前回の続きだ。

 

【目次】
①成田悠輔「(集団自決は)メタファーではない」
②障碍者殺戮の植松やナチスとの共通点
③経済学者としての無能さ ~高齢者の消費は全消費の4割
④「財政均衡主義」の行きつく先

*「政治学的問題点」だけ知りたいという方は、①②(前回記事)を参照していただきたい。

 

③経済学者としての無能さ ~高齢者の消費は全消費の4割


マスコミには「イェール大学の経済学助教授(実際にはアシスタント・プロフェッサー)」として紹介され持てはやされているため勘違いしている人も多いが、成田は経済学者としても間違っている。

成田は行動経済学やらAI分野などのミクロ経済学が専門で、マクロ経済学はあんまりわかっていない。
一例を示そう。


こんなことは高校生でもわかるはずだが、前年比の伸び率が「横ばい」であるならば10年、20年と累積されれば、2%、3%成長を続ける他先進国と大きな差になる。
彼は、マクロが苦手どころかデータの見方さえわかっていないのだ。


この記事を執筆中にれいわ新選組の山本太郎議員が、国会で成田の件を扱ってくれた。


山本の質問により内閣府の回答から「全消費の39%が高齢者の消費」であることがわかったが、この時、ちょうど私もこの件について本記事で試算していた。

実際の成田による「社会保障費の増大によって財政がひっ迫しているため、高齢者を集団自決させるべきだ」との提起は経済学的に妥当なのだろうか?

高齢者を切腹させ、高齢者向けの社会保障費を無くせば我が国の財政は持ち直し、現役世代の可処分所得が増え、豊かな国になるのだろうか?

もちろんこの考えは「財政均衡主義」という誤った考えが根底にあるが、その点は一端脇に置いておいて、成田の提案をシミュレーションしてみようと思う。

*以下はざっくりとして試算であり、精緻な計算をすれば当然結果も変わるため、あくまでイメージとして捉えてもらいたい。

まず前提として、成田の「老害にはこの世から退場してもらう」という意向を受けて、65歳以上の高齢者全員3224.5万人には集団切腹してもらうことにしよう。
(65歳以上の高齢者の1~2割は働いていおり無生産者ではないが、成田いわく「老害」なので仕方がない)
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202402.pdf
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/gaiyou/s1_2.html
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2023/white_paper_131.html#:~:text=%E4%BA%8C%E4%BA%BA%E4%BB%A5%E4%B8%8A%E3%81%AE%E4%B8%96%E5%B8%AF%E3%81%A8,%E3%81%8F%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82


現在の日本の経済規模と内訳も頭に入れておこう。

・・・・・・・
GDPの支出側の公的部門は148兆6851億円(27%)
家系の支出は311兆1487億円(56.5%)
企業の支出は97兆4144億円(17.7%)
純輸出はマイナス(6兆7178億円)(マイナス1.2%)


出典「令和5年版地方財政白書」第1部 令和3年度の地方財政の状況より
https://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/hakusyo/chihou/r05data/2023data/r05czb01-01.html
・・・・・・・

家計の支出(民間消費)311兆6851億円における65歳以上の高齢者の消費は38.9%なので、金額にして121兆2455億円となる。
これを高齢者の年間支出額とする。

つまり、65歳以上の人を全員自決させると、単純計算でGDPが121兆2455億円減少する。

GDPで測れる部分だけではなく、例えば、農業の就労者の約7割が65歳以上の高齢者なので食料自給率は激減するし、食糧難になるかもしれない。

また、この65歳以上の人達の消費というのは、裏を返せば誰かの所得になっているので、誰かの所得も121兆2455億円ぶん吹っ飛ぶことになる。

少なくとも医療・介護分野の職に就いている人の多くは失業するだろう。高齢者の主な支出先となるスーパーなどの小売業も失業者で溢れかえるだろう。


しかし切腹させられた高齢者の貯蓄する金融資産が消えてなくなることはないので、多くは子供世代が相続するかもしれない。
この相続される金額を正確に把握することはかなり難しいので、リサーチでドツボにハマるのを避けるため簡易的に試算してみよう。(細かい誤りには目をつむってほしい)

まず、60歳以上の平均貯蓄/負債のバランスは[貯蓄1689万円/負債752万円]とわかる。
https://www.stat.go.jp/data/sav/sokuhou/nen/pdf/2022_gai4.pdf

平均的な世帯貯蓄額1689万円の遺産にかかる相続税[1,000万円超から3,000万円以下=15%]から、平均相続額を[(貯蓄1689万円×85%)-負債752万円=796.45万円]としよう。
(この際、切腹させた高齢者のお葬式などは出さないものと仮定する。せっかく生きながらえさせた現役世代の出費を増やすわけにはいかない)
https://gemmed.ghc-j.com/?p=36131

この796.45万円に、[高齢者の総数3617万人÷2(平均世帯人数とする)=1808万世帯]をかけると高齢者の総遺産額、裏返せば現役世代の相続金額の総額は、143兆9168億円となる。

総額にすると随分多く感じるが、高齢者の貯蓄ゼロ世帯が18%も存在し、負債超過の世帯もあるため、相続額がゼロないしマイナスになる現役世帯も同様に約18%生まれることになる。
ちなみに、相続額を一人当たりにならすと1,645,483円となる。
https://allabout.co.jp/gm/gc/493103/


ここまでの試算を加味して考えると、現役世代の所得は総額で約121兆円吹っ飛ぶが、約144兆円分を相続できる。
しかし、そのうち約18%の現役世代は相続額がゼロとなるうえ、相続は1度しか行われないことも考慮しなければならない。
購買力(消費)39%が失われる期間は長期に及ぶだろうから、次の年もその次の年も「需要-39%」の社会が続くということだ。
(遺産相続で資産の増えた人が余計に消費するかもしれないが、遺産ゼロの人の消費停滞により相殺される分もある。加えて現役世代の総所得が4割減ることを考えると需要の停滞は目に見えている)

しかも高齢者が殺戮されることで高齢者就労率の高い農業や漁業などの第一次産業は壊滅的になり、食糧難になるか、供給能力の毀損を原因した高インフレが襲いかかる可能性が高い。
このコストプッシュ・インフレにより、遺産相続できた82%の人の所得もその分奪われるし、遺産相続ゼロの18%の人達はもっと苦しむことになるだろう。
一度失われた供給能力はすぐには復活しないため、慢性的なインフレに悩むかもしれない。

また、国民全体の消費/所得が39%も減るため、企業が多く倒産し失業者が多く生まれ、GDPや経済規模も長期的に縮小する状態が続くことは間違いない。


では、121兆円もの所得を消失させ、失業者を何百万人も出し、インフレの痛みと経済の縮小に苦しみながら、64歳以下の現役世代は遺産相続の他に何を得ることができるだろか?

それは高齢者向けの社会保険料や年金費用になるだろう。

内閣府の「令和5年版高齢社会白書」によると、令和2年度の高齢者関係給付費は83兆1,541億円(年金保険給付費、高齢者医療給付費、老人福祉サービス給付費及び高年齢雇用継続給付費を合わせた額)となる。
https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/s1_1_6.html

この約83兆円の高齢者向け支出の原資すべてが税や年金によって現役世代から徴収されたものではない(国債発行により得たお金も含まれる)が、それがどの程度なのか調べるのは大変だ。
例えば年金支給額の約半分は国費により賄われているので、この高齢者関係給付費約83兆円も、現役世代からの税などによる負担分を半分の41.5兆円と考えよう(ざっくり計算し過ぎて怒られるかもしれないが)

上記のような仮定を置くと、節約される現役世代のお金は41.5兆円となり、可処分所得もそれだけ増大するといえる。

これは大変大きな減税だ。
現在の64歳以下の人口は約8812万人なので、その人達に対し毎年41.5兆円分の減税が行われたとすると、一人当たり47万0949円となる。
https://www.stat.go.jp/data/jinsui/pdf/202402.pdf

しかし逆に言えば、高齢者を3617万人も切腹させたにしては、そんなに儲かるわけではないとの印象を受ける。
加えて言うなら、もう一度前出の議論に立ち戻り、高齢者を殺戮したあとは所得が40%目減りし、その分の消費需要も消し飛んだ世界に我々は住んでいることを思いだしてほしい。

所得が400万円の人なら、40%需要が消し飛んだことによって所得は240万円になっているかもしれない。
その人にとって、徴税されなくても済んだ47万円の価値はいかほどなのだろうか。(所得が減るということは、その分の社会保障徴取料も次の年から減っていくはずだが、計算がややこしいので捨象する)
そもそもが貧乏になってるんだから収入の2割ほどを減税されたからといって、貧乏なものは貧乏なのだ。


さて、ざっくりとではあるがいろんな数字が出そろったので、国民所得恒等式に落とし込んでいこう。

 

・・・・・・・
【前提】
GDPの支出側の公的部門は148兆6851億円(27%)
家系の支出(民間消費)は311兆1487億円(56.5%)
企業の支出(民間投資)は97兆4144億円(17.7%)
純輸出はマイナス(6兆7178億円)(マイナス1.2%)


【現在】
GDP550兆円
 =政府支出149兆 + 民間消費311兆 + 民間投資97兆 + 純輸出-7兆
一人当たりGDP
(GDP550兆円÷総人口1億2399万人は4,435,842円

【高齢者の集団自決後】
GDP227兆円
 =政府支出(149兆-83兆) + 民間消費(311兆-121兆) + 民間投資(97兆-19兆) + 純輸出-7兆(= 66兆+90兆+78兆ー7兆)
一人当たりGDP
(GDP227兆円÷64歳以下の人口8812万人)は2,576,033円
(*需要の4割が消し飛ぶので民間投資も2割減ると仮定したが。もし民間投資が減らなくてもGDPは246兆に激減する)
・・・・・・・


一人当たりGDP2,576,033円は、パナマと同等の規模の国になることを意味する。
パナマの一人当たりGDPは2,594,035円(17,409.63ドル×149円)だ。
ランキングでは世界57位となっている。
https://ecodb.net/ranking/imf_ngdpdpc.html

これは、クロアチア、ポーランド、ウルグアイ、ギリシャ、トリニダード・トバゴ以下の経済貧国になることを意味する。

一人当たりGDPが減るということは、我々の所得が減ることを意味する。

この惨状に加え、上述してきたようにインフレと食糧難、需要減に苦しむ世界が待っていることも付言したい。
(一度切りのボーナス(遺産)を200万円くらい貰える人がいて、年47万円ほどの仮想的な減税効果もある)
これらの影響を加味した試算もできそうだが、膨大な作業になるので諦めることにする。

ちゃんとした数字を試算できず申し訳ないが、マクロ経済はいろんな外部性が存在するので、私のような浅学な人間が容易にシミュレーションできるものではないこともお伝えしたい。
(ご高名な経済学者である成田悠輔氏にとっては、こんなものはAIでも使って簡単にシミュレーション試算できるのだろうが)

とにかく、成田悠輔の「高齢者の集団自決」という経済政策が、経済学的にもいかに愚かなことかは伝わったと思う。

次は最後のチャプターだ。

 

 

④「財政均衡主義」の行きつく先


さて、前項で成田の考えは経済学的にも否定されることを立証した形だが、彼の発想の根本にあるのが「財政均衡主義」となるだろう。
「財政均衡主義」とは、税収と政府の支出の度合いをとんとんにしなければならない、税収だけで政府の支出を支えなければならないとする誤った論理だ。

日本人はこの手を画像をえんえん見せられ洗脳されているが、ハッキリ言ってこれはデマであり、税金や社保料のみで無生産者たる高齢者を支えているわけではない。


「財政均衡主義」が間違っていることは、細かく語るとキリがないので、初めて聞いたという方は、私の室井佑月氏に対するレスのツリーを見ていただきたい。


端的に言うなら、世界の主流学者たちに「国家の財政は租税や租税による返済必須の国債だけを原資にしているのではない」とのコンセンサスがあることがわかるだろう。
今では主流学者の多くも、「金利がGDP成長率以下なら赤字支出できる」、又は一歩進んで「インフレが亢進しない程度であれば赤字支出できる」と、MMT派が主張していたロジックに帰着しつつある。

簡単には、支出に対して税収が足りなくても何の問題もないし、国債発行を続けてもとくに問題はないということだ。(*無制限に支出しても良いという話ではない)

しかし、とっくに否定されているその「財政均衡主義」を現在も振りかざしているのが日本の財務省だ。

繰り返しになるが、成田がなぜ高齢者を集団自決させようとするのかは、「日本の財政は高齢者の社会保障を賄う財政的余力がないから、生きていても無駄な高齢者には死んでもらって口減らししよう」という発想から来るものであり、それは財務省発のデマから来る。

その財務省が成田を広告塔として採用し、自らのデマを拡げようと必死になっている。


この件は予算委でれいわ新選組の山本太郎議員も扱ったが、この場を借りて感謝したい。

成田は当該財務省広報において、MMTやザイム真理教支持者を「ルサンチマンを晴らすために仮想敵を作るっているだけにすぎない。財務省はきちんと説明してほしい」等とし、権力におもねる小者であることを露わにしている。
「高齢の権力者や老害には切腹をもって引退してもらう!」と息巻いている人物が、実際は権力に従順とは、情けない限りだ。

成田の言う「高齢者集団自決」政策とまではいかないが、財務省と共に維新や自民、国民民主らネオリベ政党も「やんわりとした高齢者の集団自決」政策を進めようとしている。

 


私達は、成田悠輔の「高齢者集団自決」政策案を批判しなければならないし、同時に自公維国の「やんわりとした高齢者の集団自決」政策も止めなければならない。
そして、後を絶たないひろゆきや古市、落合のようなネオリベ・インフルエンサーの「高齢者医療縮減案」も批判し続けなければならない。

ありもしないトロッコ問題を想定して、弱い立場の人達を切り捨てさせるようなことをさせてはならない。

なぜならそれは、今回さまざま論じてきたように経済学的に間違ってるし、自分たち現役世代に「所得減という名のブーメラン」として返ってくるからだ。

予算委の場で山本太郎が言っていたように、高齢者や障碍者は「消費の専門家」である。
消費してくれる彼らがいてくれるから、私達は所得を得ることができる。
むしろ彼らには感謝しなければならないのだ。


以上。


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