先に見てきた
あこがれのヴェネチアン・グラス」展:サントリー美術館にも
大量に展示されていた「ゴブレット」というグラスは、
飲食業従事者、特にレストランの方々には身近過ぎるくらいのものですが、

一般の方々には、2005年に公開されたハリー・ポッターの
「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」で、少し記憶に残ったようですね…
$Sherry Museum館長[中瀬航也]のオフィシャル・ブログ-hp
HARRY POTTER AND THE GOBLET OF FIRE

「あこがれのヴェネシアン・グラス展」の展示には
多くの蓋付ゴブレットも展示されていましたが

そもそもこの「ゴブレット」とは、何なのでしょうか?

以前ちょっと調べた事があったのですが、
「飲物と飲み方の事典:1965」には、
ゴブレットGobletとは
「足(土台)と、脚(上下を繋ぐ部分)のある飲料用カップ…
もしくは舟形の大きなボールの形をしたもので…取っ手が無いもの。
その語源はラテン語のCupa(樽)に由来し、
その形は樽を半分にしたような形である…」としています。

ただ、実際は舟形・樽型とは限らず、
今回の展示でも「逆円錐形のゴブレット」も多く見受けられます。

と、舟形は別に「水差し」として
「ネフ・ユーアーNef ewer」という名で16世紀に誕生しており、
この形状で興味深いのは
スペインのカンティールやポロン同様注ぎ口が小さく
中の水が勢い良く出てくるようになっている事ですね…
$Sherry Museum館長[中瀬航也]のオフィシャル・ブログ-nef
photo by British Museum.


また「イラスト入りグラス事典:1977」を開いてみると…
ゴブレットGobletとは「大きめのボールを備えた飲料用のグラスで、
基本的に20㎝-25㎝と高く、時に45㎝に。ステム(脚部分)は様々だが、
主として16-17世紀に誕生したものである…」とあり、

要は「飲料用及び装飾用のグラスで、全体に大きく、ステムがある。
また歴史上、装飾品には蓋がついたものもある。」

かと思いきや、

C.S.ロッシュ著の「ソムリエ:1987」に掲載されているグラス集の
「ゴブレGobelet」の形は、足も脚もありません。
SherryMuseum
これは「飲物と飲み方の事典:1965」にあった定義2の方なのでしょう。

ただこの足・脚が無い形は、
英語だと「タンブラー*Tumbler」に似た形になりますネ。
ま、この図の上にはタンブラーは別に紹介されておりますが…

*タンブラーに関しては
非常に面白い話があるので、いずれまた…

しかも、ややこしいのは通常(主として日本のレストランなどでは)で
ゴブレットと言うと、
「お酒用ではなく水用グラスとして置かれている場合が多い」
ことですね。


因みにフランス語で、グラスは「ヴェールVerre」(総称)と言いますが、
フランス語のVer-で始まる単語を見ていくと、
「緑」「真実」「酒精」「ガラス」「(液体を)注ぐ」「輪生」「美徳」「才気」など、
ある一定の「自然的な力」を感じさせる単語が多いのは興味深い事実ですね…

そしてまた、かつて蓋があったのも、
その「力」を封じ込める様な象徴的な意味合いか、
もしくは経験的に酸化という現象を体感していたのかもしれない…
などと考えるとますます興味は深まっていきます…

一方、フランス語の「ゴブレGobelet」は、
「(脚も取っ手も無い)コップ」と定義され、
関係性のありそうな単語には
同様の意味の「ゴデGodet」や、「丸飲みする」という意味の「ゴベGober」、
そして何より興味深いのは「生意気な若者」を意味する
「ゴデリロGodelureau」という単語があることから、

飛躍し過ぎ/こじつけではありますが、
単語こそフランス語と英語で違うものの
「ハリー・ポッター」の中で描かれたゴブレットが持つ意味合い?は、
この物語が、そもそも魔法学校の話であり、錬金術が関係してくるとなると、
もしかしたらこの辺が、物語のヒントになっているのかもしれませんネ…


それからスペイン語で、グラスは「コパCopa」(総称)と言いますが、
$Sherry Museum館長[中瀬航也]のオフィシャル・ブログ-glass5
photo by Larousse Vinos de España:1999
これは既出のラテン語のCupa(樽)からの派生とみていいでしょう。


一方Gobletという英語を分解すると、
Gobは、「口に関係した意味合い」があり、
letは、いわゆる指小辞で「小さい~」の様な意味合いがありますが、
Gobはもしかしたら
少量、一滴、一固まりを意味する「Gobbet」に関係するのかもしれません。
Gobbet+Let=Gobletの様な…ま、あくまでも仮説ですが…


つまり先に述べたようにGobletの語源のCupaが樽ならば、
時代と国に区別なく定義づけると、語源の「樽*」を基準として、
「小さい樽状のもの」となるのかもしれません…

つまり、ゴブレットの定義は広く、
決して水用ともワイン用とも決まっていない、
共通しているのは、その「語源」と
大まかに言う「形」だけ、という事になりますね。

*つまりギリシャ時代のアンフォラAmphora(大型ワイン容器)や
キュリックスkylix(飲料用小型器)様に取っ手は無い。


ということで、グラス一つ追っかけてみても、
グラスの歴史や語源、各国の派生と、現代の扱い方などがあり、
誠に面白く興味深いと思い、ついつい本を買ってしまう癖が抜けない
今日この頃でございます…(汗;


では、今一度
「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」
を見てみますか?(笑

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