θ(シータ)?
R1の男が、低い声でぼそっと言った。
「下手なアラ還ライダーは、最高速度制限も60キロにする!」

「……はあ?」
一瞬、何の話か分からず、俺は困惑した。
するとR1の男が、ズイッと俺に詰め寄ってきた。
その迫力に思わず身構えると――
「山ちゃーん、俺のこと忘れたの? 薄情だねぇ〜」
……ん?
今度はトーンを落として、まるで旧友に話しかけるような口ぶり。
だが、俺にはまったく見当がつかなかった。
「36年ぶりか……干支が3周しちゃったもんな」
ますます分からない。
「昔さ、お前のSUZUKI WOLF 250と、俺のTZR250の後方排気で何度も何度も追いかけっこしたろ?」
その瞬間――

「……思い出した! お前、高野山大学の同級生、“θ(シータ)”か!!」
「ようやく気づいたか!」
R1――いや、かつての“シータ”は、満面の笑みを浮かべていた。
※補足しよう。
“θ(シータ)”というあだ名は、大学時代のある出来事から生まれた。
数学の授業中、彼は居眠りしていた。
突然、教授に名を呼ばれて飛び起き、「θ(シータ)です!」と寝ぼけた返答。
教室中が大爆笑に包まれ、それ以来、彼のあだ名は“シータ”になった。
バイクに関しては筋金入りで、当時から「俺、絶対白バイ隊員になる!」と宣言していた。
そして本当に、交通機動隊で白バイに乗る男になったと聞いていた。
「警察はもう退職したのか?」
俺が尋ねると、彼は照れくさそうに頭をかいた。

「おう。今は安全協会のおじちゃんだぜ」
「そりゃ……お似合いだな」
俺が苦笑交じりに言うと、その場にいた全員が、どっと笑った。
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