梅雨の晴れ間の出来事
梅雨のはずなのに、今日は妙にいい天気だ。
俺は空を見上げながら、そんなことを考えていた。
木のベンチに腰を下ろし、スマホをいじっていると、
K-1の奥の方から、甲高いエンジン音が山に反響して届いてきた。
「インライン・フォアか……?」
思わず、口をついて出た。
それも、ただの4発じゃない。大排気量特有の図太い咆哮――ボリュームが違う。
音は一気に近づいてきた。
ただ走っているだけじゃない。明らかに、こっちを――俺を、見ている。
視界の奥から現れたのは、ブラックのフルカウルマシンだった。
車種は……遠目じゃわからない。ヘルメットはやけには派手だな。
ただのスポーツじゃない、スーパースポーツタイプだ。
そのバイクは、俺の目の前――ベンチのほんの数メートル先で、ぴたりと止まった。

エンジンが切られると、辺りに静けさが戻る。
まるでさっきまでの爆音が幻だったかのように、木々のざわめきだけが残った。
ライダーはミラーシールドのついたヘルメットに指を添え、
そのままスッとスクリーンを持ち上げた。
中から現れたのは、無表情な男の顔。
鋭く切れた目元。
そして、低い声で、ぽつりと聞いてきた。
「このCBは……あんたのバイクか?」

「……ああ、そうですけど」
俺は一瞬戸惑いながらも、そう返した。
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