「ネンオシャチエブクトウバシメ」
「山本さん、CB650R Eクラッチの調子はどうです?」と市古店長が俺に話しかけてきた。
「バイクはいいんですけど、あいにくライテクがついていかなくて……。」
市古店長はフロントとリアのタイヤの削れ具合をじっくりと眺めてから、ニヤリと笑った。
「山本さん、まっすぐな道には興味がないんですねぇ。」
「いやいや、たまたま峠を通ることが多いだけで……。」
20分ほどでパンク修理は完了した。俺は修理代を支払い、店を後にする。
時計は3時近くを指していた。
「風も冷たいし、こりゃ『今日はやめとけ』って暗示かな……。」
俺は自分にそう言い聞かせ、峠には向かわず、そのまま自宅へ帰ることにした。
帰り道、俺はひどく反省モードに入っていた。
「バイクのパンクは初めてとはいえ、乗車前の始業点検をすっかり忘れてたな……。」
「いや、これって立派な道路交通法違反じゃないか?」
ふと、30年前に東京のBOXERで江口さんが言っていた言葉を思い出した。
「ネンオシャチエブクトウバシメ」
家に着くころには、さらに気温が下がったように感じた。
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