあります。

ハセヲという主人公について。

・未完成であること
・だからガキなんだ、ということ
・だからションベンくさい、ということ
・だから恋心に似た感情だって抱くんだ、ということ
・だから復讐者だということ
・だから同じ過ちを犯し、絶望するということ
・そしてまた歩き出す、ということ
・それは素敵な成長である、ということ


これはかなり当初の段階から“ふたりぼっち会議”で決めていたこと。

そして大きな仕組みとしては、TVアニメもゲームも同じ主人公ハセヲでいく、ということ。
違う時間軸の同一人物を描くことの難しさを覚悟したうえで、そう決めていました。

そしてこれは当時の開発スタッフにも一部の人間にしか伝えてない話。
口に出して伝える必要もなかった話。

だからハセヲの髪型は“ああ”なのです。

だからハセヲのオデコは出てるのです。
髪の毛を真ん中で分けて。“自分が先”なのです。
だって伝えたいことと成すべきことがなかったガキが
自分を装ってくだらない背伸びから始まるんだから。

“自分”になりたい等身大の高校生。そんなガキ。

だから全てを知って“Xthフォーム”になった時に前髪がおりて、
ちょっとだけ素直になる
のです。

それでもちょっと前髪がナナメになってるのは素直になれないガキの部分。
この期に及んでまだたどり着けない自分を認められないガキ。
残された闘いがまだある以上そこでは完成しないしできない未完成品。だから素敵。

そんな想い。

当時の開発スタッフのひとりには“Xthフォーム”のハセヲの前髪が中途半端で
意味がわからないと指摘されたこともありました。

ナナメにするのではなくて、まっすぐ素直におろしては?とも提案を受けましたが。
そこはこの“つまんない想い”を通させてもらった、という話。

こうやって色んな“想い”を言葉にして発することは、たやすいですが。
その全てを物語として。全3巻の一大叙事詩として描いていくことは本当に難しい行為。

イメージはあるけれど、システムとイベントに落とし込むことはまた別の話。

だから結果的に“ハマさん=浜崎達也”に助けてもらうことに。

ハマさんの力は前プロジェクトの「.hack//」プロジェクトでもわかってたし、
我々がゲーム制作に集中するためにも“脚本”は頼んでお願いして助けてもらいました。

ハマさんには、“カタチにしたい情念だけはハッキリと、ある。
けどまだ中身はない。一緒にやろう!”
というトンデモナイ段階から入ってもらいました。

ゲームとTVアニメをこれからカタチにしていくうえで、
脚本チームをふたつに分けよう!という趣旨を説明して。

我々とハマさんでゲームを。

伊藤さんと川崎美羽でTVアニメを。

そういう新体制の下、ゲームシナリオ制作は再スタートを切りました。
脚本を執筆する、という行為において。
物語を紡ぐ、という行為において。
ハマさんも常人にはない“勘所”の所持者。
ある意味、これほどの適格者もいなかったのかもしれません。

最初に企画の説明をした時のハマさんの驚きっぷりは私にも伝わってきました。

前作「.hack//」全4巻かけて誕生したアウラの喪失から「The World」のリセット。
まあ、この部分は前作からのファンの皆様に近い感情だったのかもしれませんが。

ハマさんは“それ”も含めて飲んでくれました。

そのうえで尚、我々とともに歩んでくれました。

そうすると、自然と。

やはり、素敵な化学反応が起きました。

まあ、色々あるけど一番大きかったのはやっぱし―――






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本コラムは、下記冊子より抜粋したものです。

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