地域戦略部には戦略が無い(215)海の幸と俺たちの夜 | cb650r-eのブログ

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海の幸と俺たちの夜


一方、俺は――。
いつも陰で支えてくれる成瀬代理と、天野次長の弟がプロデュースした「対馬あなご専門店」のカウンターにいた。

 


あなご料理を肴に、長崎の離島・壱岐の焼酎をロックで味わっている。

「いやぁ、大阪でもあなごの握りは食べますけど、刺身とか煮あなごなんて初めてですよ」
成瀬代理が感心したように言った。

「ほんとだな。今日だけ特別っていう“対馬の黄金あなご”――俺も初めてだ」

脂ののった白身が舌の上でとろける。
長崎の海の底には、まだまだ宝が眠っている――そんな気がした。

「アジにサバに、地元民が見落としてる食材、まだまだありそうですね」
「そのとおりだ」

俺はグラスをくるりと回し、氷が溶けていく音を聞いた。

そのとき、千﨑部長がやってきた。
「おう、二人とも。おつかれさんだったな」
「いえいえ、我々はサポートしただけです」

「まずは――乾杯だ」
「部長、ワインですか?」
「白ワインは和食にも合うぞ」
「まぁ、そうですよね」

三人のグラスが軽く触れ合い、カランと澄んだ音を立てた。
この二年半の苦労話に花が咲く。
笑い声とともに、あの忙しかった日々が遠く霞んでいく。

やがて――千﨑部長が、ふと真顔になって言った。

「ところで――山本副部長、いくつになった?」
「今年の七月で、還暦を迎えたところです」
「そうだよな」

一拍の間。
俺は、胸の奥がざわめくのを感じた。

「……異動ですか?」
思わず口をついて出た言葉に、千﨑部長はゆっくり頷いた。

「察しがいいな」

焼酎のグラスの中で氷が小さく音を立てる。

 

 

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