オートバイをもう一度(121) | cb650r-eのブログ

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さよなら上海

 

1999年3月。
俺の上海からの帰国の日は、なんとも妙な気分だった。休日だというのに、平賀支店長と中峰所長、そして謝さんがわざわざ上海虹橋空港まで見送りに来てくれたのだ。平賀支店長は「2000年問題が片付くまで」との名目で、上海にもう少し残るらしいが、その顔には「実は居心地がいいんだよな」という本音が透けて見える。

 

俺の後任は、同期の吉富 太郎。あいつとは同期の中でも馬が合う方で、3月の初旬に上海で1週間だけ引き継ぎをした。奥さんも一緒に来るそうで、こっちは気楽だろう。上海の喧騒と吉富の天然ぶりは、いいコンビになりそうだな、と密かに思ったりもした。

 

そんな俺を乗せた伊丹空港行きの飛行機は、午後の陽を浴びながら上海西橋空港を離陸した。窓の外に広がる上海の景色を見下ろしながら、そして最初に上海にやって来た時と同じ揚子江河口の茶色い海を見送りながら、妙に感傷的になっている自分に気づいた。

 

上海は、本当に印象深い街だった。二年間の滞在中、楽しいことばかり――いや、たぶん美化しているだけだけど、それでも「あと一年くらい居てもいいかな」と思ったのは事実だ。

 

伊丹空港に降り立つと、迎えに来てくれたのは華さん、たった一人。彼女の笑顔を見た瞬間、「帰ってきたんだな」と思った。そして同時に、「なんか、あっさりしてんな」と苦笑いがこぼれた。

 

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