総評:3.7
原作、脚本、監督:宮崎駿
出演
眞人︰山時聡真
父親︰木村拓哉
義母︰木村佳乃
アオサギ︰菅田将暉
ヒミ︰あいみょん
大叔父︰火野正平
ペリカン︰小林薫
キリコ︰柴咲コウ
インコ大王︰國村隼
テーマソング
「地球儀」
米津玄師
- 冒険ファンタジー
- 家族、孤独、少年活劇、戦争
- 推奨年齢︰8歳以上
- ストーリー︰3.5
- コメディ︰2
- 中弛み︰3
- 迫力︰4
- エロス︰1
ジブリ作品「君たちはどう生きるか」はリアルタイム上映ではなく、この前の金曜ロードショーで初めて拝見しました。しかも録画です笑
日本でジブリ作品を観たことのない人っていうのは老齢な方を除いて相当稀だと思うので、ジブリ作品の芸術性の高さについてはみなさんが重々承知だろうと思います。
なので、ジブリ作品への期待値は誰しもが高いもので、ましてや宮崎駿監督作品こそがジブリ映画の本流であり王道なのでそれこそ世界的に話題になりました。
と、言いながらもズブのジブリファンってわけでもないので、劇場ではなく、地上波録画で観た私の感想をしたためたいと思います。
まず、ラストまで観て思ったことは、宮崎駿はこの作品で「何が言いたかったんだ?」っていう疑問に尽きると思います。
いわゆる「完全考察系作品」に仕上がっています。宮崎駿の過去作でもその試みはありました。紅の豚の主人公がなぜ豚なのかは語られず、もののけ姫のアシタカの呪いはどうなったのかも明らかにされませんでした。とりあえず観終わったらこの作品について「ご自分で好きに考えて下さいね!」ってことなんでしょう。
そして冒頭のシーンで眞人少年が火事になった母親の病院へ急ぐシーンには、心理描写が現れ疾走感のある「雑」な早コマ描写となってますが、丁寧で綺麗なアニメーションで定評ある宮崎作品としては珍しいなと思いました。
さらにスタジオジブリとしても一切スポンサーを募らない完全自主製作という異例の体制で、時間に縛られない妥協なき構想に6年という製作期間をかけた意欲作らしいです。
宮崎駿が今回呈した考察は例えば、眞人の現実から異世界にいたる過程において、脈絡の無いキャラや場面転換が多くあり、宮崎駿の世界観とファンタジーは自由な発想なんだ感をこれでもかと見せつけてくれます。
映像世界の芸術性というものは観る人の考えをまず止め、とりあえず作品の連続に続くシーンを没入させる必要があります。
実世界とのすり合わせを考えたり、物事の脈絡を考えることをさせないよう、現実にありえないという要素を抱かせずに物語を進行させることが出来るというものです。
そして観終わったあとに全体を評価出来るようインパクトのあるシーンの連続が宮崎作品の肝であると言えるでしょう。全体を考えることであれはそう言いたかったんじゃないだろうかと色んな評価や感想が生まれるわけですね。
この作品のあらましは、太平洋戦争最中に母を亡くし、そして父と田舎へ疎開してきた少年眞人が不思議な世界へと冒険するファンタジー作品になっています。
不気味でいて不精なアオサギと共に異世界に誘われ、時に協力しあいながら苦難を切り抜けるというジブリ作品にありがちの青少年の独り立ちがテーマとなっています。
そしてこの映画の元ネタはジョン・コナリーによる「失われたものたちの本」であり、母を亡くした12歳の少年が母の声とともに異世界へ迷い込み、様々なキャラに遭遇しつつも脱出のために失われたものたちの本を探すファンタジーとなっていて、このあらすじをまま踏襲しているのが分かります。
中弛みともいえる部分は「ワラワラ」という生物の命が発生する下界の場面です。ペリカンがワラワラを捕食し悪者として描かれるものの、ペリカンが生きるためには致し方ないことなんだと眞人は知ります。
中弛みとはいえ異世界崩壊の時にペリカンも一緒に本筋に乗っかって脱出してくるので、眞人の寄り道からの繋がりといえると思います。
はじめのほうで眞人はなぜか自分で頭を自傷し、ドロっと大量に流れる出血のシーンが痛々しさを見せます。しかしなんでこんな事するの?と当初は疑問を抱きますが、不登校を狙ったにしては物語のラストまで刈り上げワイルドボーイ姿で通します。
これは勇ましさを狙った演出なのかと思いましたが、実際は過去に行方不明になった大叔父と異世界で会い、血筋のある眞人にこの単調だが世界平和の世を築く「つみき」を頼まれます。その際に、大叔父からこの作業は我々善なる者がするべき行為なのだと諭されたのに対して、眞人は自傷した傷を見せ、自分の欲望でつけたので自分はもう善人ではありませんと言い放ち、「つみき」を断る伏線だったことが分かります。その時の眞人のドヤ顔で太平洋戦争は悲惨な結果へとなってしまったわけです。ワイルドボーイではなく無責任あんちゃんだったんじゃねーか!?というのが私の見立てです。
しかし、眞人の当初の目的は義母を連れ帰るということだと思われるので、目的意識を持った少年の遂行劇を描いたのが本筋なんだろうと思います。
ちょっと納得いかないのが、最後のぶつ切りエンドロールで、結局異世界は何だったのか語られず終演します。ですが少しでも説明のシーンがあれば考察系作品にはなってなかっただろうし、多少なりラストシーンは考えはしたけど、バランスを見て取りやめたのかなとも考察しました。
最後に、映画「君たちはどう生きるか」は主人公眞人が現実世界で体験した戦争に対するアンチテーゼ(反対論)なんだと思います。
戦争で母を亡くしたことで、本土空襲をしたB29爆撃機をペリカンに見立て、カラフルなインコを局地戦闘機ヘルキャット、サンダーボルト、コルセア、マスタングに見立て、鳥のように舞う姿は日本を蹂躙した戦争兵器として、ペリカンとインコが主人公らを襲ったのだろうと思います。生命の源ワラワラは国の宝であり無情にも犠牲となった幼子の命。
そして大叔父は空から降ってきた不気味な物体に魅了されながらも、その時代の学問では対処しきれない厄介なモノ、世界を崩壊させるモノ、その見張り番をしていた大叔父は原子爆弾という呪縛に取り憑かれていたのではないだろうかと思うのです。
人類が未だ見出せない戦争と平和のはざま。本音と建前のジレンマがあり、現実は戦争不可避が事実であります。これから戦争が起きてしまった時に「君たちはどう生きるか」をみなに問うものなんだろうと思います。