
このアルバムは、『ペット・サウンズ』か『サージェント・ペパーズ』か『サタニック・マジェスティーズ』か?
まず、Tペインのオートチューン・エフェクトに影響を受けたのには違いありませんが、サイケデリック時代の大物たちの競争のように、カニエの創作意欲は、”俺ならこのサウンドをこう使う”という明らかにアーティストとしてのライバル意識が働いているように感じます。
Tペインの1作目のタイトルが『Rappa Ternt Sanga』(=ラッパーからシンガーへ)だったように、このアルバムでカニエはうたっています。
"Love Lockdown"
最近カニエが凝っているビートへのこだわりが感じられるアフリカン・ビートの導入が”ロボ声”とのミックスで、ただのワールド・ビート志向に終わらせない仕上がりになっているあたり、相変わらずの絶妙なさじ加減。聴かせますねぇ。
"Heartless"
ノーIDをプロデューサーに迎えての一曲。このカニエという人は、自身がプロデューサーでありながら、自分の領域というものをしっかり把握していて、曲によっては、大胆に外部の手を借りるのが得意ですね。今回のアルバムではそのメインのパートナーはノーID。ヒップホップから逸脱しそうな曲想を、きちんと引き戻して破綻しないように引き止めています。
もし、このアルバムが無ければ、現在のエレクトロ・サウンドのブームは音楽史上の徒花的な側面が強調されることになったでしょう。カニエがこのトレンドをきちんと丁寧に受け止めて処理した本作がリリースされたお陰で、ずいぶん歴史的な認識も変わると思われます。
Tペインという男の功績を、埋もれることなく後世に語り継がれるようにするためにも、本作は必要でした。カニエの時代を見つめる目、未来を見据える目のもたらした要諦の1枚です。