断酒を始めて間もないころは、ちょっとした弾みにとにかく酒が飲みたくなって狂おしく感じたりしました。どんな酒でもいい、とにかく酒が飲みたい・・・・。まあそう思いだすと、動き回ったり、水を飲んだり、タバコを吸ったりと、とにかく何とか酒以外のことに意識を向けようとして苦労したものです。
断酒を続けていると、だんだん先に書いたようないわゆる「飲酒欲求」に苛まされることが無くなっていきます。私はいまようやく断酒ほぼ11年と言うところなのですが、飲酒欲求を感じることは無いと言っていいでしょう。断酒を継続しようとしている身にとってはありがたいことです。
しかし、だからと言って酒が飲みたいと思わない訳ではありません。あるシチュエーションにいて、ここではこんな酒がふさわしいな、飲んだらうまいと思うだろうな、そんな気持ちにはなることがあるのです。これを「飲酒願望」と言うのだそうです。
夏の暑い日に、スポーツとか仕事とかでさんざん汗をかいた一日が終わるとき「ここでしっかり冷えたビールをのど越しで味わいたい」なんて言うのは何年断酒しても、感じることだと思います。
寒い日に、身体が芯まで冷え切ってしまったときに、こたつに入って鍋をつつきながら「熱燗で一杯」。これもまた寒い時に体の芯から温まりたいと思ったとき、これを思わずにはいられません。
美味い料理が出てきて、それに合う酒を合わせたい、そんなことがあるものです。新鮮な魚の刺身が出てきたとき、辛口の日本酒のぬる燗がやはり合いそうです。
仙台で海鞘(ほや)を食べさせてもらったことがありましたが、海鞘を食べてから日本酒を飲むとその味が更に引き立てられるのです。あれを思うと、酒なしでは海鞘なんて食べる気にはなりませんね。
これらの「飲酒願望」はかつて味わった美味しい記憶、素晴らしかった官能の記憶があってそれをまた感じたいというもので、その記憶がある限り、いつまでも湧き上がってくるようで、断酒してもいつまでも起こる感情だそうです。まあこれがあるから何年断酒しても、例会に行って「自分が酒を飲んではいけない身だと再確認する必要があるのでしょう」