西九州新幹線の謎
「どうしたんですか、樫本さん。何かお悩みで……?」
俺がそう声をかけると、樫本さんはパソコンのモニターをにらみながら、深いため息をついた。
「西九州新幹線の長崎ルートって、開通してますよねぇ?」
「もちろん。たしか2022年に開通したから、もう3年くらい経つよね」
「それが……チケットが買えないんですよ。チケットが」
「えぇっ? 買えないってどういうこと?」
俺と天野次長、大杉主任の3人が、慌てて樫本さんのパソコンを覗き込んでいると、タイミングよく成瀬代理が外出から戻ってきた。
「成瀬代理、西九州新幹線の長崎行きの切符って、新大阪から買えるよな?俺も、鹿児島行きの新幹線のチケット樫本さんに手配してもらったこともあるし。」
「はい。どうかされましたか?」
「いや、それがさ……西九州新幹線の通しチケットが、大阪じゃどうも買えないらしくて」
成瀬代理は、一瞬考えるような素振りを見せたあと、すとんと腑に落ちたようにうなずいた。
「ああ、そういうことですね」
「本当に買えないのか?」
「はい。というのも、西九州新幹線って、まだ“全線開通”してないんですよ」
「開通してない……?」
「佐賀県が建設に反対していて、博多〜武雄温泉間が未着工なんです。だから、博多か新鳥栖で在来線の特急に乗り換えて、武雄温泉駅でようやく新幹線に乗れるんです」
「……なに、それ……」
俺たちは一斉に顔を見合わせた。

「なるほど。部長が“あえて新幹線で行け”って言ったのは、そういうことか」
天野次長が、小さくつぶやく。
「一筋縄ではいかない、っていう意味だったんですね」
「新幹線ができて、鹿児島が近くなったという雰囲気はあるけど、長崎にはそれが全くないもんな」と俺は思わずつぶやいた。。
「それもまた、“長崎らしさ”かもしれませんね」
そう言って、大杉主任が微笑む。
「……諸々含めて――」
天野次長は、ゆっくりと席を立ち、天井を仰ぎ見ながら言い放った。
「40年ぶりに、故郷・長崎へ行ってまいりますわ!」

次長らの長崎出張を応援する雰囲気が、自然とその場に沸き起こった。
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