どちらにしようかな…。
「さあ、どちらにしましょうか」
宮沢さんが笑顔で尋ねる。

「大杉さん、決めてよ」
天野次長がパスを出す。
「ネーミングだけで選ぶなら『魚市食堂』一択なんですけど……ここはあえて逆張りで、『大漁レストラン旬(とき)』にしましょう!どうです、宮沢さん!」
「大丈夫ですよ、どちらも間違いなくおいしいですから」
軽く肩をすくめた宮沢さんに、大杉主任がズコッとずっこける仕草をしてみせる。
そのまま4人は、「レストラン旬(とき)」へと入っていった。
席につくと、大杉さんがメニューもよく見ずに注文する。
「旬(とき)アジフライ定食、4つください!」
運ばれてきた定食には、ふわふわのアジフライが美しく盛られている。箸をつけた瞬間、伊達木社長が思わず声をあげた。

「おいしい……!」
舌の肥えた彼女の口から出たその一言は、まぎれもない本音だった。
「宮沢さん、“旬”の時期って、いつ頃なんですか?」
「『旬あじ』は4月から8月、『旬さば』は10月から2月ですね」
「なるほど。そりゃあ、うまいはずだわ……。このアジフライ、絶品。ふわふわでサクサク、ほんの少しだけレア感を残した感じが絶妙だわ」
伊達木社長の言葉に、他のメンバーもうなずいている。
「ネットか何かで、松浦市が“アジフライの聖地”って呼ばれてるって記事を見たことがありますよ」
と、大杉主任がふと思い出したように言う。
「そうなんですよ」
宮沢さんが嬉しそうに頷く。
「2019年に、松浦市が“アジフライの聖地”を公式に宣言したんです。それが話題になって、今では観光にも地域振興にも、しっかりとつながっています」

昼のひとときは、旨いものと、ちょっとした地元の誇りとともに、穏やかに流れていった。
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