御用の向きは…。
俺たちは、国際部の応接室に通された。俺は、榊原部長とは初対面なので名刺交換した。 「大阪貿易上海支店の副支店長山本と申します。この3月まで東京支店、いや分室にいました。」 「ああ、小川が言っていた、大蔵省国際金融局検査官を滅多打ちにしたというのが君か?」 「そんなの嘘ですよ。」 「まあ、この世界での武勇伝は大げさな方がいいさ。はっはっは。2人とも座った、座った。」
しばらく雑談をした後、榊原部長が冗談ぽく小川部長にたずねた。 「それで、本日の御用の向きはなんだ?」 「大阪貿易香港支店を助けてほしいのです。」 「アジア通貨危機か。」 「そうです。」 「具体的にうちに何ができる?」 「元住銀行の香港支店に米ドル建てのコール(ローン)を1か月間出してもらえませんか。」 「期間は、まあ良しとして、金額は?」 「30本(3千万ドル、約30億円)お願いします。」 「大きく出たな。金額の根拠は?」 「弊社の香港支店は、貿易は殆ど手掛けておらず、主に外貨資産の外債運用をやっていました。私も今回知ったのですが、そのほとんどがアジア各国の政府系ボンド、財閥系のボンドだったんです。ご承知の通り、そのほとんどがデフォルト(債務不履行)見込みで、その総額が約3千万ドルというわけです。一旦、バランスシートを綺麗にして、不良債権の外債を償却します。」 「それでどうする?」 「香港支店は撤退させます。廃店です。」
「そうか。さて、どうしたものか…」しばらく、榊原部長は、あごに手を当てて考えていた。
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