ここからは……
静かに余韻を楽しんでいると、久保弟シェフがテーブルのそばにやってきた。
「本日の料理は、お口に合いましたでしょうか?」
湯村社長が満足げに微笑む。
「おいしかったよ。料理も、当時の味そのものだね。完全に再現できていた」
女性陣3名も口々に「すごくおいしかった」と続く。
「ありがとうございます」
久保弟は深く頭を下げると、静かに厨房へ戻っていった。
続いて、久保兄がグラスの位置を整えながら、テーブルの上を丁寧に片づけていく。
卓上は再び、凛とした空気に包まれた。
そのタイミングを見計らったように、伊達木社長が口を開く。
「さて……少し、次の話をしましょうか」
その一言に、場の空気が再び引き締まった。
「ここからは、少しだけ“ビジネスの話”をしましょう」
伊達木社長の声に、皆が自然と姿勢を正す。
「早っ……昼に話したことが、その日の夜に具現化するとは。
これが、グローバル企業“フォレスト・トラスト流”のスピード感か……」
天野次長は、心の中でつぶやいた。
そして、湯村社長に、これまでの経緯を簡潔に説明しはじめた。
――実家が対馬のアナゴ商社であること。
――近江町市場の視察。
――長崎の寿司文化、旬アジや旬サバの話。
――アジフライの聖地・松浦のこと……。
湯村社長は頷きながら耳を傾けていたが、やがて静かに口を開いた。
「名刺に書いてある通り、私は『マルシェつきまち』の代表です。
……少し、築町(つきまち)の昔話をしてもよろしいですか?」
一同が静かに頷くと、湯村社長は、ゆっくりと語りはじめた。
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