オートバイをもう一度(143) | cb650r-eのブログ

cb650r-eのブログ

ブログの説明を入力します。

では行こうか。

 

俺は、アポイントの時間の10分前に大阪北病院に到着した。
約束の場所は、病院の理事長室のはずだが、正面玄関前に一人の老人が立っている。
礼服に黒ネクタイ。しっかりとした姿勢で、矍鑠(かくしゃく)としている。

「宇都宮理事長…。でいらっしゃいますね。」
「山本 頴二の息子か。」
「はい、直太郎と申します。」そう言って、俺は名刺を差し出した。
「ふむ、顔がそっくりだな。」
「最近、自分でもそう思うようになりました。」
「医療経営コンサルタントか…。」宇都宮理事長は、名刺を見つめながら低い声でつぶやいた。
「医者ではないのか。」
「経済学部出身です。」
「そうか、そうか…」
「私にも娘と息子がいるが、どちらも医者にはならなかった。いや、正確には「なれなかった」のかもしれないな。」

理事長が言った。「では、行こうか。」

病院の駐車場に停めてあったのは、少し型が古い白いクラウンだった。
事務長が運転席に座っていたが、こちらを見てすぐに降りてきた。
「病院のETCカードを入れてありますのでお使いください。」
彼が、車から降りると、代わりに俺が運転席に乗り込んだ。理事長は助手席の後ろの席に座る。
近畿自動車道を経由して、休憩を挟みながら2時間半の道程だ。
もちろん、俺にカーナビには不要であるが、理事長が後で必要となった場合に備えて、一応セットだけしておいた。

 

このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。