2010年世界レコード産業の実績 | ポップ・ミュージックのトリコ

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流行音楽を聴きながら、人生を音楽で豊かにしたいと願う、私的でミーハーなブログです。

今年も昨年に引き続き、IFPI(国際レコード産業連盟)が発表した世界レコード産業の10年売上実績を取り上げます。
報告によると、世界レコード産業の売上は、パッケージ売上で前年比14%減となる104億ドル、配信による売上は前年比5%増となる46億ドル、それに権利収入9億ドルを加えて、合計159億ドルで前年比8%減とのこと。
音楽配信による売り上げや権利収入の伸びが鈍化している上に、パッケージ売上の減少も続き依然として厳しい状況が続いています。

国別で見るとトップ5は今年も相変わらずの5国。 
1位 米国(08年:61億ドル⇒09年:46億ドル⇒10年:42億ドル)世界市場シェア26%
2位 日本(08年:40億ドル⇒09年:41億ドル⇒10年:40億ドル)世界市場シェア25%
3位 独国(08年:16億ドル⇒09年:15億ドル⇒10年:14億ドル)世界市場シェア9%
4位 英国(08年:18億ドル⇒09年:16億ドル⇒10年:14億ドル)世界市場シェア9%
5位 仏国(08年:11億ドル⇒09年:9億ドル⇒10年:9億ドル)世界市場シェア5%

特に米国の売り上げのシュリンクが凄まじく、トップ5カ国での世界レコード産業売上のシェアが4分の3を割ってしまいました。リーマンショックから抜け出せない米国の状況が色濃く出ています。

その米国と日本の落ち込みが世界音楽売上の減少の約57%を占めています。
パッケージ離れと音楽配信への移行が進み、世界の総売上の4分の1以上が音楽配信によるものになりました。
最大市場の米国ではパッケージ売上が20億ドル、配信売上が20億ドルとついに拮抗する状況に。
楽曲あたりの単価を考慮すると、音楽はすっかりインターネットを通じて消費するものに様変わりしていっています。さらにその48%はインターネットからの楽曲単位の購入となり、アルバム離れも本格的な流れとなっています。
昨々年、世界一パッケージ売上の高い国になった日本ですが、米国の低迷が続くことで、パッケージ売上が29億ドルで世界で断突のCD大国ということになっています。
また、世界最大の音楽産業大国である米国との差がいよいよ2億ドル程度となり、今年の状況を見ると、いよいよ日本が世界最大の音楽産業大国になることが、現実のものとなりそうです。
配信音楽では特にモバイル分野の成長の鈍化が世界的な傾向となり、その先進国であった日本でも、いわゆる”着うたフル”のカテゴリーの前年割れが、色濃く出始めています。

これまで日本に続く、世界3位のポジションを長年キープしていた英国が、独国に敗れ4位に落ちました。
英国の不調もさることながら、CD売り上げが堅調だった独国が日本と同様に大きく業績を落とさなかったことが要因ですが、英国といえば、米国に続くポピュラー音楽大国として、大きな影響力を持つ国。かつて英国出身のビートルズはデビュー前にドイツのハンブルグへドサ回りをした過去がありましたが、こうなってくると、今後はドイツは米国、日本に次ぐ、重要なツアー先として世界からアーティストが押し寄せることになりそうです。

昨年も世界的に音楽売上が低迷したのですが、それでもいくつかの国では10%以上の伸びを示しました。
今年も去年に引き続き、韓国が12%の大成長。それにインドが17%の急成長を遂げています。
アジア市場の成長が急ピッチで進みますが、それぞれ世界12位と14位で、まだまだ上位5カ国の牙城を揺るがす存在になるには、このペースで成長しても10年程かかるでしょう。

英国・米国・仏国が不調で、日本・独国が堅調という状況は、何やら第2次世界大戦開戦当初の連合国VS枢軸国情勢のようで興味深いです。

日本・独国は大戦で敗戦して以来、長く米国支配下の国際社会では胸を張って歩くことができにくかった訳ですが、音楽産業という、文化的な分野をリードしつつあるのは心強いです。
軍事面や製造業などこれまでの20世紀的な大国のセオリーではなく、21世紀の先進国らしいエンタメ産業によって注目されることは価値あることだと思います。

音楽産業は、映画産業より先に、インターネットの普及によって、大きな影響を受けてシュリンクしてしまった産業ではありますが、著作権管理が機能しはじめ、いよいよ反転攻勢に出る時期になったと最近注目を受け始めています。
21世紀のエンタメ産業を主導する役割を米国・英国とともに果たすことも、日本・独国が求められる責務でしょう。

インターネットという空中戦ではサブスプリクション型のサービスが3度目の正直とばかり、いよいよ軌道に乗りつつあります。しかしパッケージ販売を完全に駆逐する勢いには程遠いです。
今年は日本・独国という、パッケージ販売を大事にした国がきちんと業績を守りました。
これは何も旧態依然としていたからではなく、新しい時代のパッケージ販売を両国がきちんと考えてきた結果が出たものだと思います。

Tokio Hotelなんかは、日本のヴィジュアルバンドをうまく取り入れて、いまやヨーロッパ中で大人気。YouTube全盛の昨今、いわゆる”絵つき”と呼ばれる本人映像ありきの現在の音楽産業に則した現象と思います。

最近の日本でのパッケージ販売手法、つまり多種販売は、いまや、米国のトップアーティストでも、初回限定盤、DVD特典付や、サイン入り限定盤などで、積極的に取り入れられ始めています。これからは握手権特典という、まるでグリコのキャラメルのような、CDのおまけなのか、CDがおまけなのか、という販売手法も何らかの形で世界が模倣しはじめるのではないでしょうか。

グリコのキャラメルのことを悪く言う菓子メーカーはありません。
そもそもグリコは、戦前にコインを入れたら数秒の間、動画を見られる専用の自動販売機をつくったこともあるほど、”キャラメル屋”ではなく、子供に夢を与える会社でした。
その自動販売機の動画の続きが見たいから、子供たちは自販機にコインを入れ続けたといいます。
昭和初頭の当時の技術で動画再生の自販機なんて、あまりにも斬新です。今の世の中でさえ見かけない、まさに夢の機械です。
グリコキャラメル自体、子供に必要な栄養源をお菓子にするという高い理念で作られたものです。

切り口は何だっていい、いいもの、おもしろいもの、新しい価値観を届けたい。

こんな単純な動機こそが、今までだって、これからだって、あらゆる産業の基本にあるのだと思います。