国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」の公表、及び消費者契約法の施行以降、貸し主が敷金から一方的にリフォーム代金などの、本来なら借り主が負担をしなくても良い費用を不当に差し引く例は、徐々に減ってきています。
逆にハウスクリーニング費用や鍵の交換費用、償却などで、予め差し引く金額を設定し、明け渡し後の部屋の状態、鍵の紛失の有無に限らず、敷金から差し引く特約を定めるケースが増えています。
このような特約は消費者契約法10条の“(前略)
消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。”ということに反しないのでしょうか

結論から言えば、その過程と設定する金額などにより有効とされる場合と、無効とされる場合があるようです。
最初の簡易裁判所の裁判では“無効”とされ、控訴した後の地方裁判所の裁判では“有効”とされた例をご紹介します。
■地方裁判所では、どちらの特約も有効という判決が出された(平成21年の判例)
東京都において、貸し主、借り主の間で家賃56,000円のユニットバス付きワンルームを契約した際に、契約時に鍵の交換費用12,600円を特約に基づいて支払い、さらに契約終了時にハウスクリーニング費用として26,250円を敷金から差し引く特約に基づいて差し引かれた金額に対し、いずれの特約も成立しておらず、成立していたとしても消費者契約法10条により無効であるなどと主張して、その返還を求めて借り主が裁判を起こした事例です。
原審(簡易裁判所)では、借り主側の請求が認められたのですが、それに貸し主が控訴しました。
結果、東京地裁は以下の理由で原判決を取り消し、借り主の請求を斥けました。
●ハウスクリーニング費用負担特約について
(1)ハウスクリーニング費用負担特約については、本件契約書、重要事項説明書、東京都の賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書には、契約終了時にハウスクリーニング費用を支払う旨の記載がいずれにも存在すること。
(2)東京都の賃貸住宅紛争防止条例に基づく説明書において、費用負担の一般原則(通常は貸し主が負担するということ)の説明の後に、「例外としての特約について」と題して、ハウスクリーニング費用として26,250円(税込み)を借り主が支払うことが説明されていること。
(3)仲介業者が、借り主に対して、契約締結にあたって契約終了時にハウスクリーニング費用を支払うことを口頭で説明したこと。
(4)「ハウスクリーニング」という文言は、一般に専門業者による清掃作業を意味するということができ、具体的な清掃内容の特定がないとしても、借り主が支払う程度の金額で専門業者による清掃を行なうことが明らかであること。
以上から、貸室の汚損の有無を問わず、契約終了時に貸し主が専門業者による清掃を実施して、借り主はその費用として26,250円を負担する特約についての合意は成立しているというべきである。
さらに、ハウスクリーニング費用負担特約が消費者契約法10条に違反しているかということについて、「借り主が室内の汚損の有無にかかわらず26,250円を負担するというのは、借り主にとって不利益な面があることは否定できない」、としながらも「このハウスクリーニング費用負担特約は明確に合意されていること、また借り主にとっては退去時に通常の清掃をやらなくても済むこと、その金額についても、賃料月額56,000円の半額以下であり、ワンルームの専門業者による清掃として相応な範囲のものと言えるので、ハウスクリーニング費用負担特約が借り主の利益を一方的に害するとまでいうことはできない」と述べました。
さらに、鍵交換費用負担特約についても、おおむね同様に述べ、特約の合意が成立しており、消費者契約法10条に違反しないとしました。
結果的に借り主は、契約で定められた鍵交換費用を支払い、ハウスクリーニング費用を敷金から差し引かれました。
■通常損耗を借り主に負担させる特約は、有効と判断される場合もある
以上の通り、簡易裁判所では、過去の最高裁の判決以降は、通常損耗を借り主に負担させるという特約は、借り主に二重の負担をさせるという説明を受け、借り主が明確に認識した上で合意した例はほとんどないということから、原状回復の特約の成立、借り主に費用を負担させるということを認めた裁判例は見当たらないようです。
しかし、東京地裁の判決はまったく逆で、ハウスクリーニング特約、鍵交換特約は有効とされました。
キャリープロの【敷金最大返還マニュアル】でも追々ご紹介をしていきますが、敷金返還に対して借り主と貸し主がトラブルになり、話し合いで解決しない場合には、第三者を交えて解決にあたったり、泥沼にはまった場合には裁判などの司法手続きに発展する可能性もありますが、借り主に通常損耗の分まで負担させるという特約については、有効と判断されることもあるということを頭に入れておいて頂きたいと思います。