K-1のキング復活祭?
俺は静かに、CBをK-1のスタートラインに据えた。
スタートの合図は、ない。
ただ、空気が張り詰めている。
軽く息を整え、ゆっくりとEクラッチを1速に入れる。
アクセル・オン。
どんなに荒く開けようとも、CB650R Eクラッチのリアタイヤにはトルクリミッターが付いている。
空転もウイリーも起きない。
――そう、誰もが容易に、最高のスタートを切れる。
俺は慎重に、様子をうかがいながら第1コーナーへ入っていった。
だが、すぐに――予想外の展開が待っていた。
ミラーいっぱいに映り込んでいたのは、R1……じゃない。
蛍光オレンジのXSRだ。
――こっちが先か?
しかもXSRは、バイクをそれほどバンクさせることもなく、K-1のタイトなコーナーを滑るように抜けていく。
そのライン取りは、あきらかに熟練のものだ。
K-1を知り尽くした者の走り――。
俺は追われるように、必死で走り続けた。
K-1の第一ポイント。短い直線に差しかかったその時――
まるでタイミングを合わせていたかのように、R1がXSRを交わし、俺の背後にピタリとついてきた。
R1の加速は、まさに猛獣。
あの野太いエンジン音が、俺の鼓膜をビリビリと震わせる。
次のカーブは、一般道には珍しい、すり鉢状の特殊なコーナー。
平坦な道の感覚で突っ込めば、一瞬でバランスを崩す。
熟練者でも気を抜けない難所だ。
俺のCB650Rは、頑張ってくれている。
でも正直、CBではR1やXSRの走りを抑えることはできない。
マシン性能も、経験値も――すべてが違う。
できる限りの走りはした。
けれど、K-1の終点が近づいても、一度たりとも距離を離すどころか、
いたるところでアウトから被せられ、並走される始末。
完敗だった。
終点の先にある広い駐車場では、自販機の前に何人かのライダーたちがたむろしていた。
その中に――見覚えのあるバイクを見つける。
「……あ、森君と竹田君だ」

少し気が緩んだ俺は、2人のいるあたりにCBを滑り込ませた。
少し遅れて、R1とXSRも後ろから続いてくる。
「おいおい、山ちゃん。R1とXSRを従えて参上とは……K-1のキング、復活祭か?」
森の軽口に、俺は苦笑いしながらグローブを外す。
「いやいや、そんなもんじゃないよ。むしろ真逆」
心底まいったような声を出して、ヘルメットを脱ぐ。
汗で少し貼りついた髪が、額に落ちた。
R1の男も、XSRの男も、無言でヘルメットを外す。
その顔に、敵意はない。
むしろ――ちょっとだけ、楽しそうに笑っていた。
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