これまでも、これからも…。仲間たちとK-1
XSRの男が、負けじと前に出てきた。
「山さん、俺のことも……覚えてるよね?」

またもや難題だ。
なんとなく、顔に見覚えはあるが、名前が出てこない。
俺より少し若い――けれど確かに、どこかで……。
「YAMAHAに乗ってるけど、SEED(ホンダ系)を今でも着ているよ。当時はNSR250Rだったからね」
その一言で、記憶の扉がパチンと開いた。
「……わかった、イトケン。伊藤 健一、だな」
「ピンポーン!」
イトケンは、嬉しそうに笑った。
「お前ら、ずっとK-1走ってたのかよ?」
俺がそう聞くと、シータが肩をすくめた。
「まあな。仕事だ家庭だ、抜けてた時期は長かったけどさ」
「俺もです」とイトケン。
時間は流れても、バイクはずっと、心のどこかに残っていたのだ。
「実はな、森から聞いてたんだよ」
シータがニヤニヤしながら言った。
「最近、ネジが何本か抜けた中年ライダーが、峠をせっせと走ってるってな。しかも俺(R1)を目の敵にしてるらしいって」
俺は思わず、森の方を振り返った。
「森~、お前、話を盛りすぎだろ!」

「だってさ、山ちゃんバカだから、そっちの方が面白くなりそうだったんだもん」
わざとらしく怯えたポーズを取る森に、吹き出しそうになりながら怒鳴る。
「アホか、お前は!」
全員が笑った。
自然と、あの頃の空気が戻ってくる――そんな気がした。
シータが一歩前に出て、静かに言った。
「……よーし。儀式は終わったな」
そして、力強く続ける。
「俺たちは、仲間だ。K-1はこの50年間、いつでも、誰でも、初心者でも、楽しく走れるコースであり続けてる」
「安全運転、無理は禁物。……山ちゃん、そこんとこ、ヨロシクな」
「了解!」
俺はまっすぐ彼の目を見て、力強く返した。
天気のいい日曜日。
K-1の風は、まるであのバブルの時代のように、心を軽くしてくれる。
俺は今、あの頃に戻ったような――
なんとも言えない、幸福感と高揚感に包まれていた。
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