TPPと日本の価値
毎日、新聞やニュースを賑わせているTPPだが、製造業か農業かの二元論を超えて、日本の価値は何なのかを改めて見つめなおすことが大切だと思う。
僕は少し前まで中国市場開発の担当で、約5年間、毎年3分の1を北京で仕事していた。
そのときに”MORIO”という、料理も心配りもすばらしい北京の日本食レストランの坂寄盛雄さんというオーナー兼料理長から、とてもいい話を聞いた。
坂寄さんは日本で料理修行した後、友人に誘われて渡米したのをきっかけに、アメリカ、香港で日本食レストランを経営してきて、現在は北京に店をもっている。
従業員は現地で雇用するが、ほとんどは日本に行ったことはない。
日本のきめ細かいサービスをどれだけ教えても、経験したことがないのでなかなか身につかない。
彼らにとっては中国の大ざっぱで心配りのないサービスがスタンダードだからだ。
そこで、磨けば光ると思った中国人従業員を引き連れて日本を経験させるそうだ。
中国人の彼らは、そこで毎日のように、驚きと感動を経験する。
たとえば5人ぐらいで、カウンターだけの店長、店員が2名しかいないような小さなラーメンに入る。
彼らに何を食べるか聞くと、みんな「坂寄さんとおなじものでいいよ」となる。
坂寄さんは「じゃあ、みんな違うものを注文しよう」と提案する。
彼らは「2人しかいないのにかわいそうだよ。同じものにしたほうがいいよ」となる。
坂寄さんは「大丈夫だから」とみんな別のラーメンを注文する。
しばらくすると、5人分がほぼ同時に出てくる。
彼らは「2人しかいないのに何でこんなことができるのか!」と驚くそうだ。
そこで坂寄さんは、「事前の準備を万全にしておくことと、一番時間がかかるものに合わせて他のものを作るようにすれば、2人でもこれぐらいはできるんだよ」と教えるわけであある。
富士山に連れて行った時は、土産物屋で休憩していると、トイレに行った中国人が「坂寄さーん!」と叫んで呼んでいる。
単に製品の技術力や品質とかいったレベルよりも、商品にせよサービスにせよ、こうしたきめ細やかな心配りが世界に誇る日本の価値だと思うし、農業にせよ製造業にせよ、そこに込めた心配りで世界の市場と張り合えば、日本の未来は明るいものになるはずである。
