2月上旬のある日
大阪貿易上海支店の平賀支店長の机の電話が鳴った。
「ご無沙汰してます。人事部の上釜です。平賀支店長、お元気ですか。」 「あ、副部長。こちらこそご無沙汰しております。おかげさまで、元気にやっております。」 「野邉副支店長もお元気ですか?」 「えぇ。本人は3月で満期のつもりらしく、帰国の準備を始めてるみたいですが…。」
「まぁ、その線は大丈夫とは思いますが、ひとつ平賀支店長にお願いがございまして…。」 「はぁ、何でしょうか?」 「今月の下旬に入社8年目の社員を一人、研修名目でそちらにお邪魔させます。申し訳ないのですが、2日間、そちらで面倒を見ていただけないでしょうか。」 「わかりました。えーっと、私も、野邉も大丈夫だと思います。」 「すでに、お察しかと思いますが…。」 「つぎの、副支店長候補ですか。」 「はい。それが、なかなかのバカでして…。」
「いいじゃないですか、副部長。中国なんて日本人の常識は全く通じない国ですよ。ここでは、優等生よりも、破天荒ぐらいの方がたくましく生きていけるかもしれませんよ。」 「では、見極めよろしくお願いします。もし、支店長が『ダメ』とご判断されれば、遠慮なくおっしゃってください。」 「わかりました。後日ご連絡します。」
後に聞いた話だが、上海支店にFAXされてきた俺の経歴書を見て平賀さんは思ったそうだ。
「国際業務部 東京分室 山本 直太郎」か。平成2年入社、<資格>大型自動二輪(限定解除)、<特技>バイクでの峠道走行。「おい、おい。こいつ、かなりイカれてるな。」
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