慶応大学名誉教授・金子勝氏による雑誌「世界」への寄稿文「もし君が首相になりたいと言うならば(山本太郎は気候変動を否定するトンデモ論と手を切れ)」を読んだので、以下にその感想と反論を記します。
 

 

基本的な印象としては、とても学者とは思えない事実誤認と藁人形論法(デマとも言う)にいろどられた文章でした。
経済学者としてあまりに痛々しいので、晩節を汚さないためにも、早期の隠居をお薦めしたいです。
 
しかし、なかなか腹立たしい事実誤認と藁人形論法(デマとも言う)のオンパレードでもありましたので、逐一反論してみたいと思います。
(というか、金子氏の批判は、すでにいくつもの反論パターンが出尽くされた批判様式に沿ったものですので、鼻をほじりながらの反論となりますけど)
 
ということで以下は、「高卒程度の学歴しかないオレに完全論破される慶応大学名誉教授の無残な姿をご覧くださいの巻」ということになります。
 
追記(20.03.11):本文中で私は「我々薔薇マークの…」と表現しましたが、私は薔薇マークの運営ついてなにか決定できるような立場にはなく、本文は個人としての反論という体を取ります。
また、当然ながら、れいわ新選組や山本太郎氏の意見を代弁するものでもないことも付け加えさせてもらいます。
(ひょっとしたら、山本太郎の発言についての記述も、誤りや勘違い、正確さにかける表現があるかもしれないこともお断りさせていただきます)
 
 
〇金子氏「国債を増発し、財政赤字を拡大させてでも歳出や減税を拡大すれば、日本経済のひどい衰退状態を克服できるのでしょうか」
 
→ 中学校の教科書を再読されることをお勧めします。
 
 
 
〇金子氏「山本は法人税増税するのは2%のインフレになる時だと発言」
 
→ まったくのデマです。山本氏はインフレ率2%までは財政出動できるという主張をしています。ただ、インフレ率のみを過度に目標とせず、デフレ状態の日本であれば、国民が生活困窮し政府の支援を必要としている状況であるならばインフレ率3,4%でも問題ないともしています。
そして増税に関しては、ビルトイン・スタビライザー(景気自動安定装置)を主張していますので、インフレ率2%になったら増税するというものではありません。これは、所得税・法人税に対する累進課税制度として、景気の過熱した分野には自動的に課税できるようあらかじめ税率を設定するというものですが、金子氏はビルトイン・スタビライザーを目的とした累進課税制の強化を理解されているとは思えません。
そして2%のインフレ・ターゲットは標準的先進国の政策と同様のものとなりますので、なんら突飛な発想でもありません。
 
 
〇金子氏「いまや日銀は出口のないねずみ講に陥っている」
 
→ 量的金融緩和はすでに店じまいし、マネタリーベースの増加も2013年以前の水準に戻っています。「出口がない」どころか、すでに出口から出ちゃっててさぁーせん。
 
 
〇金子氏「金利が上昇すればたちまち国債も株価も暴落」
 
→ そもそも金利は、まず日銀の政策で決めているし、現在ではイールドカーブ・コントロールを導入した日銀の金融オペにより長短金利を制御しているため、金利高騰もしないし国債価格も暴落しません。金利は経済が好調な時にしか上がりません。ケインズ派・MMT派であれば、むしろ財政支出に従属させた金利の抑制を薦めると思います。
また株価は別の要因で動いています。
 
 
 
〇金子氏「(山本は)反原発を唱えつつ火力エネルギー中心でいくと言っている」
 
→ 山本氏は、現状、再エネのみに100%依存することは不可能であるため、再エネ100%達成までの移行期間はガス火力を中心としたエネルギー政策を「つなぎとすべき」として訴えています。また、再エネ達成には研究や設備に投資すべきという向きで発しています。
 
 
〇金子氏「公共事業の拡大はバブルを繰り返す」
 
→ 公共事業の拡大はどの国もやっています。日本はこの25年間で公共事業を半分に削減した極めて異常な国家であります。
また、バラモン左翼が嫌いな”本物の左翼”バーニー・サンダース大統領候補は、数十兆ドル規模の公共事業を掲げています。
 (*注: バラモン左翼とはピケティによるポリコレ緊縮リベラルに対する批判 http://eulabourlaw.cocolog-nifty.com/blog/2018/04/post-83eb.html)
加えて、バブルは主に不動産や金融分野で起こるものので、公共投資しただけでは起こりません。だからこそ、山本氏は、バブル回避のために法人・所得税へのビルトインスタビライザーと、金融所得にも総合課税することを訴えています。
 
公共事業関係費は半減した。
 
 
〇金子氏「れいわはまるで未来の世代を犠牲にする食い逃げ世代の代表のような政策を掲げており、日本を滅ぼしかねません」
 
→ 今の老人世代が緊縮財政を推し進めたことで格差拡大の後押しをしたのに、若者の支える年金生活で悠々自適の「食い逃げ世代」代表で高所得者の金子さんが言うことでしょうかね。
 
 
〇金子氏「実質賃金下落の背景にあるのは、貿易赤字が当たり前になるような産業構造の衰退だ」
 
→ 対GDPの貿易の寄与状況をご覧ください。貿易はほとんどGDPに寄与しません。実質賃金下落の背景にあるのは、政府支出による需要創出の不足です。よって産業を輸出偏重に変える必要は一切ありません。
政府・企業は内需拡大のため、国内に投資し、賃金を上げるべく経済を活性化させるべきです。
 
対GDPの純輸出は1%
 
 
〇金子氏「財政赤字でバラ色のバラマキを誘惑しているだけで、(輸出)産業衰退の実態を無視している」
 
→ 「バラ色のバラマキ」とは我々薔薇マークと松尾匡・立命館大教授を揶揄したものでしょうが、政府が支出すればマネーが創造され、市中の資金が増える事実を無視してはいけません。バラマキだろうが何だろうが結構ですが、これは普通の国の普通の経済政策です。
また、日本は内需8割の国であるので、輸出業を不必要に推奨し外貨を稼ぐ産業構造に替える必要がありません。それとも金子氏はグローバル化を進め、外資を呼び込み、日本企業を買収させたいという旨なのでしょうか。
 
GDP成長率と政府支出伸び率は正の相関関係にある。
出典:クレディセゾン主任研究員・島倉原氏
 
 
〇金子氏「高齢化により生産年齢人口が減少していることもあり、中間層が解体され、格差と貧困が拡がっている」
 
→ 格差拡大の主因を少子高齢化に求めることは間違っています。少子高齢化と格差拡大は、政府の支出不足とそれによる成長率の鈍化、また国民の賃金の不足による影響を受けた結果起こった現象です。
バラモン左翼は「少子高齢化で日本は成長の限界がきている」からと脱成長論を訴えますが、事実として、GDP成長率と労働人口の増減には一切の相関性はありません。
 
*上図縦軸は名目GDPになっているが、実質GDPで縦軸をとっても結果はほぼ同じ
出典:@create_commons 氏
 
 
〇金子氏「財政赤字で社会保障費を増やしてもなかなか追いつかない。問題は単なる需要不足ではない」
 
→ 基本的には、問題は単なる需要不足であります。そして社会保障費はその需要を賄うに足るレベルで増やしていないことが原因であると考えられます。(もちろん分配構造の不備もあるでしょう)
絶対的に20兆円、30兆円が必要な社会保障分野に対し、毎年15兆円、15.5兆円と渋々予算を増やしている状況では、圧倒的に需要に追い付いていないと言えます。社会保障費が足りている状態であるのならば「下流老人」や「介護難民」などという言葉は生まれません。
社会保障分野の需要にこたえられていれば、介護や保育などの事業が活性化され、雇用を生み、賃金の上昇にもつながるでしょう。少子高齢化だからこそ、その波及効果は絶大なものがあると考えます。
 
 
〇金子氏「国の借金はいまやGDPの二倍にも膨らんでおり、財政赤字の対GDP比は国際的にとびぬけた水準。日銀が国債を買い続けて不良債権をずるずると処理しつつ…。」
 
→ 正しくは「国の借金」ではなく政府債務であります。そしてバランスシートを見れば、政府債務は、市中銀行の資産であり、後に日銀の国債(政府債務)買い入れにより、日銀の資産となることがわかります。日銀資産となった国債は借り換えを繰り返し消化され、利益は国庫に納付されていくだけです(参考: 富山大名誉教授・桂木健次「政府債務の償還と財源の通貨発行権」 https://www.slideshare.net/kenjikatsuragi1/2016513 )。
また、政府債務対GDP比が増えたとて、政府債務は貨幣発行残高を記帳したものに過ぎないのだから、不良債権であるはずもなく、何の問題があるのかよくわかりません。
 
ケネディとトービンも「債務の増大それ自体には問題はない」と認めている
出典: 山本太郎街宣より
 
 
〇金子氏「消費税減税で物価が大幅に下落するということは、デフレが一層進む。価格の下落に応じて販売量が増えるかわからない」
 
→ 山本氏が採用する「参院の計量シミュレーション」で示す通りですが、消費減税で一旦下落した物価は、消費者の消費欲を誘引することで、再び物価上昇に転じるため、デフレ促進要因にはなりません。
また、14年と19年の消費増税により、その増税に相応して国民の消費支出が下がったということは、減税によってその分の消費が復活するということです。勿論、増税分ピッタリの2%、3%の消費支出が増えるわけではないでしょうが、消費需要を喚起し賃金を押し上げ、物価を上昇させるに十分であると考えられます。
 

*このシミュレーションは税率を8%から0%に下げた場合のものですが、10%から0%にしても三年後の物価上昇は1~1.5%前後です。
 
消費税増税をきっかけとして消費支出が落ち込み、消費支出の上昇率が鈍化している(リーマンショックや震災による消費の落ち込みは即時に回復している)
出典: 京都大学大学院教授・藤井聡
 
 
さて、文章が長くなってしまいましたので、本ブログは前後半にわけたいと思います。
 
続きの後半はこちら
▼慶応大学名誉教授・金子勝氏の「山本太郎は首相になりたいならトンデモ論と手を切れ」への反論(後)
 
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