1995年にリリースされたCrooklyn Dodgers '95による「Return of the Crooklyn Dodgers」というB-Boyアンセムがある。
この曲はスパイク・リーの映画「クロッカーズ」の挿入曲として、複数のラッパーやプロデューサーらによって企画・制作されたものだが、今なお語り継がれる至極の名曲だ。

この曲ではChub RockとO.C.、Jeru The Damajaという三人のMCがラップしている。
OCとJeruはNation Of Islamからの分家である5 Percenters(The Five-Percent Nation・ Nation of Gods and Earths)で、プロデューサーのPremierも5 Percentersだ。
イントロのヴォイス・サンプルはGuru(5 percenters)とMasta Aceのものと思われる。

90年代後半、若かりし頃の筆者は渋谷のハーレムで開催されていたDaddy's Houseに毎週のように通っていたが、DJのMaster Key氏がこの曲が流すと、チャブ・ロックのリリック「So just die, n××ga, Die, n××ga. You're too black, you can't handle, you're too strong,Get high」の部分をアホみたいに叫んでいたことを思いだす。

今思えば、黒人でもない者が公共の場でNワードを発するのはいかがなものかと思うが、アホだったので仕方がない。


チャブロックのバースだけ以下に翻訳してみよう。
 

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▼ Crooklyn Dodgers '95 - Return of the Crooklyn Dodgers

 


https://genius.com/The-crooklyn-dodgers-return-of-the-crooklyn-dodgers-lyrics
[Verse 1: Chubb Rock]
さて、クロック・キッズ、誰がコカインを手に入れたんだ?
まさかSoul Trainのチビッ子たちじゃないだろうな
脳ミソからアゴに送られるメタファーだ
何かに染まったやつじゃなくなく、別の場所からやってくるんだ
ジャーナリスティックな価値とやらは臆病で、もちろん怪しいもんだ
ビッチなバーバラ・ウォルターズのチャンネル・ゼロでも見てるんだろ
あいつは黒人がクラックを広めたと信じさせようとしてる
リンドン大統領が処方したのは昔のことで
63年にケネディとの間でな、そう、Double cross(裏切り)だね
奴らがケネディの頭を吹っ飛ばした時のことを思い出せよ
ベトナム帰還兵は片腕のペットみたいになって戻ってきた
ニクソンはまじで小切手を不渡りにしたんだ
Picket fence(庭の柵)もねえ、仕事もねえ、8気筒の車もねえよ
ブルーカラーからブルジョアへって
俺たちの胸の内には憂鬱しかねえ
ハッパにデメロール(オピオイド鎮痛薬)、金がねえならクラックの小瓶はもっと安いぜ
白んぼがBushwickの街角で売ってるぜ
白んぼがFlatbushの角で売ってるぜ
白んぼどもがBed-Stuyの片隅で売ってるぜ
そこのニガーにそのTorch(クラック)を渡せよ
そして死ね、ニガー! もっと死ねよ、ニガー!
お前は黒すぎる、お前は強すぎて扱いずらいんだよ
だから飛べ、高く エンジンをかけるんだ
この95年に、エベッツ・フィールドを取り戻すんだ

脚注: 
*Crooklynは基本的にBrooklynの別名。Crips(ギャング)だらけのBrooklynの意味。
*クロック・キッズは映画クロッカーズから
*Picket fence=白い囲い柵:アメリカでは、家や土地を所有していること、つまりアメリカン・ドリームを実現したことの象徴としてとらえられる
*エベッツ・フィールド(Ebbets Field )は、アメリカ合衆国ニューヨーク市ブルックリン区にかつて存在したスタジアム。MLBブルックリン・ドジャース(現ロサンゼルス・ドジャース)のホーム球場である。


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白人たちがメディアで「黒人がストリートでクラックを売りさばいている」と印象操作を行っているが、実際には黒人にクラックを売っているのは白人で、黒人をクラック漬けにして滅ぼそうとしている。こんな状態で貧困から這い上がれってどの口で言うんだ?お前らは強すぎて扱いづらいニガーを殺そうとしてるんだろう?やるんならやってみろよ、という力強いストーリーが綴られている。

このタイプのストーリーは先述したPublic Enemyも扱っている
1988年のアルバム「It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back」の「Night Of The Living Baseheads( https://youtu.be/fyR09SP9qdA )」 では、「黒人をドラッグ売買の無実の罪で逮捕しながら、ウォールストリートの白人金融家たちは警察に捕まらず、のうのうとコカインを常用している『Basehead』じゃないか」として、808系のサイン波ベースが印象的なトラックの上で、BassとBaseをかけたコミカルな暗喩を駆使して攻撃している。(*Baseheadはコカイン中毒の意)

筆者のお気に入りのフレーズ「So just die, n××ga, Die, n××ga. You're too black, you can't handle, you're too strong,Get high」」であるが、これは有名なMalcom Xの「Too Strong, Too Black」の演説の一節も引用したかたちとなる。

マルコムXはNation Of Islamのスポークスマンで、NYのハーレム・モスクの責任者だ。

このマルコムの「Too Strong, Too Black」はオールドスクールのアーティストたちが好んで使用した。
例えば前出のPublic Enemyのヒット曲「Bring The Noise( https://youtu.be/mZF4G79OLkk )」(87年)や、Jungle Brothersの「I'll House You( https://youtu.be/AFGhQSiGHWM )」(1988)にもこのヴォイス・サンプルが使われている。

原典を確認してみよう。
 

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It's just like when you've got some coffee that's too black, which means it's too strong. 
What do you do? You integrate it with cream, you make it weak. 
But if you pour too much cream in it, you won't even know you ever had coffee.
It used to be hot, it becomes cool. It used to be strong, it becomes weak. 
It used to wake you up, now it’ll put you to sleep. 

それは、ブラックすぎるコーヒーを飲んでいるときと同じだ。つまり、強すぎるということだ。
あなたはどうするか? そこに白いクリームを入れて、弱くするかもしれない。
しかし、クリームを入れすぎると、コーヒーを飲んだことすらわからなくなってしまう。
熱かったものが、冷やされる。 強かったものが、弱くなる。
あなたの目を覚ましていたものが、ついには眠りにつけるまでになるのだ。

—「草の根へのメッセージ」スピーチ、1963年11月10日、デトロイト(「Malcolm X Speaks」1965年 第1章に掲載)。
https://genius.com/Malcolm-x-message-to-the-grassroots-annotated
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このハードでストロングなスタイルが、ヒップホッパーたちの心を鷲掴みにするのだ。

90年代中盤までのヒップホップの源流には、必ずマルコムXとNation Of Islamがいた。

その予言的で示唆に富む彼のQuoteをいくつか以下に紹介したい。

 

  *以下のQuoteは、筆者が英文から訳したので、ひょっとしたら間違いがあるかもしれない。

 

 

 

 

 


人間は悲しいときにはたいてい何もしない。

ただ境遇を嘆くだけだ。
しかし人間が怒ったときは、変化がもたらされる。

    マルコム X  - 「マルコムX スピークス」 ジョージ・ブライトマン編集 1965年

 

 

 

 

 


人間狩りをする人々は、覚えておく必要がある。

ジャングルにはハンターを狩る存在がいることを。
    マルコム X   -「マルコムX 自伝」より 1965年

 

 

 

 

資本家になるためには、生き血を吸うための誰かの存在が必要となる。
あなたは彼らを資本家だと言うが、私は吸血鬼だと言う。
彼が資本家である限り、吸血鬼にしかなり得ないのだ。
彼は自分以外の誰か、もしくはどこかから搾取するしかないからだ。

    マルコム X   - オーデュボン舞踏場 1964年12月20日


資本主義が生き残ることは不可能だ。
まず、資本主義システムは生き血をすするための誰かを必要とするからだ。
資本主義はかつてはワシのようだったが、今ではハゲタカのようになっている。
かつては、強いかどうかに関係なく、誰の血でもすするのに十分な強さだった。
しかし今ではハゲタカのように臆病になり、無力な者の血しか吸うことしかできない。
世界の国々が自由になるにしたがって、資本主義の犠牲者が少なくなり、
吸いつく対象も少なくなり、資本主義はますます弱くなっていった。
完全に崩壊するのは時間の問題である。
    マルコム X   - 若い社会主義者のインタビューより 1965年3月から4月

 

 

 

 


白人が過去に手にした最大の武器は、

「分断統治(Divide and Conquer)」の能力であった。
世界の5分の4は白人ではなく、有色人種だ。
しかしどうして5分の1が、多数派である5分の4を支配し、

抑圧し、搾取し、残虐な仕打ちを行うことができるのか?
彼らはどうやったのか? 
それこそが「分断と征服」だ。
私がこの手であなたを叩いても、あなたは何も感じないかもしれない。
この5本の指がバラバラになっていては、痛みを与えられないのだ。
あなたの目を覚ますために私がすべきことは、

この5本の指をしっかりと一緒に揃えることだ。
    マルコム X  - グリーンウッドにて 1962年


植民地勢力が過去に私たちに対して使用した最大の武器は、

常に「分断統治(Divide and Conquer)」の能力であった。
アメリカの戦略は、過去に植民地支配をしていた国が使っていた戦略と同じ「分断と征服」だ。
アメリカは、黒人のリーダーと別の黒人リーダーとを争わせ、黒人の組織同士を争わせるのだ。
目的や目標が違うと信じ込ませるのだ。
    マルコム X   ー Militant Labor Forum. Palm Gardens, New York. 8 April 1964.


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いかがだろうか。
日本の左翼系の活動家なんかはマルコムXや公民権運動を「人種差別との闘い」といういう向きで矮小化してしまう向きがあるが、実際はそうでもない。

初期のマルコムは、その生い立ちの悲惨さから白人を悪魔化し、NOIの教えに沿ってブラック・ネイションの確立を目的としていたが、最晩年期のマルコムは「生き血をすする資本家」やその走狗たるマスコミ、またはシステムそのものとの闘いの中にあった。
 
そこには世界中の黒人やマイノリティーの権利、特に経済的権利を求める姿があったのだ。


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