ここにも世界一が。
そうこうしているうちに、話もお酒も進み、テーブルの空気はすっかり和やかに。
難しい話はひとまず横に置いて、ただ美味いものを一緒に食べて、笑い合う。これぞ大人の懇親会の真骨頂だ。
少し開けた窓からは、鹿児島の夜風がふわりと入り込む。冷たすぎず、心地よい。水流さんが口を開いた。
「いやあ、いい時間になってきましたね。今夜はこのへんでお開きにしましょうか」
黒豚に森伊蔵、語らいに笑い。すべてが絶妙なバランスで混ざり合った、鹿児島の夜。
こうして、初日の「鹿児島ナイト」は、満腹と満足で幕を閉じた。
店を出る際、水流さんと宮原さんがそろって言った。
「ごちそうさまでした。いやあ、本当に有意義な一日でした」
「いえいえ、あの知見あふれるセッションの謝礼だと思えば、安いもんです」と俺。
タクシーに乗り込み、目指すは今夜の宿「城山観光ホテル」。
シートに沈みながら、スーツの内ポケットから法人カードの利用明細を取り出して確認する。
うむ、これなら大丈夫。
これなら樫本さんも、「今回はセーフですね」と、うなずいてくれるに違いない。
俺はひとり満足気に、夜の車内で悦に浸った。
ホテルのエントランスでは、フロントスタッフが丁寧に迎えてくれた。
チェックインの手続きをしていると、ひとりの男性が近づいてくる。名札には「支配人 田島」とある。
「山本様、ようこそお越しくださいました。千崎部長には、以前たいへんお世話になりまして」
「そうなんですか。それはそれは……」
話しながら、田島さんの案内で同じフロアのエレベーター前に移動した。
「突然ですが……2023年のメジャーリーグ、大谷翔平選手の“兜セレブレーション”って、ご存じですか?」
「もちろん知ってますとも!」と、つい語気を強める俺。
「実はこちらに展示している兜、あれを製作したメーカーさんの作品なんですよ」

目の前に置かれた立派な兜。重厚な存在感が漂い、間近で見ると、まさに芸術品だ。
「……こりゃ、すごいな。見事な造形だ」
旅先で思わぬ“大谷グッズ”に出会った気分だった。
翌朝、ホテルをチェックアウトし、鹿児島中央駅から新幹線「さくら」に乗って、再び大阪へ。
座席に落ち着いたタイミングでスマホに通知が入る。
《お土産はカルカンよろしく。絶対に》
……妻・華からのLINEだ。
はいはい、分かってますよ。「元祖 明石家」の軽羹ですよね。
そんな鹿児島の二日間を胸に、俺は新幹線の窓の外を見ながら、次の視察地に思いを馳せていた。
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