MMT派のマイケル・ハドソン教授の「負債の罠」ロジックをもとにした「ドル覇権の終焉」シリーズの第6回目。

今回は、BRICSを中心としたグローバルサウスが、ドル覇権を脱して、どのような新しい共通貿易通貨を取り入れようとしているのかをまとめる。

 

シリーズの他の記事はこちらから

ハドソン教授の所感を確認していこう。
 

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アメリカがイギリスから権力を奪ったのは、ウレトンウッズでドルを基軸通貨にした時でした。
すべての権力は、基本的にアメリカの国務省とCIAがウォール街と連携して握っているのですが、これは必ずしもウォール街の経済的利益を代表しているわけではありません。
アメリカは、かつて武力によって他国を侵略し支配していたことが、軍事力を使わずとも単に経済的な力でできることに気づいたのです。
では、ドルはどこへ行くのでしょうか?
ドルは、対ロシア・ルーブルや対中国人民元、その他の通貨との為替レートだけを意味しているのではありません。
IMFや世界銀行など、アメリカが支配する国際機関のシステム全体を指しているのです。
ドルは、単にあなたのポケットに入っているドルというだけではありません。
それは、あらゆる国際組織で唯一、拒否権を持つ米国によって中央集権化された金融システム全体のことなのです。
  - マイケル・ハドソン
2023/08/09 
https://www.youtube.com/watch?v=i6vZaTe-WGU
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以前の記事で引用した鼎談にも出演した、アジアタイムス編集長ペペ・エスコバルによるハドソン教授のインタビュー記事を翻訳したものがある。

ハドソン教授の発言だけ抜粋し抄訳するが、約一年前の発言が、今のBRICS11で俎上に載る議論とその動向とほとんど変わりなく、また将来の議論を提案していることがわかる。

 

 

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▼ マイケル・ハドソン教授 欧米の締め付けから逃れるためのロードマップ
2022/10/09
https://alzhacker.com/michael-hudson-a-roadmap-to-escape-the-wests-stranglehold/

〇ハドソン教授:
BRICSの共通通貨の構想は、既存の加盟国間の通貨スワップ協定から始めなければなりません。ほとんどの貿易は自国通貨で行われます。しかし、避けられない不均衡(収支の黒字と赤字)を解決するために、新しい中央銀行によって人工通貨が作られることになります。

これは表面的には、国際通貨基金 (IMF)が創設した特別引出権 (SDR)のように見えるかもしれません。主に米国の軍事収支の赤字と、南半球の債務者が米国の貸し手に対して負っている債務返済の増大のための資金調達のためです。しかし、この取り決めは、1944年にジョン・メイナード・ケインズが提案した「バンコール」にかなり近いものになるでしょう。赤字国は、特定の割り当てられたバンコールを引き出すことができ、その評価は共通の価格と為替レートの選択によって設定されます。バンコールは(そして自国の通貨は)黒字国への支払いに使われます。

しかし、IMFのSDRシステムとは異なり、この新しい代替的な中央銀行の目的は、単に経済の二極化と債務を助成することではありません。ケインズは、ある国(当時は米国を考えていました)が慢性的な黒字を出した場合、それは保護主義や相互に弾力的な経済を支えることを拒否している証拠であり、経済によって国際収支の均衡や通貨の支えができなくなった国のバンカー債務とともに、その債権の消滅を始めるという原則を提唱したのですです。

今日提案されている取り決めは、確かに加盟銀行間の融資を支援しますが、資本逃避(「左翼」政権が選出されそうなときに、IMF融資の主な用途)を支援する目的ではないし、IMFとそれに代わる世界銀行は、債務者に緊縮政策や反労働政策を課さないでしょう。経済ドクトリンは、食料と基本的必需品の自給を促進し、金融化ではなく、有形農業と産業資本形成を促進するでしょう。

なぜなら、金は数百年にわたる世界の慣行において、許容可能で政治的に中立な商品としてすでに合意されているからです。しかし、金は国内通貨を定義するものではなく、支払い残高を決済する手段でしょう。この残高はもちろん、この銀行に加盟していない西側諸国との貿易や投資にも及ぶでしょう。金は、ユーラシアを中心とした新しい銀行に対する西側諸国の債務残高を決済するための手段として受け入れられるでしょう。1945年以来の危険な慣習であるニューヨークやロンドンではなく、新しい銀行のメンバーの手元に金を保管する限り、西側諸国が簡単に否認できない支払いの手段となります。

このような銀行を設立する会議では、中国は1944年のブレトン・ウッズで米国が享受したのと同様の支配的な立場になるでしょう。しかし、その運営理念は全く異なるものでしょう。その目的は、IMFや世界銀行の政策の特徴である依存関係や民営化買収を避けるために、長期計画や貿易形態が最も適切と思われる加盟国の経済を発展させることにあります。

1,2年前は、本格的な代替通貨、通貨、信用、取引システムを設計する作業は、あまりに複雑で、細部を考え抜くことは困難だと思われていました。しかし、米国の制裁は、そのような議論を現実的に急がせるために必要な触媒であることが証明されました。

ベネズエラのロンドンでの金準備とその米国での投資の没収、米国と欧州に保有するロシアの外貨準備3000億ドルの没収、そして米国の外交政策に抵抗する中国や他の国にも同じことをすると脅したことで、脱ドル化が急務となっています。私は、バルダイ・クラブの論文(ラディカ・デサイとの共著)から、近著『文明の運命』、香港で準備した講義シリーズ、サステナビリティのためのグローバル大学など、多くの点でその論理を説明してきました。

ドル建ての証券を保有することはもちろん、金や欧米への投資も安全な選択肢ではなくなっています。世界は二つの全く異なるタイプの経済に分裂しつつあり、米国の外交官とその欧州の衛星は、破壊的な危機を引き起こすことで自分たちがトップに立つことを期待して、既存の経済秩序を引き裂くことを望んでいることは明らかです。

また、IMFとその緊縮財政計画に服従することは経済的自殺行為であり、世界銀行とその国際依存の新自由主義的教義に従うことは自滅的であることは明らかです。その結果、米ドル建ての返済不可能な債務が積み重なりました。これらの負債は、IMFから信用を借り、アメリカの民営化業者や投機家に経済的に降伏する条件を受け入れない限り、支払うことができません。

自らに課した経済的緊縮から脱する唯一の選択肢は、米国が後援する「自由市場」経済(政府の保護から自由な市場、米国の石油会社や鉱山会社、それに関連する産業や食糧依存による環境被害を回復する政府の能力から自由な市場)のドルの罠からきれいに撤退することです。
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さて、MMT派ハドソン教授「ドル覇権の終焉」シリーズは、今度こそ次回でおしまいとなる。

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