地域戦略部には戦略が無い(137) | cb650r-eのブログ

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ロシア料理の名店 Pechka

 

「天野さん、代わって」

電話を受け取ると、柔らかく語りかける。

「千﨑さん? 週末、おふたりをご接待することにしたから――そのお返し、ちゃんと考えといてね」
そう言って電話を切ると、何食わぬ顔でスマホを天野に返した。

「……ありがとうございます」
天野次長が小さく頭を下げる。

その後、伊達木社長は、高速道路に乗るや否や、今度は自分のスマホで電話をかけ始めた。
立て続けに。

「もしもし、久保さん? 今夜、空いてる?」
「ええ、ええ、お願いできそう? お兄さんにもお手伝いお願いできるかしら?」
「じゃあ、ホテルには私の方から連絡しておくから」

次にかけた相手にも、同じように。

「湯村さん、お久しぶりです。今夜、ご予定あります?」
「それじゃあ、6時にインディゴ集合で、楽しみにしておいてくださいね」

ひと通り連絡を終えると、伊達木社長は満足そうに、にっこり笑った。

「……楽しい夜になりそうだわ」

「社長、気になりますって! 何が始まるんですか~?」
大杉主任がじりじりと詰め寄る。

伊達木社長は、少しおどけたように肩をすくめて言った。

 



「わかったわよ、わかった。実はね――昔、長崎に“Pechka”っていう老舗のロシア料理店があったの。2020年に惜しまれつつ閉店しちゃったんだけど」

「Pechka……?」

「ロシア語で“печь”。意味は“暖炉”よ。高級とは少し違うけど、センスが良くて、雰囲気も味も、ほんとに素敵なお店だったの」

「へえ……」

「で、今夜。そのPechkaが――インディゴホテルの中に、一夜限りで“復活”するのよ」

 



「……はあ」
天野次長と大杉主任は、情報量の多さに、まだ理解が追いつかない様子で目を見合わせた。

その表情を見て、伊達木社長は満足げに微笑んだ。
ただ、何かを、確かに動き出させようとしていた。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。