昨年は、洋楽のデジタル化はさらに拍車がかかり、ビートも一段と加速して単純化、かつてのハウス・ミュージックもようなものも、多数登場しました。メロウなバラードでも同様に、ビートはチープとも取れるほど、単純なシンセ音で表現されることが増えました。昨年予測した、ニュー・ジャック・スウィングの再来のような、シンコペートするビートの席捲には至りませんでしたが、ファッションなどには、すでにその萌芽がみられます。さて今年も、音楽の流行の20年周期説を採る私は、今から20年前の、1989年、さらに20年前の1969年を振り返って、今年の流行を占ってみたいと思います。
1969年
A:横軸(流行の拡がり)
"Hoky Tonk Women"Rolling Stones
ロック界の雄、ローリング・ストーンズがたどり着いた世界は南部の泥臭いサウンド。もともとR&Bのバンドであった彼らだけにその咀嚼力も並はずれています。
B:縦軸(芸術性の高さ)
"Suite: Judy Blue Eyes"Crosby, Stills & Nash
美しいコーラスワークに乗せて歌われるロック賛歌。シンプルで素朴なサウンドが身にしみます。
C:奥行き(流行音楽の深さ)
"Proud Mary"Creedence Clearwater Revival
CCRの登場は、当時のアーティストの多くが、アメリカ南部への視線を強めていることが決定的なものになりました。サイケデリックなものに向かって、行き着くところまで行った最先端のサウンドが、ルーツを求めて180度旋回し始めます。
1989年
A:横軸(流行の拡がり)
"Like a Prayer"Madonna
80年代を代表するダンス・ポップの歌姫として君臨していたマドンナが、ショーン・ペンとの離婚後に発表したアルバムの主題曲。これまでの方向とは明らかに違う、ゴスペルのコーラスを配した圧倒的な迫力に、みな度肝を抜かれました。これらと期を同じくして、ジョージ・マイケルら大物達のブラック・ミュージックへの傾倒にも拍車がかかり、頂上からシーンが変わってゆきました。
B:縦軸(芸術性の高さ)
"Fight the Power"Public Enemy
世間がヒップ・ホップの持つ音楽性に、ダンス・ミュージックとしてだけでなく、攻撃的なメッセージ性も持ち合わせることの可能な、ロックに変わる新しいメインストリーム・ミュージックになる要素があると予感させた曲。
C:奥行き(流行音楽の深さ)
"Batdance"Prince
80年代のサウンドを牽引してきたプリンスがティム・バートンのリクエストに応えて作ったサントラはハウスとロックのミクスチャー。奇天烈な彼ならではのバキバキなサウンド。
20年前、40年前の流れから見ると、北部的な洗練された都会的なサウンドに限界が見え始め、南部的な泥臭いグルーヴに注目が集まり、クロスオーヴァー化していたシーンが、潮を引くように、原点回帰の方向へ舵が切られています。また、シンセの流行もかなりタイトなビートに乗せたハウスへの進化が顕著。
89年には、フィル・コリンズが”アナザー・デイ・イン・パラダイス”という曲をチャートの1位に送り込んでいますが、彼は80年代には、なんとブラック・ミュージックのマーケットでも成功しています。ブラック・ミュージックのラジオ局でも、ガンガン彼の曲やジョージ・マイケルの曲が流れていたのです。『リズム&ブルースの死』という本の著者であるネルソン・ジョージは、彼の息子が、そのフィル・コリンズをの音楽を”グルーヴィ”だと言って享受している様子に、ソウル・ミュージックの終焉を感じていたそうですが、ヒップホップがそれを蘇生しました。
今年の音楽の流れとしては、グルーヴ感を前面に出したサウンドが復権の兆しを見せ始め、次の2010年代が、ラフで、ダウナーな音楽が活躍することを予感させるヒット曲が登場すると予測します。
ブラック・ミュージックは今度はどのように蘇生するのか?
さて、実際にはどうなることやら?