皆まで言うな。
3人の上海から大阪への帰りの飛行機での会話。林ご夫妻と華さんは同じ機内で、比較的近い席に座っていた。
上空に達し、シートベルト着用のサインが消えると、林夫人のヤス子さんが立ち上がり、華さんの肩を軽くたたく。
「うちの主人がね、華さんと話したいんですって。ちょっと席、代わってもらってもいいかしら?」
「ええ、もちろん。」
華さんは笑顔で応じると、林社長の隣の席に腰を下ろした。
「実はね、私、山本のご両親と和歌山の高校で同級生だったんだよ。」
林社長は軽く咳払いをしてから、懐かしそうに語り始めた。
「彼の両親、頭が良くてね。父親の頴二君なんてクラスでぶっちぎりのトップ。お母さんもその次でね、なかなかの才女だった。頴二君は京都大学の医学部を目指したんだけど、まあ人生いろいろあってね、二期校、つまり今の後期日程だな、和歌山県立大学の医学部に入った。それでも立派なお医者さんになったよ。お母さんの方は、当時まだ女性が大学に進学するのは珍しかったから、日本交通公社に就職したんだってさ。」
「なるほど、それで?」
華さんが興味深そうに相槌を打つ。
「いや、要するに、山本は両親ほど勉強はできないが、人間としてはまともな男だってことだよ。だからね、大阪貿易の入社試験で彼が落ちそうになったとき、つい、ちょっとだけ口利きをしてやったんだ。」
すると、華さんがにっこり笑って言った。
「あのう、林社長。それって、私と山本さんがお付き合いしたらどうだ、って遠回しに言ってます?」
「おお、察しがいいな。まあ、そんなところだ。」
「それなら心配ご無用です。山本さんはともかく、私、中国の食べ物の美味しさとか、無限にある観光資源にすっかり魅了されちゃいまして。これから二か月に一回ぐらいは上海に通おうかと思ってるんです。次は蘇州あたり行ってみようかな、なんて。ハハハ!」
「そうか、それはいい。もしタイミングが合えば、私たち夫婦もまた上海に行きたいな。上海経由で香港なんてのもいいな。」
そんな話をしているうちに、飛行機は着陸態勢に入り、無事に伊丹空港に到着した。
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