オートバイをもう一度(K-1 バトル編 ③) | cb650r-eのブログ

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森の野郎。許さん!

「最近さ。K-1でイキってる還暦ジジイのCBがいるって噂、聞いたことあるぜ」

男はバイザーの奥から、俺を真っすぐに見据えてそう言った。

不躾な物言いに、思わずムッとする。

「イキってるつもりはねえけど……まぁ、だいたい合ってるかもな」

少し声が尖った。自分でもわかる。
つい、ムキになって口が滑った。

「ここK-1はな、あんたは知らねえだろうが、昔からの歴史がある。今でも走り屋のメッカだ。好き勝手は許されねえ。……俺より速いってんなら、話は別だけどな」

その時だった。ようやく目の前のマシンに目を凝らすと、
タンクにはYAMAHAのロゴ。フロントカウルには、まるでMotoGPマシンのようなウイング。
そこに、このマシンの正体が貼ってあった。

 



「……R1か」

そう言った俺に、男は軽く肩をすくめてこう返した。

「そう。これは“乗るR1、あんたが知ってるのは飲むR1”……ってな」

まるで俺を小馬鹿にしたような、ふざけた言い草。

「今日はな、あんたを相手にしてる時間はねえ。でも次に会った時は……Battleだ」

「1000cc、200馬力が……650cc、せいぜい95馬力の相手とバトルして、勝って嬉しいのかね?」俺の皮肉に、男は少しだけトーンを落とし、だがその分、低く重く言い放つ。

「ここはサーキットじゃねえ。峠だ。腕がモノを言う場所だろ。それに、あんた……“自分のCBはR1より速い”って、ここいらで触れ回ってるんじゃないのか?」

……いや、そんなつもりも事実もなかった。
でもまさか……森の野郎。話を盛りに盛って、尾ひれつけて広めやがったな?

男はすでにエンジンに手をかけていた。

その背中に向かって、俺は一言、声を張った。

「――じゃあ、近いうちに“K-1最速の男”とやらの走り。しっかり拝ませてもらうぜ」

ヘルメット越しで表情までは読めない。
だが、ほんの一瞬。ニヤリと笑ったように見えた。

そして、R1は火を噴くような加速で、K-1から離れていった。

まるで、音を置き去りにしていくかのように。

 

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