オートバイをもう一度(65) | cb650r-eのブログ

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「CB650R e-clutch」、注文通ってるかな。店長、唄で通して。

 

女将の唄が忘れられない。

 

「二人とも、ついておいで!」と自分の机の上のポーチをひっつかんで、颯爽と国際部を出ようとする有永副部長。久保田さんと俺は、慌ててその後を追いかける。

建物を出るなり、有永さんはキビキビと手を挙げてタクシーを止める。
「山ちゃん、前ね! ほらほら、乗った乗った!」
「運転手さん、神田のやぶ蕎麦まで、行っちゃってください!」

お店に着くと、運よく待たずに席に通された。だが店内は満席だ。

 

店の雰囲気BGS(音量注意;女将の唄がかすかに聞こえます)

 

「ほんと、あんたたちラッキーねぇ!」

席につくなり、有永さんが間髪入れずに注文を飛ばす。

「あなごの白焼き、鴨肉、そばがき、芝海老揚げ、それから日本酒のお銚子を3本! あと、せいろ蕎麦は後で頼むからね!」
「えっ、昼からお酒っすか?」
「何言ってんのよ!これは接待!接・待!『大阪貿易様、新規お取引ありがとうございます~』ってね!」

店内では若女将が注文を唄いながら厨房に通している。
「なんか風情がありますねぇ。初めて来ました、この店。」

俺たちは、つまみの美味しさにやられてしまい、日本酒をおちょこでぐいぐい、差しつ差されつ。気がつけば、すっかり酔っぱらっていた。せいろ蕎麦を食べるころには、かなり、酔っぱらってしまった。

そういえば、有永さんは…新卒で第一東京銀行、そこからアメリカン銀行東京支店に転職、さらにドイツコマーシャル銀行東京支店を経て、今の四菱銀行国際部で働いている――らしい。俺の記憶が確かなら、の話だけど。

久保田さんもかなり酔っている様子。一方の有永さんは、店を出たところで例のPHS携帯電話を取り出し、いきなり大声でしゃべりだした。

「あ、ヒロちゃん!お宅の山ちゃん、しっかり接待しといたからね!こないだのエバンティ奢ってくれたお礼じゃないからねぇ~!」

どうやら相手は小川次長らしい。酔ってても声のデカさは健在だ。

その後、俺たちは四菱銀行に戻った。エントランスを通ると、国際部の同僚が久保田さんを一瞥し、ひと言。
「久保田、酒くせぇ。」

――のどかな時代だった。

結局、俺と久保田さんは2時間ほど応接室でグロッキーなまま過ごす羽目になった。

 

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