一昨日のブログの続きです。

先日アップした「池上氏の国の借金デマに反論する」ブログに、珍しく24000弱もの多くのアクセスがあり、その影響でとても良いコメントをいただけましたのでそれにお答えしようと思いました。

コメントの④と⑥は同じ話題(コメ⑥のdanboulさんはコメ④の方の疑問に答えてくれたのだと思います)でしたので、同時にお答えします。
 

コメント④
日本国債が絶対に破綻しないというのなら、税金をやめて国債だけで財政運営したらよろしい。
どうしてそれを言わないの?

あかん 2020-08-19

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コメント⑥
番組スポンサーに抗議します。

税金の役割は、
・景気の自動安定装置
・通貨の購買力の担保
・拡散の是正
・特定のモノやサービスの消費の抑制

等ですかね。

税収があればもちろん予算として使えば良いが、目的は財源の確保ではないわけですね。

danboul 2020-08-20

 

 

【私の返答】
税の役割に関しては、私もMMTを知る前までは知識があやふやでした。
浅学のため、確定するには至っていませんが、MMTを知ることによって、現在の私は「無税国家は不可能である」との結論に寄っています。
この理解を深めるためには、主に「租税貨幣論」と「ビルトイン・スタビライザー」を知る必要があります。

税の役割はだいたいdanboulさんのおっしゃる通りで、よくご理解されておられると思いますが、私なりにも説明していこうと思います。

今までの「税の役割」の考え方は、財務省が説明している以下の通りになりますが、我々は「これは正しくない」と主張しています。

出典:財務省
https://www.mof.go.jp/tax_policy/publication/brochure/zeisei3006/01.htm


他の教科書等を見ても「国内産業の保護(関税など)」の項が加わるだけで、基本的には殆ど同じです。
しかしこれが、MMTによる説明だと以下のようになります。

1. 貨幣を駆動させ、貨幣の購買力を担保するため  (租税貨幣論)
2. 総需要を安定させるため (ビルトイン・スタビライザー:景気自動安定化装置)
3. 富の再分配のため (累進課税などによる格差の是正)
4. 悪い行動を抑制するため (環境汚染、飲酒、喫煙、輸入品の購入などにかける税)

      参考書籍:L・ランダル・レイ 「MMT現代貨幣理論入門」  p268-281

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参考にしたのは、貨幣論ウォッチャーに「金ぴか本」と呼ばれている、MMT創始者のランダル・レイ教授の書籍です。
財務省による説明と大きく違うのが1の「財源調達機能」に替わる「租税貨幣論」ですが、これはどういうものなのでしょうか。

まず、政府は、税収などの財源がなくても政府支出を行うことができます。
これは、毎年の予算額が、税収を得る前に確定され、実際に支出されている事実からも簡単にイメージすることできるでしょう。
スペンディング・ファースト(支出が先)という概念です。

コロナ禍の2020年は普段より何十兆円も多く支出し、不況で税収が何兆円も減るはずなのに、政府は支出していました。
ここからも政府は税金を集めて、それを支出の原資としてはいないことがわかります。

政府支出を行うと民間の預金は増え、流通する通貨も増えます。
先日もお伝えしたように、政府が国債を発行し過ぎると、国債を買うための民間の預金がいつか尽きてしまうという認識は、全くの間違いでした。

MMTは、政府によって支出されたその通貨を駆動するために、徴税という国家権力を行使しているとしています。
「租税から、政府は支出する」のではなく、「政府が支出するから、納税できる」と言うのです。

レイ教授の金ぴか本から少し引用しましょう。

「政府はキーストロークで支出する(万年筆マネー)」というMMTの言説に初めて接した人の多くは、MMTは「政府は租税を必要としない」と主張しているという結論に飛躍する。
ならば、税金を払いたい人はいないのだから、なぜ租税を廃止してしまわないのだろうか?
  (中略)
政府の貨幣に関するMMTの説明は、いつもどのように始まるか?
--「租税が貨幣を動かす。」
何度でも強調しよう。
  (中略)
租税が貨幣を償還するからである。
                    --------    出典:金ぴか本 p.268
MMTは、貨幣が租税などの強制的な義務を履行するのに必要とされる限り、そうした義務が貨幣に対する需要を創造すると主張する。
つまり、納税者が貨幣を必要とするので、政府は貨幣を発行してものを買うことができる。
  (中略)
政府の支出を「賄う」ために租税は必要か?必要ではない。
租税は貨幣に対する需要を創造するために必要なのだ。
                   --------    出典:金ぴか本 p.272
租税は政府支出を賄うために必要なのではない。
それどころか、論理が逆である。
政府は、納税者が通貨で租税を支払う前に、通貨を支出して(あるいは貸し出して)、経済に供給しなければならない。
支出が先で、租税が後--これが論理的な順序である。
                    --------    出典:金ぴか本 p.273

金ぴか本を読まずとも、知人のにゅんさん(erickqchan)が、レイ教授の租税貨幣論に関わる論説を訳してくれているので、ぜひ参照いただきたく思います。
金ぴか本の該当部と殆ど同じ記述になっています。

レイ教授の言ってる「租税貨幣論」を、私なりに説明します。

日本国内では円という国定通貨しか使えません。
米ドルや人民元は使えませんよね。
これは円でしか納税できないからです。
米ドルや人民元は納税できないので、広く流通しないのです。

日本政府が、円でしか納税を認めないために、円に対する強い需要を、円を使用する強い動機を生んだといえます。
円でしか納税できないために、誰もが円を使い、国内で流通するのです。

その円を獲得するために、人々は商品やサービス、もしくは労働力を売らなければならなくなり、納税の義務があるからこそ、政府はもともと何の価値もない紙切れを作って、人々から提供されるモノを買うことができます。

人々に通貨に対する需要を持ち続けさせるために、政府は、適度に通貨を間引かなくてはなりません。
その間引きの作業が徴税ということにもなり、徴税こそが通貨を流通させる駆動輪となりえるのです。
これがMMT派の言う「Taxes Drive Money = 税が貨幣を駆動する」という概念です。

もっと言えば、通貨を通貨として価値づける行為が徴税だといえます。
納税することができる円は価値を持ち、逆に納税できない米ドルなどの貨幣は、国内で流通しませんので、通貨としての価値を持たないわけです。

政府は、通貨を流通させるために、そして通貨を通貨たらしめるために、実体経済に通貨を支出(または貸出)し続けなければなりません。
政府が支出することによって、初めて納税者は通貨という形で税を納めることができるようになります。
だから支出が先で徴税が後、という順番になるのです。

これが「租税貨幣論」のおおまかな説明です。

 

通貨発行権と徴税権を持つことこそが主権国家を主権国家たらしめる条件であることを、MMT派のチェーネバ教授はこう語っています。

「権力と貨幣についての論文で私が論じたのは、政治的な完全主権は、通貨の主権を欠いては確立されることができないということ、また、経済圏をめぐる植民地間の争いで勝利するためには、通貨を発行し統制する権利が決定的な事柄だったのだ、ということでした。アメリカ独立戦争も、1751年と1764年の通貨法に対抗する通貨発行権を獲得するための戦いでもあったのです。代表なくして課税なしです」


ただし、例えば、松尾匡先生なんかによると疑問もあるようで、産油国などの無税国家の例を引き合いに出しながら、「『納税によって国家の徴税債権を帳消しにする』という図式は、公衆がもともと国家に対して納税の債務を負っているということが当然のベースラインになって、はじめて成り立つ見方である。」と、租税貨幣論が完ぺきではないことを指摘しています。
この視点にも重要な価値があると思います。

徴税権や、租税貨幣論の別の側面に関しては、ここのリンクがうまくまとまっていると思います。
 

 

さて、租税のもうひとつの重要な役割がビルトイン・スタビライザー(自動安定装置)になりますが、これは景気変動を自動的に調節する機能のことを言います。
所得税などの累進課税制度や、金融資産税などがこれに該当します。
この所得税の場合、個人の所得が増えると税率も増加することは、誰もがご存じだろうと思います。
好況時には所得が増えるとともに納税額も増加するため、貨幣流通量の増加が抑制され、逆に、不況時には所得は減るとともに納税額も減少するため、消費需要の減少が緩和されるというメカニズムです。 

税収は、景気拡大時に増加し、景気後退時に減少する順景気循環的に作用します。
ここに累進税等のビルトイン・スタビライザーを設定すると、景気拡大時には過熱した総需要を減らし、行き過ぎたインフレを抑制する効果をもたらし、景気後退時には不況を止めるように逆に作用するということです。
ですので、バブルを防ぎ、総需要を安定させるためにもビルトイン・スタビライザーはかならず必要だというわけです。

以上の視点から考えると、富裕層を優遇するために累進性の希薄な税制を導入する姿勢は、まったくもって論理破綻した考えのうえに成り立っていますし、ビルトイン・スタビライザー機能のない消費税などはもっての外、悪税中の悪税といえることがおわかりいただけると思います。


また、MMT派にとっては「租税貨幣論+JGPなどの公的雇用政策は、労働リソースの安定的利用につながる」という視点もあります。

税は、通貨の一部分をその循環から取り除くことによって、通貨価値を維持すると上述しましたが、税を通貨で支払う義務があることで、商品やサービスがその通貨単位で提供されることになります。
租税があることによって価格決定が促され、それに伴った賃金労働をもたらすともとらえられます。

通貨供給と徴税による商品やサービスの価格設定が適正でなければ、雇用が悪化したり失業も生まれます。
そこで、安定した雇用の保証を提供することによって「景気変動に対する底」を作り、それがビルトイン・スタビライザーとなるようにする政策が、JGP(Job Guarantee Program=総雇用保証)であるということです。

このことを説明してくれるチェーネバ教授のブログ(にゅんさん翻訳)から抜粋します。

・政府はこうして商品およびサービスの購入手段を決めることができ、また、税に対して適切な量の通貨を提供することができる。これができていないときに、結果として発生するのが非自発的な失業だ。

・政府には、自らが引き起こした失業を解決する責任がある。

・通貨の独占者としての政府は、労働の単価を決め総額を変動させることができる

・「国が価格を設定できるならば、政府はそれをするべきか?もしそうなら、その額は?」
その結果、課税水準と貯蓄欲求を所与とすれば、政府が商品やサービスに支払う価格と、受け取る量との間には、反比例の関係があるとわかります。予算を制限すれば失業が起こり、必要量を満たすことができません。対して、政府は予算を変動させられるとする。そうすれば、反循環的な政策(ジョブギャランティーのような)をデザインすることが可能になり、これは優れた価格アンカー、また自動安定化装置として機能する。

・MMTは、完全雇用と価格安定のためのより優れた政策を指摘している。

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通貨発行、通貨の流通、物価や景気の安定、雇用政策、そして租税は密接不可分に連関しています。

租税は、財源調達機能としてはほぼ無意味だけど、貨幣を流通させるため(Taxes drive money)、通貨に価値を持たせるため(租税貨幣論)、景気を安定させるため(ビルトイン・スタビライザー)、賃金労働による雇用の安定のために重要なのだという結論となります。

徴税することで、日本では毎年50兆円ほどの通貨を、循環系から奪って財政的スペースを作っていることになりますが、これがなくなるとインフレが促進されてしまうという視点も重要です。


以上をもって、(資源立国でない限り)無税国家は不可能であることの証明とします。

ちなみにですが、社会保険料や罰金など、政府が強制力をもって貨幣を集める行為も、広義の税の定義に含まれますので、思考実験する際はお気を付けいただきたいと思います。

 

 

コメント⑤
ネット上では国の借金ガーはほぼ無力化できたと思っていましたがここでは元気ですね。やはり池上彰という権威(笑)が後ろ盾にいるとなると根拠のない自信が湧いてくるんでしょう。
逆に言うなら、池上彰の影響力を逆手に取って、池上彰をしつこく論破していくことで世間の「常識」を今以上に変えることができるかもしれません。


774 2020-08-20 11:59:52

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【私の返答】
仰る通りだと思います。
池上さんが「国の借金デマ」をプロパガンダしなくなった時、日本が普通の国に戻る時ではないかと感じます。
今まで日本政府は「国の借金が多すぎて破綻する」ことを恐れて、世界でもまれにみる極度の緊縮財政政策をしいてきました。
でも、この「国の借金デマ」が嘘であることを、多くの人が理解するようになり、池上さんも恥ずかしくてテレビに出られないような状況になれば、日本政府も誤りを認めて、普通の国のように財政出動をして国民経済を支えるようになるのだろうと思います。

その昔、ノーベル賞を受賞したロボトミー手術という外科手術がありました。
これは、統合失調症などの精神疾患を持つ人の眼球と頭蓋骨の隙間から鉄の棒を差し込んで、グリグリやって脳を傷つけて、感情をつかさどる分野を無機能化させようという、倫理的にも医学的にも許されない残忍な手術でした。
しかし当時の人たちは画期的だと称賛し、なんとノーベル賞まで受賞し、その手術は1940年代後半から70年代後半まで行われていたそうです。

今にしてみれば噴飯ものですが、このロボトミー手術に該当するのが緊縮財政だとしてみましょう。
既に間違いがあきらかになってるのに、ロボトミー手術は凄いぞとテレビで称賛しているのが、ドクター池上です。



以上、本日はここまで。
最後までご覧いただきありがとうございました。

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