監督 ショーン・ダーキン
ジャンル ドラマ 伝記
出演 ザック・エフロン ジェレミー・アレン・ホワイト ハリス・ディキンソン リリー・ジェームズ モーラ・ティアニー ホルト・マッキャラニー スタンリー・シモンズ
鑑賞方法 鑑賞方法 映画館(近所行きつけ)
A24作品というだけで期待値もつい上がってしまうわけですが、その期待を裏切らない十分な見応えのある作品でした。
実話をもとに映画化された内容で、”アイアンクロ―”という必殺技でプロレス界を席巻したフリッツ・フォン・エリックの一家の悲劇を描きます。
彼の子供たちが次男ケヴィンを残して全員次々と亡くなってしまうという痛ましい出来事について、病的なまでの「有害な男らしさ」にとらわれた父親とその影響下で同じ”病気”に毒されていく子供たちがその病魔によって命を落としてゆく、という構図で話は進み、一人残されたケヴィンが悩みながらも勇気をもってその危険なゲームから身を引いたことで命を落とさずにすんだ、と解釈できます。
彼ら一家に限らず、世の男性というのは多かれ少なかれ「男らしさ」という呪縛に囚われて生きているともいえるでしょう。
きっかけは”転んだ時に泣かないのを母親に褒められた”といったささいな成功体験がやがて積み重なったものかもしれません。
女性にとっての「女らしさ」同様、あるべき”自分らしさ”の檻の中で男性は「男らしさ」を誰もが演じてもがき続けるのだと思います。
そんな死に至る危険さえ伴う有害な思考に対して「有害な男らしさ」という呼称で警鐘を鳴らされることが増えた近年ではありますが、文学、映画など様々な芸術では感動をもたらす舞台装置として利用され、いまだにその呪縛をかけ続けているといえます。例えば少年ジャンプの漫画に求められるという『努力・友情・勝利』という王道ストーリーも作品に人気が出て回を重ねるうちにインフレが起きて暴走しがち。『どんなことにも耐え抜く・無謀でも仲間との約束を果たすために自分を犠牲にしてでも立ち向かう・競う相手をどんな手段を使ってでも打ち負かして勝つ』という強固な思想に変格され、しかも困ったことにこのようなストーリーの主人公に人は感銘を受け、憧れてしまう性質があります。
『アイアンクロ―』はそのような文学・映画にありがちなストーリーの行き着く先の悲劇を描き、その呪縛から解放されて生きる脱出劇を世に問うています。
米国が世界の警察の立場から身を引き、自由のために戦うことも辞さない民主党ではなく米国人の利益を最優先する共和党のトランプを再び選ぼうとする米国の空気感という意味でもイマっぽい映画です。
当ブログとしては劇中歌にも触れておきたいのですが、
"Thank God I'm a Country Boy"John Denver
は大好きな歌でかかったときこれに合わせて踊る兄弟たちのように心躍りましたね。あとは
"Texas (When I Die) "Tanya Tucker
も大好きな曲。