チャコには事故の記憶がない。



少なからず彼女自身の防衛本能が働いたのだろう。



彼女の父親は非常に手の綺麗なピアニストだったそうだ。



チャコは幼い頃から鍵盤に向かうその手を見てきた。


チャコが手に拘る理由。



まさかこんな形で知ろうとは夢にも思わなかったよ。



居眠り運転のトラックがセンターラインを越えてチャコの父親が運転するアウディに突っ込んできた。



チャコが意識を取り戻した時、彼女は家族を、愛していた家族を失っていた。



その現実を知るや否や彼女は心を閉ざした。



青春の大切な2年間を彼女は病院のベットの上で過ごした。



チャコが見た地獄。



決して救われない心。



1年と半年は完全に言葉すら失っていたそうだ。



1年半ぶりに発した言葉は看護師がいけた、蘭の花を見て、



「キレイ」



と、呟いたそうだ。



突然の孤独。



彼女は一生、苦しみ生きていく運命。



僕だったら生きてる事ができないだろう。



それでもチャコは生きようと、すぐそばにある絶望とともに過ごしていた。



僕は今朝、出会った猫にモモと名付けていた。



チャコの好きな色。



こんな事で君は喜んでくれるかい?



モモと話す事ができるようになれば、きっと君も思い出してくれるよね?



僕の事をさ。