映画ネタが先行してしまっていて音楽ネタをあまりやれてません。
これはやっぱり配信の時代ならではの弊害で、アルバム作品が現物といて世間に流通しないのでなんだか空気みたいになってしまっていることに起因すると思います。
プリンスのアルバムに『Sign o' the Times(時代の象徴)』っていうものがありますが、そういうまさに『時代の象徴』として音楽作品があまり機能しにくくなってますよね。
かつて音楽ブログを始めるときに、その当時から映画は好きでしたが、音楽をやらなくなって、映画に傾倒するのは時代への対応をあきらめてしまったことに等しいので避けようと思っていましたが、ブログ再開以降、そちらがメインになりつつあり、読まれてる記事もそちらの方が多くなっています。
ちょっとそれはそれでこのブログの存在価値の空洞化につながるので、紹介する作品の自分の中のハードル設定を変えていこうかな、と思っています。
幸いにも一時期よりもシングルだけ出てアルバムは一向に出ないし出たとしてもヒットした曲は収録されない、という1950年代のような情勢からは抜け出しつつあるので、その機運も活用して音楽のネタもキチンと書いていきたいな、と思っています。
で、エミネムの新作アルバムです。
ヒップホップもチャートをにぎわすようになってから30~40年経ち、ヒップホップ作品を取り上げるからと言って、それが必ずしも時代の最先端のカルチャーを取り上げることにはならなくなっています。
エミネムだってもうブレイクから4半世紀が経過し、今取り上げることは80年代にチャック・ベリーを取り上げるようなタイムスリップ感もありますが、やっぱりいいと思うものはためらわずに紹介したいので臆せずピックアップします。
嬉しいのはメインのプロダクションが、エミネムの本来のチームに戻っていること。
過去の低迷期にプロダクションチームを新しい時代の作家人に変えて”リカバリー”して、再ブレイクを果たしたときに、個人的にはあまりうれしくなかったので、個人的には大歓迎。
その分一般的な評価では本作は傷ましいほどの酷評も見ますが、彼のディスコグラフィーを後の時代に見返したとき、きっとこちらの方が文脈的に重要度を増すはずです。
借り物競争のように、制作陣を取り換えて時代にうまく寄り添っていくこともセールス的には大事で、売れないと価値が認められないのは資本主義社会では当然のルールですが、本当に彼の骨の髄から染み出したような作品をやっぱり聴きたいし残してほしい。
かつてデヴィッド・フォスターがスティーヴィー・ワンダーについて、自分にプロデュースを任せてくれれば、きっとヒット作が作れると90年代に語っていましたが、個人的にはそんなことでスティーヴィー・ワンダーがヒット曲を出したとして、誰が得をするのか?と感じました。
老舗ラーメン店が、時代に合わせて味を改良してきたものとは別に、創業時代の味を復刻したものをメニューに加えることがありますが、本作は特にそういう風合いを感じます。
頑固おやじのこだわりの懐かしい味をしっかり噛みしめるように本作は敬意をもって鑑賞したいものです。
その結果がアホみたいなスリム・シェイディの不謹慎ネタ満載の寸劇というのがこれまたバカバカしくていかにもエミネムらしい!題名によるとスリム・シェイディはもう死んでしまうそうですが(笑)
アルバム冒頭はいきなり”ルネッサーンス!”ですよ。
重いビートにマイナー調のピアノが重なる不穏で緊迫感のあるトラック。これに緊迫感のあるラップが乗ればそう、古き良き時代のエミネムです。
いやいやこういうノリですよ。これが聴きたかったヤツですよ!
ブレイク当時はさすがに同じような曲ばっかりで聴き飽きたとさえ感じていたのに、今はこういうのがメチャクチャ面白い。つくづく消費する側の判断は勝手なものです。
"Lucifer" (featuring Sly Pyper)
そしてドクター・ドレも参戦ですよ。
彼もいかにもなドレのトラックを用意。さすがにドレの最高傑作リストに載るような曲ではないですが、エミネムには毎度いいトラックをあつらえてきます。
"Antichrist" (featuring Bizarre)
これ好きです。これまでのエミネムっぽさはあるもののちゃんと新しさもあります。
クラシックカーの外見はそのままにガッツリカスタマイズしてメッキパーツでや豪華な内装でイカツイ仕様に仕上げた感じ。
"Road Rage" (featuring Dem Jointz and Sly Pyper)
ドクター・ドレがもう一曲。
確かにドレのトラックに違いない感触なのですが、なにやらちょっと変わった感じ。
まあドレはプロデュースに常に新しいパートナーを加えてきちんと進化を続けてますから驚くことではないんですけど。
"Houdini"
驚いたのはむしろこの曲を最初に聴いた時。
ちゃんとまともな評価をしてもらいたいならこの曲は切らないでしょう。
誰が何を言ってこようが気にしない、ということを宣言するようなダサいにもほどがあるスティーブ・ミラー・バンドの”アブラカダブラ”ネタ。
まさにスティーブ・ミラー・バンド自体がそれまでの硬派なイメージををかなぐり捨てて放ったのがこの下らないポルノ雑誌のグラビア写真の女の子について歌った低俗でポップな曲だったので完全にその潔いバカバカしさを意識したのでしょう。
こちらは有名なヒット曲の2というタイトルですが、トラック的にはエミネムマナーからはちょっと離れた感じ。
でも20年代文脈のトラックでは決してないのは90年代からドレと組んできたFredwreckがプロデュースだから。
まあ、デス・ロウあたりのキナ臭い音がしてます。
"Head Honcho" (featuring Ez Mil)
これもちょっと新しいエミネム。あくまでエミネム印のトラックなのになんかちゃんと進化してカッコイイ。
"Temporary" (featuring Skylar Grey)
前作アルバムでもいい仕事をしていたスカイラー・グレイのプロデュース。
エミネムと相性いいですね。エミネムが彼女の才覚にほれ込んでいるんでしょう。
"Bad One" (featuring White Gold)
痺れますね。
トラックもいいのですが、ラップのライミングがちゃんと今の感じにアップデートしている箇所も随所にあって、ホント器用な人です。
"Tobey" (featuring BabyTron and Big Sean)
このアルバムの趣向とはちょっと違う曲。