かつての“食”の中心地
「もともと築町(つきまち)は、長崎の“食”の中心地でした。
鯨肉の専門店、蒲鉾(かまぼこ)店、からすみ屋、乾物店……老舗が軒を連ねていて、まさに“食文化の交差点”だったんです」
「それを1998年、古い市場を建て替えて、新しい“食の発信基地”として再生したのが――『マルシェつきまち』でした」

「現在は、民間企業が運営するビルの賃貸業務が主ですが……残念ながら、多くの空き店舗を抱え、苦労しています。
賃料が周辺より高いという声もあり、経営体質を見直しながら、競争力ある賃料設定を模索中です」
「なるほど……」
天野次長が、真剣な顔で考え込む。
「思ったより、簡単な話ではなさそうですね。ただ……」
「ただ?」と伊達木社長。
「このインディゴホテルも、最初は“到底無理だろう”と言われていたんですよね?」
「そう。でも、今はこうして実現してる」
伊達木社長が、柔らかく微笑みながら頷いた。
「だから言うの。天野さんなら、できるわ」
そして、力強く言い切った。
「3年――いえ、2年で。『おさかなマルシェ』、一緒に必ず実現させましょう」

その言葉に、天野次長は静かに頷いた。
「分かりました。まずは、大杉と二人で案を練って、部内で相談してみます」
「千﨑部長がどう判断するか、楽しみにしてるわ」
伊達木社長がにっこりと笑う。
「はい、全力を尽くします」
――一夜限りで復活した、ロシア料理の名店「ペチカ」の夜。
会話と料理、笑いと余韻が、まだ静かに続いていた。
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