所長…。
さて、大阪である。4月1日、木曜日だ。この日は、何とも言えない妙な緊張感が漂う日だ。通常、社員の4月1日付の異動は3月中旬に通知されるが、今回の俺の異動辞令は新入社員と一緒に発表されるらしい。
俺は人事部のドアをノックしながら思った。「新年度のスタートに、まさかの転勤先でサプライズなんてこともあるのか?」――期待と不安が入り混じる。
ドアを開けると、そこには上釜副部長……いや、上釜部長は見当たらない。そういえば昨年、晴れて部長に昇格していたのだった。副部長の座には、かつて下関支店長だった松島さんが就任している。松島さんは、社内でも、その穏やかな人柄で知られる人格者だ。あの、取手 豪を見事に操り、何度も成績優秀者にした陰の立役者でもある。
「松島副部長、大変ご無沙汰しております」と声をかけると、彼は満面の笑みで迎えてくれた。
「おぉ、山本君、久しぶりだな。東京での活躍、上海での活躍、全部聞いてるぞ。下関支店でも話題だったぞ」
「いえいえ、そんな大したことでは……普通ですよ、普通」
そんなやり取りの最中、奥の部長室のドアが勢いよく開いた。現れたのは、上釜部長だ。
「おい、俺には挨拶もないのか、仮面ライダー」
「いやいや、上釜部長。お久しぶりです。国外追放から、ついに恩赦で戻ってまいりました!」
「相変わらず冗談ばっかり言いやがって。まあいい、中に入れ」
部長室に通され、ソファに腰を下ろすと、上釜部長が少し意外な話を切り出した。
「そういえば、林社長が来たときに言ってたぞ。上海で寺田さんって方に大変お世話になったらしい」
「え、本当ですか?」
「冗談だ。山本が上海で奮闘してたって話の中で、その女性の名前が出てきただけだ」
冗談に振り回されながらも、俺は本題を待った。そしてついに、上釜部長がクリアファイルからB5サイズの辞令を取り出す。
「さて、本題だ。お前の異動先について、これまで保留していたが、ついに本日付で発令する」
辞令を受け取ると、そこにはこう記されていた。
「山本直太郎、貿易投資相談所 所長を命ず。」
このブログの内容はフィクションです。 実在の人物や団体などとは関係ありません。
