前回の記事では「短期のインフレ抑制」には、れいわ新選組のインフレ対策「①消費税廃止」、「②ガソリン税ゼロ」、「③国民への10万円給付」が正しいことを説明した。

 


この点には元財務相審議官・内閣官房参与で、現駐スイス大使・明治学院大学教授の本田悦朗氏もほぼ同意のようだ。
 


逆に絶対にやってはいけないのが「緊縮財政」と「利上げ」である。

これは、例えば過去の「不況の作り方」の事例を見れば感覚的にも納得できるだろう。

 

 


インフレ対策には、「的を絞った財政政策」が必要となる。特に商品価格を押し上げている分野への減税(消費減税やガソリン税減税)と、供給能力の強化が望ましい。輸入商品に対する関税引き下げも望ましいだろう。

 

利上げで景気後退するアメリカ


インフレ対策には「短期」のものがあれば、「中長期」のものもある。
本記事では「中長期のインフレ対策」について説明したい。

私の考えている短期・中長期のインフレ対策は以下の感じになる。


「インフレなのに余計にインフレになる財政出動するなんてバカなのか!?」
または、「物価上昇を目的とした金融緩和(ゼロ金利政策)を止めないなんて愚の骨頂だ!」
なんていう声が聞こえてきそうだが、その考えこそが間違いなのだ。

そしてその間違った考えを持つ立憲民主党や、経済オンチの方々のインフレ・円安対策の考え方はこのようになる。
「量的金融緩和やコロナ財政出動でお金の量が増えたからインフレになって円安になった!」
または、「日米金利差が拡大したので円安になった!日米金利差を縮小するためには利上げだ!」


ちなみに私は余計な格差を生む過剰な量的金融緩和には反対だし、物価にも殆ど影響を与えないと考えている。
いっぽうで現在のゼロ金利政策には賛成である。
多くの人間が勘違いしているが、金利を低廉に保つのに、現在のような過剰な買いオペは必要ない。
それはMB増加量と金利の推移を追えばおのずと明らかである。


もう一度「円安のメカニズム」をおさらいしてみよう。

立命館大学・松尾匡教授は以下のように説明する。

 

・・・・・・・
いずれにせよ、(米国の利上げの場合は)総需要の過熱がインフレの原因なので、この場合、『中央銀行が金利を上げてお金を借りにくくして総需要を押さえ込む』というのが定石です。
すると、世界的には、少しでも有利にお金を運用するため、金利の高い国にお金が移動します。
そうなると、不況対策で超低金利が不可欠の日本から金利が上がっているアメリカに資金が流れ、円を売ってドルに換えるために円安になります。
松尾匡教授
https://bizspa.jp/post-591770/4/
・・・・・・・


米国が利上げをした理由は「需要が旺盛な好景気だから」である。
それが理由で投資マネーが米国に注がれドル高円安になるのだ。

つまり、端的に言えば「米国が好景気で、日本が不況」だから、ドル高円安になるのだ。
この点が非常に重要だ。日米金利差という指標だけを盲目的に見てはいけない。

特に、「日銀が金利を上げればインフレ抑制され、円安も解消できる!」とする解決策は、あまりにも近視眼的でしかない。
利上げは予期しない悪影響を及ぼす。


松尾教授が、デマンドプル・インフレ時の利上げを「定石」としたのは、それが主流学派の理論であり、非主流派には採用されていないからだろう。

米国では利上げを原因とする「景気後退(リセッション)」が既に織り込み済みである。

 


こうなることがわかっていたので、MMT派は半年以上前に「利上げをしてはいけない」「的を絞った財政政策と規制強化で対応すべき」だと注意喚起していた。
まさに予言的中といったところだろう。


利上げをすると経済に悪影響を与えるほか、逆にインフレになることすらある。
その理由をMMT派のランダル・レイ教授は以下のように説明する。

 

・・・・・・・
【抄訳】
現在信じられている金利政策の理論と逆のことも起こる。
ポール・ボルカーの高金利はインフレを助長し、バーナンキの低金利は、燃料のディスインフレに繋がった。
低金利はインフレを低く抑え、高金利はインフレ圧力を助長することが観測できる。
{中略}
利子はビジネスを行うための大きなコストとなる。企業がコストをカバーしたい限り、彼らはより高い金利コストを消費者に転嫁し、価格を上げることによって中間財の購入を行う。
{中略}
CPIの半分は、エネルギー、食料、住宅購入と金融によって占められている。
したがって、インフレを抑えるように設計されたボルカーの高金利政策は、その推進要素となった。
{中略}
民間部門の負債比率が小さく、民間支出の金利弾力性の見積もりが低い場合、金利を高くしても、金利チャネルを通じて民間支出を大幅に削減することはできない
また、国債の対GDP比が高い場合、利上げによって政府の利払い支出が増加する。
これは民間部門の所得を増加させ、景気を刺激する向きで作用する。



ランダル・レイ教授 :
STILL FLYING BLIND AFTER ALL THESE YEARS: THE FEDERAL RESERVE’S CONTINUING EXPERIMENTS WITH UNOBSERVABLES
https://www.levyinstitute.org/pubs/ppb_156.pdf
・・・・・・・


関西学院大学の朴勝俊教授もマクロ計量モデルの結果からこのように報告する。

 


また、日銀の黒田総裁でさえ、足元の物価上昇について「資源価格上昇によるコストプッシュ型のインフレで、我々が目指す物価上昇とは異なっている」、「今の物価上昇が景気の下押し圧力になっている」、「金融を引き締めると、さらに景気の下押し圧力になる」と述べている。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB1729Q0X10C22A6000000/

黒田総裁もわかっているのだ。
彼がわかってるのか、わかってないのか不明なのは、金融政策ではほぼ物価のコントロールができないことだ。


このような事実があるため、松尾匡教授も「円安進行の根本的な原因は日本の景気回復の遅れです。先述した通り、政府が必要なことにお金をたくさん使い、早急に景気を回復させることが大事です」と利上げに寄らない円安対策を発しているのだ。
https://bizspa.jp/post-591767/3/


松尾教授の言う「(円安対策は)政府が必要なことにお金をたくさん使う」とはいったいどういうことだろうか?

インフレ抑制・円安是正のためにどうすればいいのだろうか?

短期の対策はすでに説明したので、「中長期のインフレ・円安対策」に話を移そう。

 

中長期のインフレ・円安対策「Made In Japanの復活」


端的に説明すると、「的を絞った財政政策」による「国内供給能力の強化」である。
具体的には、例えば「サプライチェーン(供給網)の国内回帰、Made In Japanの復活」だ。

インフレは、大雑把には「需要 > 供給」の時に起こる。
現在のコストプッシュ・インフレは需要に押し上げられるタイプのインフレではないが、いずれにしても供給能力を強化すればインフレを吸収することができる。

供給能力とは、労働力・生産力とも言い換えられる。

エネルギー価格が高騰してるなら自前の再生可能エネルギー供給を増やせばいいじゃない、海外製半導体や蓄電池の供給が滞って価格が上がっているのなら自国で作ればいいじゃない、インフレを吸収する雇用を創出するためにグリーン・ニューディールをやればいいじゃない、人手が足りないのなら中小企業に機械化を促進する助成をすればいいじゃない、ということだ。

供給設備やそこで働く雇用を増やせばインフレは軽減できるというわけだ。

逆に需要を引き上げる政策である現金給付などはあまりやり過ぎると、即時的ではないにしろ物価を上げる効果をもたらすため気をつけなければならない。


スティグリッツやシムズ、ソローら名だたるノーベル経済学賞受賞者17人が、昨年秋に「バイデンの巨額財政支出は逆に中長期的にインフレを低減させる」等とした書簡を大統領に送り、それが公開されている。(*ウ露戦争前のことであることに注意)


これは公共事業、特にインフラ・グリーン産業・介護・教育・研究開発に投資し、仕事を作ることでインフレを中長期的に低減させることができるという論理である。

需給バランスが「需要 < 供給」となればインフレを吸収できる。そのための財政支出だということだ。


多くの日本人が、「財政支出によって貨幣量を増やすとインフレになる」とする20世紀の新自由主義者が提唱した「貨幣数量説」を信じているが、ノーベル経済学者17人にまっこうから否定されているのだから、もう恥ずかしすぎるし考えを改めるべきだろう。
1990年代に流行ったファッションをいまだに着込んでいるくらいの恥ずかしさである。


また、供給力強化政策は、国内へ投資することによって輸出力の強化にもつながるという副次的な産物もうむ。
つまりこれによって、日本企業が円安の恩恵をより多く受けられるようになるということだ。
 (現在は、デフレ下で企業が海外への生産拠点を移し、日本国内の供給力が低下している状態。円安なのに恩恵が受けづらい状態)


供給能力を強化する「サプライチェーンの国内回帰、Made In Japanの復活」のためには、海外に製造拠点を移したモノづくり企業の国内回帰を促す必要がある。

これにはバイデンの「Buy American Plan」政策がヒントになる。

「Buy American」については、最近山本太郎氏が街宣等で口にするようになったので気になっている人も多いだろう。

簡単に言えばこういうことだ。

 

 


次回の記事では、この「バイデンのBuy American Plan」と「岸田の激ショボ経済安全保障」を比較する。



本日はここまで。

ではまた次回!


cargo