長い冬に終わりを告げ春を運んでくる南風がこの国でイチバン最初に訪れる街で、南風は少女に出会いました。
長い髪の大きなひとみのとてもかわいい少女です。
ひとめ会ったときからふたりは強く惹かれあい、あっという間に恋に落ちました。
南風は少女が街が美しく染まる様を見て笑顔になるのがうれしくて、街中駆け回り花を開かせていきました。
そして少女を暖かい風で包んでは春の歌を歌って聞かせました。
少女もまた南風の知らないこの街の話を聞かせてみては一緒に歩いて、ふたりは楽しく笑いあいました。
でもそれもつかの間。
すっかり街が春になってしまった頃には南風は次の街に行かなければならなくなり、ふたりはさよならをする日が来ました。
南風は別れが辛くて胸が張り裂けそうでした。
一方少女は悲しそうな様子も見せず、まるで何も気にしてないかのようです。
南風はその様子に切なくて悲しくて腹が立ってきて思わず少女に声をあらげて言いました。
「君は僕がいなくなっても平気なんだね。」
「そんなことないよ。でもあなたは行かなきゃいけないから、ちゃんと笑って見送るよ。」
「君はそんなに僕のことが好きじゃないから平気なんだろ?」
「違うわ。あなたのことがとても好き。でもどうしようもないでしょ。あなたはいってしまうわ。」
「もし、もしも、君が引き止めてくれるなら僕は行かなかったよ。すべてを捨てて君のそばにいようと思った。でも君は引き止めなかった。君の気持ちがその程度だとわかったから、僕はもう行くよ。」
「引き止めたかったよ。でもダメなの。あなたがここにとどまったらあなたは風じゃなくなってしまう。あなたはあなたでなくなってしまう。風でなくなったあなたはわたしを嫌いになるわ。そして自分のことも嫌いになるわ。あなたは風よ。あなたにあなたでいて欲しいから。わたしはどこにいてもずっとあなたが好きだから。」
「君を失うくらいなら風であることなんて必要ない。こんなものいらないんだ。」と南風は言おうとしてその言葉を飲みました。
少女の切なげな横顔には透明な涙がこぼれていました。
少女の言いたいことは痛いくらいわかっていました。
だから南風は運命を呪う代わりに、最後にまた街中の木々を揺らし、花を散らし、鳥とともに、優しい優しい春の歌を歌いながらそっと少女に吹いていきました。
少女は南風のイチバン大好きな顔で笑って手を振りました。
「また必ず君に会いに来るよ。」
そして南風はまた次の街に春を届けに行きました。
雪を溶かし、木々の芽を息吹かせ、つぼみを開かせ、冷たく冷えた人々の心を暖かく包み込み、色とりどりの花の歌でみんなを笑顔にしながら空を渡っていきました。