【目次】
① 石丸選対(自民党)も私と同じロジックだった
② 改革派の分裂面の一つは「事大主義者」
③ 成功者は正しいから成功した
④ 改革派の分裂面の二つ目は「懲罰主義者」
⑤ 結論:エンパワーメントと産業政策

前回の記事では、日本人の6~7割、特に無党派は改革派マインドにあると定義しました。

 

日本人は、4割が年収300万円以下の低所得層なのに9割が「自分は中流」と考え、世界一「医療・教育の無償化」に反対し、8割近くが「公共の民営化」に賛成し、世界一「弱者に冷酷」です。
この点に関して、私は、候補者が弱者救済や社会保障の拡大を強調して訴えてもあまり刺ささらないと予想しました。

また、「社会の役に立ちたい」、「生活に政治は重要」、「民主主義に為政者への従順さは必要ない」と世界トップレベルで考える正義感の強い人達なのに、それは建前や口先だけであり、実際には社会・政治活動やボランティアにもほとんど参加せず、他人任せで、唯一の民主主義的行動が投票行為だと考える、欺瞞に満ちた人たちだとする調査結果も紹介しました。

さらには多くの人々が、候補者の政策なんか見ておらず、「この人は改革してくれそうだ」というイメージのみで投票していること、加えて、人々は社会・政治活動などを一切しないのに「なんで民意が反映されないんだ!」と怒ってさえいることをお伝えしました。

上記すべては世論調査の結果から導き出しました。

私は、経済学で言う「代表的個人」として、上記のような人物像を無党派層の代表的人格「改革派トライブ」と設定しました。
改革派トライブとは「改革派・ネオリベ・B層・意識高い系」とほぼ同種です。


今回の記事のまとめを最初に示しておきます。
概略図って感じです。
日本人とはこんな人たち、また無党派や改革派はこんな傾向があるってことをまとめました。

 

① 石丸選対(自民党)も私と同じロジックだった


今回、2本の記事を5日間くらいかけて書いているのですが、つい一昨日興味深い記事を見つけました。

石丸陣営で選対事務局長を務めた藤川晋之助氏(自民党)が、「有権者は政策なんか見ていないので、石丸の演説の中身がなくても関係ない」、そして「規制緩和はやらなければいけない」ことで、「こういう候補者こそが政策を見ない無党派層にアプローチできる」と語っています。

 


藤川氏の方針は、私の立てた仮説そのまんまではないでしょうか。
彼は優秀な選挙のプロ、いえ、「B層対策のプロ」と言えますので、私は自分のロジックとの類似に驚きました(笑)

ちなみに「B層対策のプロ」はすなわち「国民B層化プロパガンダ」の使い手であることも意味します。


今回はこのB層、つまり「改革派トライブ」が、どうやら二手に分かれるようだという仮説を綴っていきます。

私は、改革派の分裂面の一つは「事大主義者」で、もう一つは「懲罰主義者」(反逆者)と設定しました。

事大主義者と反逆者では相反するように感じるでしょうが、この二つはどちらにしても改革派なので似たようなものだし、両方を兼ね備える人たちも多いだろうとも思います。

石丸や小池百合子の話を聞けばわかるように、まるで一貫性のない、相反する政策を訴えています。

例えば石丸は先日の「言って委員会」で、「少子化で東京都は15年しかもたない。一夫多妻制を導入するとか、100年200年300年かけてSFみたいに遺伝子的に子供を作り出す!」と発しました。 https://x.com/izumi_akashi/status/1812459346682581474

「15年しか持たない」はずなのに「100年以上かけて遺伝子操作する」との矛盾した意見を言っても、本人も支持者も特に気にしません。

 

② 改革派の分裂面の一つは事大主義者


私は、以前から「『政治に為政者への従順さは必要ない』と考えながら、実際には社会・政治活動もボランティアもしない」人々の分裂傾向を、政治に対する無知や、政治は難しいし面倒だからとする逃避、または建前や上っ面を重視することから社会階層上位の者には「事なかれ」の姿勢で対峙する「事大主義なのだと位置づけていました。
そこには丸山眞男による「勝ち馬に乗ったもん勝ち」を重視する日本人像も重ね合わせていました。

改革派の分裂面の一つは「事大主義者」だと思います。

改革派のうち「事大主義者」は、自民党や公明党、小池百合子に投票します。

日本人は学校でちゃんと主権者教育をされていないため、「『民主主義とは投票に行くこと』であり、投票に行きさえすれば民主主義に対する原罪は洗い流される」程度の感覚でいる人が多いのだろうと考えていますが、こういった人たちのなかでも特に為政者を「お上」と捉えて歯向かうこともなければ意見も言わないタイプの人達が「事大主義者系の改革派」なのだろうと思います。

「詳しくはわからないけど、お偉いさんの言ってるカイカクや規制緩和、民営化は良いことなんだ」くらいにしか政治を認識していません。


社会階層上位の者に対する畏怖や過剰な尊敬は経済的側面を見ても顕著です。

「経済的な安定こそが幸せ」と答えた日本人が、英独加中香の中で断トツ1位(73%:2位ドイツとの差28%)だったという調査があります。
https://www.fidelity.co.jp/static/japan/pdf/whatsnew/20210218.pdf

経済的な勝ち組こそが多くの日本人の価値基準体系の上位に位置づけられるのです。

少し古い調査(2007と2002)ですが、内閣府が「高い地位と多くの報酬を得る望ましい人は?」と聞いたところ、「努力し、実績のある人」と答えた人が86~89%を占めています。

https://survey.gov-online.go.jp/h15/h15-shakai/
https://survey.gov-online.go.jp/h14/h14-shakai/


この調査は2002年から2007年のわずか5年しか実施されていませんが、どの年も圧倒的偏りを見せているので、調査する必要がないと判断してやめたのかもしれません。

 

③ 成功者は正しいから成功した


石丸は都知事選最後の最終演説を、「大銀行に勤めてニューヨークに赴任した。丸ビルの上層階のフレンチレストランで上司と食事をした」などと、自分は仕事のできる奴だ、経済に詳しい、勝ち組だ、成功者だという自慢話だけで終わらせました(笑)
https://www.youtube.com/watch?v=-HYsUB2EYKw
https://www.youtube.com/live/cAwpbSHy2cs


リベラル左派からは「中身なし」と批判されていましたが、実はこれは重要で、多くの日本人は「金持ちや成功者は正しいから成功した」と思っています。
これが、堀江や成田、ひろゆきのような醜悪なネオリベの人気がある理由です。

彼らのファンはこのような話が100年も前にアントニオ・グラムシに完全論破されていることなど知る由もないでしょう。
彼らが知るのは自己啓発本の内容くらいで、サンデルのメリトクラシーの議論も知らないと思います。

グラムシは、支配階級による支配は、支配的グループの支配に同意するように人々を社会化する社会制度により成立しているのだとしています。
「成功者は正しく努力したから成功したんだ」という話は、現在の社会が「正しい状態」であることを前提としていますが、汚いことをしてでも勝ち上がった者が自分に都合の良いシステムを構築するのだから、正しいもへったくれもありません。
この「文化ヘゲモニー」と彼に呼ばれる虚構のシステムに従順である者こそが優先的に成功者となり、システムの正当化へ寄与し、強靭化し、また再生産するのです。

マルクスの「“資本家にとって都合のいい”メンタリティを、労働者が自ら内面化することで、資本の論理に取り込まれていく」の拡大版ですね。
https://president.jp/articles/-/66298?page=5

先日「政治的発言、特に為政者に逆らう発言をした芸能人はメディアから排除される」とラサール石井氏が証言していました。
https://youtu.be/x9QA2ybucCs?t=6461
同様のことは山本太郎氏も繰り返し発言していますし、そもそも業界では常識で、芸能界に接点のある私も身をもって知るところです。 
支配グループとそこに連なる信奉者は、逆らう者を業界からドロップアウトさせます。そうならないようにその業界にいる者たちはルールに従順になるのです。


下記ポストは石丸支持者による投稿です。


「コスパを重視した勝ち組の一流ビジネスマンこそが正しいのだから民衆の代弁者になるべきで、その論理に従うべきだ」との意志がにじみ出ています。
文化的ヘゲモニーに取り込まれています。

日本社会において高い地位にある「勝ち組」の経団連や新浪の経済同友会なんかも典型的な改革派であることを思い出してください。
マスコミは彼らの飼い犬であり彼らを批判することはしませんので、マスコミのスタンスに影響された多くの人達が経団連や金持ちを尊敬すべき人達であり、彼らが発するカイカクは正しいことなんだと勘違いしても仕方ありません。
これこそ「文化ヘゲモニー」の構造そのものではないでしょうか。
社会全体がネオリベ的価値観で染められてしまっているから、成功者もまたネオリベなのです。


下記の三春氏の分析データは、暖色系で石丸、寒色系で蓮舫の得票率の高さを示しています。


ここからわかることは、石丸は東京都区外では人気がないということです。
大田区・世田谷区から以西、江戸川区・葛飾区までを含む地域では人気が高く、東京都区でもわりと北部(杉並・練馬・足立・荒川)は比較的反応が薄いですね。
所得階層で考えると高めの地域が石丸に反応(江戸川区・葛飾区はタワマン族?)していると言えそうです。

ここからも石丸ファンには「勝ち馬に乗ったもんが勝ち論」が好きそうな人たちが多そうだと推測できます。

私なんかは職業柄この手の人達とも接するので、彼らの政治的傾向はなんとなく知ってるつもりですが、彼らは「俺たちのビジネスがやりにくいのは規制緩和しないからだ。行政のお役所仕事はドンくさい」なんて考えています。
公共の役割なんかに考えは及ばず、ひたすら「民間の俺たち」のほうが優れていると妄信しています。

 

④ 改革派の分裂面の二つ目は「懲罰主義者」


改革派トライブには「事大主義者」のほかに「懲罰主義者」がいると仮定しました。

私は、今回の石丸の躍進で、改革派には事大主義者だけではなく「為政者には従わんぞ!」とする反逆心も存在することに思い至っていなかった点に気づきました。
これが「懲罰主義者系の改革派」となります。

思い返せば、小泉純一郎や小池百合子、橋下徹だって、最初は「既存勢力に立ち向かうんだ!」という作り話で人気を博した経緯がありました。

先述したように、日本人の75.7%が「国の政策に民意が反映されていない!」と怒っています。
彼らは社会・政治活動はほとんどしませんが、65%は投票行動のみで政治が変えられるかもしれないと考えている(もしくはただの惰性的行動)ので、わりと投票には行きます。

反逆心は懲罰感情にも言い換えることができると考えられます。

為政者への反逆心や懲罰感情は、わりとそこかしこで遭遇しますよね。
例えば、やっぱり自民党の裏金問題/脱税容疑には多くが腹を立てていますし、多くが罰したいと思っているはずです。
あまり政治に興味のない人でもこの話題だけは知っていますしね。

「ルールから逸脱した者を罰したい」という感情は日本人全般に一般化できると考えられます。

たとえば、2019年の内閣府の世論調査では、「死刑もやむを得ない」と答えた人の割合が80.8%もいました。これもだいぶ偏った数字です。
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-houseido/2-2.html
死刑制度を継続している先進国は日本とアメリカしかありません。
https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/death_penalty/DP_2023_country_list.pdf

また、公共財へのフリーライドを罰する度合いを測るための実験で「スパイト(いじわる)実験」というものがあります。
大阪大学社会経済研究所の西條辰義教授らの研究によると、被験者に集団で公共財を作るゲームをしてもらったところ、日本人は米国人や中国人と比較して他者の足を引っ張り、罰しようとする傾向が強いとの結果が得られたそうです。
この傾向を示す結果はアメリカ人12%に対し日本人63%でした。
https://data.wingarc.com/spiteful-behavior-33866

そういえば日本人はズルをしたと認めた人をやたらと罰しようとする場面が散見されます。
不正受給をした生活保護利用者がわずかにいる(0.3%以下)だけで、受給要件自体を厳しくしようとしたり、受給金額を下げようとまでして罰を与えようとします。
先般の選挙でも、蓮舫の支持者が街中に「Rシール」を貼っただけで大騒ぎです。

「炎上」というのは、ルールを逸脱したと見受けられる者を罰しようとする人がさかんに燃やすことで起こります。
コロナ禍では「自粛警察」なんてものもありましたが、他の国でこんな事象が起こったという話を聞いたことはありません。
日本人は、「ルールから逸脱した者を罰したい」という感情が異常に強いようです。

このあたりの気質が「懲罰主義者系の改革派」の背景ではないでしょうか。

「国の政策に民意が反映されていない!(75.7%)」、「民主主義に為政者への従順さは必要ない(67%)」のだから、罰してやる!!
こんな文脈が成り立つと想像できます。

石丸に投票した人は「懲罰主義者系の改革派」に近いのではないでしょうか。

 

結論:「エンパワーメント」と「産業政策」




維新や国民民主の支持者の多くが石丸ないし小池に投票していました。
ご存じの通り、この2党は改革派政党です。
石丸や小池が改革派トライブの心を掴んだことは言うまでもありません。

そして最大の票田である無党派(投票者の4割ほど)も多くが同じ投票行動をとっていますので、彼らのうち多くが私の仮説「事大主義者系の改革派」か「懲罰主義者系の改革派」に属するのではないでしょうか。


さて、今回も徒然なる長話におつきあいいただきありがとうございます。
やっと結論にたどり着きました。

「改革派トライブ」対策でもっとも大事なのは「前進する改革のイメージ」です。
日本人の6~7割を占める改革派の心を掴めなければ、絶対に選挙には勝てません!

それには次のようなイメージ作りが重要になるでしょう。

①仲間! エンパワーメント! 敵を倒す! 勝利!
 (週刊少年ジャンプの三原則「友情・努力・勝利」とほぼ同じ)

②儲かりそう! 得をしそう! 最先端っぽい!
 (意識高い系に届き、「勝ち馬に乗ったもん勝ち」論を踏襲)
 

「ずいぶんと幼稚だな」と思われましたか?
大半の日本人のレベルに合わせようとすればこうなることは縷々語って来た通りです。

例えばれいわ新選組に関しては、①はできていますが、②がいまいちです。
②に関しては産業政策をもっと前面に打ち出すべきではないでしょうか。

れいわ新選組は「無党派層」や「選挙に行かない層」をターゲットにしていて、これは先述した小泉政権の「4層分類」でいうとB層とD層(政治無関心層・諦めた層)にあたると思います。
選挙に行かないD層を引っ張り出すのは極めてハードルが高いため、私は無党派と同義となるB層をもっとターゲットとして認識してもいいんじゃないかと思っています。

そして当たり前ですが、改革派のうち「事大主義者系の改革派」は為政者に従順であるため取れないと思いますので、もう半分を占める「懲罰主義者系の改革派」を狙うべきだと思います。

また、繰り返しますが、「弱者救済」や「社会保障の拡大」はメインで訴えるべきことではありますが、「人々にあまり刺さらない」のだと認識することが大事です。
人々の善意に期待して内面から変えてやろうとすることも意味のあることでしょうが、こちらから少し歩み寄るのもアリではないでしょうか。

「弱者救済」や「社会保障の拡大」を発する場合でも、例えばセットで「為政者への懲罰」を付随させることで人々の捉え方が変わるのではないでしょうか?
「自民党の裏金が野放しになっている裏で、貧困層が数百円の商品を万引きしたことで逮捕されている」など、レトリックはいろいろ考えられます。
または「弱者救済」や「社会保障の拡大」をすることで経済が活性化され、景気が良くなるだとか、そういう向きで結論をもっていくことが必要だと思います。

例えば「消費減税」を掲げるにしても、「消費者が助かる」という切り口以上に、「減税で企業がよみがえる(預かり税ではなく第二法人税であるため)」、「経済が活性化されて儲かる」という点を強調すべきです。


私が先生と慕う松尾匡教授は、2016年に「この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案」を執筆して以来、経済政策、特に反緊縮の経済政策を打ちだすことを自民党に勝つ対策として提案してきました。
山本太郎とれいわ新選組もその路線を踏襲してきたはずです。

私の今回の提案は、そこにさらに追加すべき事案となります。

下の動画はここ最近私が最も好きな山本太郎氏の街宣なのですが、エンタメとしての必須要素が全て詰まっていると思います。
山本太郎氏のこのエンパワーメントのパワーは常人にはありません。

 


ここに「産業政策で景気を上げろとみんなで日本政府に突きつけよう」というようなメッセージをプラスすればさらに最強になれると私は考えています。


2021年に書いた私の選挙対策の結論は以下の感じになります。
結局、今もあまり変わっていません。

・・・・・・・・
れいわ・山本太郎は「経済的弱者を助けて格差を解消すると、中産階級や富裕層も儲かる。本物の好景気を見せてやる」という路線をもっと強調すべきだと思います。

別に弱者救済や中間層の底上げを脇に置くわけでなく、やることは同じで、ただ、訴え方を少し変えるべきだと思うのです。
自己評価が異様に高い日本人は「自分は惨めな貧困層ではない!」と考えていますので、「貴方たちをもっと儲けさせますよ!」と射幸心を煽ったほうが効くのではないかということです。
選挙や街宣では、笑いあり、涙あり、義憤を感じることもあれば、勇気も得られる、そして観たあとに「明日もがんばろう!」と思えるような、万人受けの良い映画を作る感覚が必要です。

2021-07-10

・・・・・・・・


以上です。

cargo

 

遅ればせながらですが、皆さま、都知事選お疲れ様でした。
各野党系ネットメディアで都知事選の分析、特に石丸の躍進に関する分析が進んでいるようですが、選挙シロウトの私もやってみたいと思いました。

 

本記事の続編はこちらです。

 


実は私の選挙分析は、この頃からあまり変わっていません。

2023-04-21


2021-07-10


2020-07-06

 

【目次】
① 東京都民の6~7割は改革派
② 内面化されるネオリベラリズム
③ 政策なんてどうでもいい改革派トライブ
④ 改革派トライブは自己責任ネオりべ
⑤ 社会の役に立ちたいが社会活動はしない!

今回の記事では、上記3本の記事の総まとめと、新たに感じたことを追加しブラッシュアップを試みたいと思います。
結論から言うと、先般の都知事選を経て自分のロジックの正しさに確証を持った次第です。素人ながらに。

私の選挙分析・対策は「〇〇の得票率が高いエリアはこうで…」とか「〇〇の選挙戦術はこうなっていて…」みたいなことはあまりやりません。

無党派票に関してが主軸となり、「無党派とは誰なのか?」「無党派票を得るにはどうすればいいのか?」ということに的を絞っています。

お気に入りの異性にアプローチする時、その人が何が好きなのか、どういうプレゼントをしたら喜ぶかなんてことを懸命に考えますが、それと同じです。
彼らに好かれたいのなら、彼らを研究しなければなりません。

今回の記事は、特に前半は「まとめ」的なので、もっと詳細にデータやソースを知りたいと言うかたは上記の3記事を確認ください。

 

① 東京都民の6~7割は改革派


まず、これが私のおおざっぱな分析です。

都知事選からわかること: 東京の投票者の6~7割は改革派(意識高い系)
  2020年 : 小池6割、維新小野1割 / 宇都宮1割、山本1割
  2024年 : 小池4割、石丸2割 / 蓮舫2割


無党派層のみ(2024年)に限っても似た結果が出てます。出所:東京新聞

東京のみならず、大阪、全国の人たちも改革派マインドにあります。


小池や石丸、維新に投票したのが改革派です。
私は彼らを「改革派・ネオリベ・B層・意識高い系」と定義し、これらを同種のトライブ(部族)として認識しています

「B層」と聞くと、「一般人をバカにしてるのか!?」と怒り出す人がいますが、B層はB級市民とか2級市民という意味じゃありません。
小泉政権時に自民党と広告代理店とが作った概念で、有権者の階層を四つに区分したうちの一つです。

A層: 政治知識があり改革に賛成もしくは中庸なインテリ層(勝ち組企業、マスコミや教師)
B層: 政治知識はないが小泉のキャラや改革のイメージに好印象を持つ主婦や若者・シルバー層、マスコミ報道に流されやすい
C層: IQの高い改革反対派(左翼)
D層: IQが低い失業者などの層。改革否定派
https://ja.wikipedia.org/wiki/B%E5%B1%A4

小泉時代以降、自民党はB層をターゲットに仕掛けを講じてきましたが、B層対策ばかりするのでマスコミやネット上にも対B層情報があふれ、いつしかインフルエンサーを含むその宣伝効果により国民がB層だらけになってしまいました。
その結果生まれたのが安倍、橋下、維新、小池百合子、ひろゆき、成田悠輔、そして今回の石丸だと思います。

私がB層の概念を好んで使うのは、この層こそが自民党や維新がターゲットとし、拡大してきた層であるからで、この層から票を得ない限り、我々に勝てるすべはないからです。

 

② 内面化されるネオリベラリズム

 

成蹊大学教授・伊藤昌亮氏は7月7日のポリタスTVでこう表現していました。

 


石丸と投票者はネオリベラリズムの「自己責任論」が内面化されていて当たり前になっている。労働者や生活者という視点がなくマイノリティや障碍者などが関心領域の外にあり、公共の役割にシンパシーがなく意識が及ばない。
こんな感じでしょうか。

伊藤氏の言う「弱者救済の政策に逆に反発する」ということに関しては、私も上掲した3つの記事で触れています。これは暇空なんかも同じですが、政治家が素晴らしい福祉政策を掲げても逆に「公金チューチュー」とされて一切刺さらないのはこのためです。
「財源が有限である」と考えるのもネオリベの教義の一部です。

 

③ 政策なんてどうでもいい改革派トライブ

 

内田樹教授も、10日のArc Timesで良い分析をしてくれていました。
彼は薔薇マークの呼びかけ人にもなってくれていますが、さすが、もやっとした事象を言語化する能力がズバ抜けています。

内田氏が指すのは、言うなれば緩い「改革派トライブ」ですが、私が言った6~7割の改革派とも合致するはずです。
そして事実として、ほとんどの国民は政策なんか理解していないし、政策で投票先を選びません。

政策と党名をシャッフルしてヒアリングした複数のブラインドテスト調査のデータがあり、このことから上記はほぼ確実となります。

彼らにあるのは「なんとなく現状を改革してくれそうなイメージの候補を選好する」といった程度の感覚です。
ですので、小池の公約がゼロ達成でも、石丸の公約が中身すっからかんでも彼らにはあまり気になりません。

政策のブラインドテスト調査については、上述の23年の記事でも触れていますので見てみてください。 

さて、ここまでで都民の多くが「改革派トライブ」で、とくに政策の細部は気にしていないことがわかりました。
ここからは「改革派トライブ」が2派に分けられるという話をしたいと思います。

 

④ 改革派トライブは自己責任ネオりべ

 

その前にもう少し「日本人とは、そして無党派層とは何者なのか」に焦点を当てます。

世界中の国々の政治意識を調査したデータがあり、以下はそこから得た結果です。

 

*注)ここでの「世界〇〇位」は世界約45~115カ国に対する調査が前提。詳細は上述の記事21年版で確認を。

・日本人は年収300万円以下の人が4割近くもいるのに、9割もの人が「自分は中間層」だと誤った自己認識をもっている
・低所得層が4割もいるのに、世界でもっとも弱者に厳しく、寄付もボランティアもしない。2位のポルトガルに8pt​​​​差で断トツ1位
「医療の無償化」に断トツ世界一で反対47%:2位の米国との差は25%)
「教育の無償化」に断トツ世界一で反対(64%:2位の米国との差は13%)
「富裕層にもっと税を課し貧困層支援をすべき」には反対世界4位(70%)
「民営化を進めるべき」は世界3位(75%)
「企業や産業の国営化を進めるべき」は断トツでワースト世界1位(9.4%:2位の米国と8.8%差)
・「インフラ投資をすべきではない」は世界2位
・「マスコミは信頼できる」は世界4位(65%)
・「節約が大事だ」は世界8位
「コロナ禍で所得を失った飲食店に補償をしなくてもいい」とする人が約50%


*「2021年の結果だから今は違うんじゃないの?」と思った人はご自分で最新版を調べてみてください。結果はあまり変わりません。
特に「世界人助け指数」は21年以降は若干順位が上がりますが、これはコロナ禍で世論調査を実施できなかった戦争・紛争地域が再び調査に載るからです。つまり「戦争・紛争地域以外では世界最悪レベルの自己責任国家」だということになります。


一目瞭然ですが、日本人というのは、世界でもっとも極端な、やべえ奴らです。

4割が低所得層なのに9割が「自分は中流」と考え、世界一「社会保障の無償化」に反対し、世界一「弱者に冷酷」な日本人に対して、候補者が弱者救済を強調して訴えてもあまり刺ささらないだろうことがわかります。

そして、これこそがネオリベ気質の「改革派トライブ」の内面であることもわかります。
多くの人が小池や石丸、維新に投票してしまう理由は、多くの日本人がリアルにネオリベ改革派だからです。
6~7割の東京人の頭のなかは上記のアンケート結果の通りの状態ではないでしょうか。
(東京の人達は地方の人達より意識高い系なので、日本全体では改革派の率はこれより少し下がると思います)

逆に山本太郎や、宇都宮、蓮舫に投票した人たちは上記アンケート結果からだいぶ遠い存在だと思いますし、この結果に恐怖すら感じるでしょう。
こんなやべえ奴らがわんさかいる街なかで、一人スタンディングした人には頭が下がります。

 

⑤ 社会の役に立ちたいが社会活動はしない!

 

さて、ここからは今回の選挙で感じたことをもとに考えた新しい分析になります。

以下も21年の調査結果からですが、相反する選択行動をとってるように思える答えがあります。

 

「政治に関心がある」:世界8位(60%)
「安全な暮らしに政府が責任を持つべき」:世界5位(76.6%)
「生活に政治は重要」:世界6位(65%)
「民主主義に為政者への従順さは必要ない」:世界5位(67%)


上記からは日本人は正義感にあふれ、政治は大事だと考えていることがわかります。ところが以下調査では相反する行動を示しています。
日本人は頑なに政治・社会参加しないのです。

 

「人助けの頻度、寄付した金額、ボランティアにかけた時間」:世界ワースト1位(それぞれ12pt)
「政治的な電子請願書への署名経験はあるか」:世界ワースト7位(2.9%)
「政治的な抗議活動に参加したことはあるか」:世界ワースト4位(0.8%)
「他の人に政治的行動を促したことがあるか」:世界ワースト7位(2.5%)
「平和的なデモに参加したことはあるか」:世界ワースト9位(5.8%)


上記調査で最下位付近に位置するのは、いずれも専制主義的な国です。

また、上記とは別の調査を関西大学法学部教授の坂本治也氏が行っていますが、上記調査結果を補完してくれる圧倒的な偏りを見せています。


https://gendai.media/articles/-/67142

「社会の役にたちたい」と70%ほどの日本人が考えているのに、選挙の手伝いもパブコメもデモもNPOもボランティアも寄付も一切やらず(10%前後)投票だけしてれば世の中は変わる(65%程度)と考えているようなのです。
まるでファンタジー世界の住人です。

もう一つダメ押しさせてください。

内閣府の「社会意識に関する世論調査(令和5年11月)」からです。
何か社会のために役立ちたいと思っているか」には、「思っている」と答えた者が61.4%、「あまり考えていない」と答えた者が35.8%でした。


その社会貢献の内容についてはこんな風に考えています。


1位の「仕事を通じて社会貢献」って銀行とか企業のTVコマーシャルのお題目なんかを真に受けてるんでしょうか。
そういうこともあるとは思うけど、この調査における選択肢では「公共」の概念がだいぶ偏っていて、ほとんどやりもしないボランティア活動ばかり強調されるうえ、政治活動が一切ないことがわかります。
防災活動やチャリティ・バザーも大事ですけど、上掲してきた国際比較調査の内容は社会活動のメインは陳情やパブコメ、抗議活動でしたよ。

この「意識高い系」的な傾向は年々進んできたこともわかります。
10年前、20年前は「自分の職業を通じて社会貢献」は4番目か5番目でした。

2013年の調査


2003年の調査


そして心底驚くのは次の答えです。


75.7%が「国の政策に民意が反映されていない!」と怒っています。
およそ半数が投票にも行かず、9割が政治・社会活動もしないのに、「民意が反映されてない!」と怒っているのですから言行不一致はなはだしいです(笑)

では彼らが考える「民意の反映方法」は何でしょう?


国民側の自発的行動に関する「国民が国の政策に関心を持つ」は16.8%しかおらず、あとは「国や政治家、マスコミのがどうにかするものだ」との答え(合計60.2%)です。
そして「投票する」が13.7%となっています。(無回答9.4%)

やばすぎませんかね。
日本人の6割以上が、民主主義は天から降ってくるものだとでも考えているのでしょう。

以上のことから、日本人とは、建前や口先だけは立派だけど、社会・政治活動もせず他人任せで、唯一の民主主義的行動が投票だとする、欺瞞に満ちた人たちだと言えます。

主権者教育がなされてなかったり、マスコミによるB層化洗脳が苛烈であったとしてもちょっと酷いです。
私は無党派や改革派トライブが、上述してきた傾向の人達にだいたい合致するのではないかと考えています。
政治や公共政策が世の中を変えると思っていないからやたらと民営化に賛成するし、社会保障の無償化にも世界一反対し弱者にやたらと厳しいのだということになりませんか。


上述した、何も社会活動をしないのに「なんで民意が反映されないんだ!」と考えている点は後述しますが、とても重要です。

私は改革派の分裂面を「事大主義者」と「懲罰主義者」に分けて考えました。
次の項では、その説明をします。


長くなってきたのでまた次回に続けます。

では!

 

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続きの記事:

 

 

 

都知事選はおそらく「戦略的投票」の観点から、もっとも当選可能性があり、また幾分マシな候補である蓮舫氏に投票することが望ましいと考えられます。

三井不動産などの大企業に都民の資産を売り飛ばす小池百合子は問題外ですし、ただのネオリベ馬鹿の石丸はもっての他ですしね。

しかし、この蓮舫氏や立憲の政策には大きな大きな問題が内包されており、その点に関して、やはり私は口を酸っぱくしながらその危険性をお伝えしなければならないだろうと思っています。


上記ポストでお伝えしているように、立憲・蓮舫は「Aの予算をBに付け替えることで財源を生み出す」という手法に拘ってしまっています
これは維新と同じネオリベの手法です。



「乾いた雑巾」状態の我が国財政を絞ってもあまり良いことにはなりません。
特に今回の都知事選において、立憲が考えているであろう「地方行政に通貨発行権はない(お金を作れない)」は、間違っていると言えます。

下記ポストでも少し話しましたが、まずおカネの正体は誰かの負債(IOU = I Owe You)であり、これは誰かが銀行から借金した時にお金が創造されることを意味します。
その意味では誰もが通貨発行主体となれます。究極的には私もあなたも通貨を作れるということです。


「誰かがお金を借りると、銀行は無からお金を創造する」ことは「信用貨幣論」とも呼ばれ、イギリスの中央銀行にも認められている事実です。
(国がお金を創る際は、また違う工程があります)


銀行がお金を貸す際のハードルは、通貨を創造する銀行があなたに「返済能力があるか」を審査し与信するかどうかという点です。
あなたの年収が500万円ならそれに見合った金額しか創造されません。

いっぽうで地方行政、特に東京都はどうでしょうか。
都には毎年莫大な税収があるので、返済能力はまったく問題がありませんよね。
銀行には、東京都の負債を引き受け、お金を貸すことに何のハードルもないわけです。

実務的には実質公債費率などの法的制限もありますが、これは知事権限たる「不同意債」等という手法でクリアでき、結果として、少なくとも10兆円以上のお金を発行できます。

 

 

 

東京都をはじめとする地方行政にも通貨を発行することが可能であり、人々をより豊かにできるのに、なぜ「右の予算を左に付け替えて財源を捻出する」なんて手法にこだわる必要があるのでしょうか。
「48億円のプロジェクションマッピングにお金を使うならそれを貧困層に付け替えろ」という議論を否定はしませんが、どうも小さな問題に見えてこないでしょうか??

「常識的にありえない!」
「マスコミや偉い学者はそんなこと言ってない!」
「そんなのは学のないポピュリストの嘘だ!」

こういう反論もあるでしょうが、このような聞いたこともない手法であっても現実的に可能なのであれば可能だとしか言いようがありません。

事実、2020年の都知事選では、立憲支持者が好きそうな社会的地位の高い日弁連会長の宇都宮氏までが我々の議論の実現性を認め、都債発行をその公約に掲げました

参考:

 

さあ、事実を見ましょう。
東京都は都債を発行してお金を創れるんです。

◇◇◇◇◇◇◇

皆さんのマインドセットを変えるためにもう一つ例を提示します。

例えば2年前に、ロシアが国際決済システムSWIFT(主に西側の作ったルールに則ったもの)から排除されるという話を聞いた時、「ロシア終わったー!」と思わなかったでしょうか。
「貿易決済ができなくなるのであれば悪の帝国ロシアは干上がるに違いない!」と、そう思いましたね?

ところがロシアは貿易相手との自国通貨決済によって乗り越え、逆に今ではそれが他のグローバルサウス国にも波及し、とうとうドル離れまで起こしました。
BRICSは独自の貿易決済手段の設立に向かっています。

SWIFT制裁から2年、制裁を加えた側の西側と、制裁を課せられた側のロシアでどっちの経済が伸びたでしょううか。
断然ロシアなんです。

ロシア経済は戦争特需もあってコロナ前より好調です。
敗北を真摯に受け止めましょうよ。
敗北したことさえ受け入れないのであればインパール作戦を繰り返すことになりかねません。

 
参考:

 

この敗北から教訓を得るならば、現実的に可能な手法であればなんだってできるってことです。
国民を危機から救い、豊かにするためであれば、どんな手法だって使えるし、それが実際に効果を発揮するんですよ。

ところが、過去の「常識」に囚われている既存政党や官僚、エリートにはそれが理解できない悲しい現実があります。

ロシアの例からわかることは、何だかよくわからない抑圧的ルールを課せられていた時のほうが自由な貿易もできず、西側に搾取されていたことが露わになったということです。

逆にいえば、現在西側はロシア国家や市民が西側の銀行に預けていた資産を凍結し、それをウクライナへの戦費に使うなどという、法を逸脱した傍若無人で前代未聞の強盗的手法を講じていますが、そんな無法者のようなことだって許されていることにも留意が必要になるでしょう。

「法」なんてものは視座が変われば簡単に覆せるテキトーな概念に過ぎないということです。

都債発行における実質公債費率などの法的制限も、その「何だかよくわからない抑圧的ルール」であり、実際はこの法律に科学的な意味なんかほとんどありません

本当の財政的制限は、需要が供給能力を超えた時に起こるインフレです。
本来なら実害に繋がるこの点こそを法に組み込まなければいけません。

もちろん「法を破ってでも金を出せ」と言いたいのではありませんよ。
上述したような10兆円規模の起債案は法規制の範囲内で実行可能です。

そして究極的には、もし都政が赤字に転落しても、当然国から地方交付税が供給されるような制度設計(暗黙の政府保証)になっていますので心配はありません。都の負債の保証人は国になっているのです。
東京都が破綻することを国が座して見守るなんてことがありえますか?絶対にないわけです。


とにかく、立憲や蓮舫氏は、科学に基づかない緊縮財政を捨て去り、「Aの予算をBに付け替えて財源捻出だぁ!」とするこだわりもどうにかしなければなりません

今回の都知事選も売国派からの組織票の多い小池が勝ちそうですが、立憲は選挙後には反省してほしいですね。
立憲には人々を救おう、豊かにしようという気合がまったく足りていないのです。


以上。

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① 立憲がアルゼンチンを目指している
② 部門間収支とは?「政府の赤字はみんなの黒字」
③ 実際の部門間収支のグラフ(日銀資料)
④ 経済学における部門間収支(注釈)

今回の記事は特に立憲支持者の皆さんに読んでほしいと思う。
といってもエリート主義の彼らが底辺ミュージシャンの私の文章を読むとも思えないが、立憲は本当にヤバい考えを持っているので、ぜひ彼ら議員に「それは致命的な誤りですよ」と忠告してあげてほしいのだ。
 

 

① 立憲がアルゼンチンを目指している

 

昨日、立憲の公式がこんなポストをあげ、長妻氏の「現下の情勢を踏まえれば、財政健全化の指標はPBではなく、利払い費を含む財政収支を用いることなどを検討すべき」との談話を掲示していた。

 


本当に頭が痛い。
PB(プライマリーバランス)とは、利払い費を除いた財政収支のことだが、2025年にこのPB黒字を達成したら次は利払い費含む財政黒字に目標を定めるとのコンセンサスが財務省内にあるとの噂(三橋氏ら)も聞こえる。

これは立憲執行部が財務官僚に洗脳されてることを物語るんじゃないだろうか。

財務官僚がいかに詐欺的テクニックをもちいようとも、「財政黒字」は絶対に目指してはダメなものだ。

緊縮財政により財政黒字を成し遂げたアルゼンチンは、4四半期連続でマイナス成長今期はGDP-5.1%となった。

 


世界的に権威のある国際機関のIMFが絶賛してるんだからそれは正しいことなんじゃないの?と考える人もいるかもしれないが、IMFは悪の結社と呼んでも良いくらいひどい組織だ。

 

ノーベル経済学賞受賞者のスティグリッツは、「アメリカと銀行家たちが、IMFを通じてグローバルサウスをドル負債の返済地獄に陥らせ支配している」というロジックを、世界銀行・副総裁の立場から証明している。上記記事ではそのことを彼の著書から引用し示している。

「財政を黒字にしろ」なんていうのは、IMFの言うことはおためごかしというか、貧困国を破綻させるための悪魔の誘惑に過ぎない。

 

 

② 部門間収支とは?「政府の赤字はみんなの黒字」

 

さて、「財政黒字を目指す」ことがいかに狂ったことなのか、簡単に説明したい。

政府収支 + 民間収支 + 海外収支 = 0

これは誰にも覆せない事実だ。
これを部門間収支(貯蓄投資バランス)と呼ぶ。
上記の政府収支とは歳出と歳入のバランスのことで、民間収支は私たち民間の経済のことだ。
海外収支は実際は経常収支のことだが、ここでは便宜上わかりやすく「海外収支」とした。

部門間収支を踏まえると、現在の日本はだいたいこんな感じになる。

政府収支(赤字:-5) + 民間収支(黒字:+10) + 海外収支(赤字:-5) = 0

三つの部門が全て黒字になることは絶対にない。
なぜならあらゆる経済主体の相対的関係は、他者との貸し借りによって存在しているからだ。*文末[脚注1]参照

いっぽう現在のアルゼンチンはこうなっている。(*細かい数字は捨象)

政府収支(黒字) + 民間収支(赤字) + 海外収支(黒字) = 0

政府収支と海外収支が黒字なら民間収支(企業や家計)は赤字になるほかない
これが何を意味するのか?
政府が支出を絞ったので民間に流れるお金が減り人々が赤字になったということだ。
結果、実質DGDPは4半期連続でマイナス。今期は-5.1%だった。

 

 

さて、立憲民主党や財務省は財政黒字を目指しているが、そうすると、民間収支はどうなるだろうか?

政府収支(+10) + 民間収支(-5) + 海外収支(-5) = 0

分かりやすく表記するとこんな感じになる。
財政黒字になると民間は必ず赤字になるのだ。
これはアルゼンチンのようにGDPが減り大不況になることを意味する。

逆に言うと、民間の我々が黒字になるためには、政府が赤字を出すしかない
「政府の赤字はみんなの黒字」である。


なお、部門間の収支バランスがゼロになる経済学的な説明は文末[*脚注2]に記した。

 

 

③ 実際の部門間収支のグラフ(日銀資料)

 

では実際の日本経済がどうなっているのか、日銀資料を見てみよう。
 *民間収支は、民間非金融部門(一般企業のこと)と家計に分かれる。


出所:ニッセイ基礎研究所(黒線などは筆者が加筆)
https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=77962?site=nli

 

赤い線(家計収支)と緑の線(政府収支)がほぼほぼ連動(強い負の相関)していることが見て取れる。
2020年の茶色の囲いは、コロナ禍で給付金やゼロゼロ融資などで政府支出が爆増し(収支的には赤字)、家計の貯蓄が増えたというシーンだ。

若干のズレがあるがバランス式はだいたい[政府収支(-20) + 民間収支(企業-1,家計+22)+ 海外収支(-1) = 0]となる。

さらに茶色の矢印を見ると、20年以降、コロナ禍で増えた赤字を徐々に絞っていっている様が伺える。23年末には二度、ほぼ±0付近まで緊縮財政を進めている。
その結果、家計の収支がとうとうマイナスになっているのだ。
日本の場合は支出削減もその理由だが、増税や高い税率も原因となる。過剰に税を召し上げ家計からお金を搾り取っているのだ。

▼23年度の国の税収、70兆円超へ 2年連続で大台突破 企業の業績好調で
2024/6/24
https://www.sankei.com/article/20240624-4AFWITSUIBOJNI3R6WMGVWZB2A/

税収が二年連続で過去最高だと浮かれている場合ではない。これはただの悲劇だ。


財務省と立憲民主党は、緊縮財政を講じ税を搾り取ることを通じ民間経済を破壊することで財政を黒字にしようとしている。

上掲した日銀図に戻ろう。
結局、現在は「財政黒字を目指す!」という愚かな目標のもと政府が赤字支出を減らし続けた結果、とうとう23年第1四半期と第4四半期には家計が赤字に転落している。

財政を黒字にするという意味は、ほぼイコールで家計や企業の収支を赤字にする

日銀図の23年の第一四半期時点の収支を式で表すとこうなる。
(*部門間収支には若干のズレがあるので注意)

政府収支(-2) + 民間収支(企業+6,家計-2) + 海外収支(-2) = 0

これが財務省や立憲民主党が目指した世界である。
これはアルゼンチン型の破滅に向かう経済だ。


財政黒字を目指すことは悪事である。
統一教会が信者からお布施を毟り取り、韓国に巨大な宮殿のごとき教団施設を建てる行為そのものだ。

立憲の議員は、このような非科学的な信仰ではなくしっかりと科学に依拠してほしい。


ちなみにだが、こちらはよく見る部門間収支(貯蓄投資バランス)のグラフだ。

棒グラフの大きさが0を境に「対」になっていることが可視的に確認できる。
(*この図は年率換算なので、四半期ごとの値が4倍に拡張されている。また海外収支が捨象されている)

少し違う視点で経済を見てみよう。

下図は政府支出、民間消費、実質GDPのグラフだ。

内閣府 国民経済計算(GDP統計)
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html
四半期GDP成長率(前期比)
https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/data/data_list/sokuhou/files/2024/qe241_2/tables/ritu-jk2412.csv

なんとなくだが、政府支出が伸びれば民間消費・GDP共に伸びることが確認できるだろう。
コロナ禍は混乱期なのでバタつくが、20年の給付金等の支出で民間支出とGDPが伸びていることもわかる。
20年以降に政府支出を絞っていったので、消費もGDPも落ちていく様がわかる。


自民党政権を倒し、財務省には解体的出直しをはからなければならない。
そのためには、野党第一党である立憲民主党にはカルト信仰から脱してもらわなければならない。

立憲がまともな経済観を持つことを強く願う。


cargo

 

 

④ 経済学における部門間収支(注釈)

 

[*注釈1]
下図は日銀資料より。これが「我が国のお金の流れ」の概観図だ。
どの主体も他者との賃借関係で成り立っている。


https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf


[*注釈2]
「政府部門収支 + 民間部門収支 + 海外部門収支 = 0」
これは、ISバランスとか貯蓄投資バランス、部門間収支などと呼ばれる概念。

国民所得恒等式「Y=C+I+G+(EX-IM)」の右辺を左辺に移項する。

Y-C-I-G+IM-EX = 0

貯蓄Sの定義式(貯蓄は可処分所得から消費を差し引いたものに等しい)「S=(Y-T)-C」を用いて、上の式に代入する。

Y-T-C-I + T-G + IM-EX = 0

(S-I)+(T-G)-(EX-IM) = 0

もしくは(S-I)+(T-G)=(EX-IM)

参考:
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%B2%AF%E8%93%84%E6%8A%95%E8%B3%87%E3%83%90%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B9
https://e-econome.com/macro-economics/47397909/

 

 

 


先日、財政審の建議に「過疎地を見捨てる」とも取れる不穏当な記述があることを発見したことをお伝えした。


この記述を発見したあと、財政審資料のほかに内閣府の骨太方針などを読みこんでいたら、「官僚の法則」ともいえるものに気づいた。

例えば骨太方針にはギリギリ当たり障りのないことが書かれているが、その根拠となる審議会や各省計画局なる組織の建議や計画があって、それらの組織のペーパーを読みこまないと「棄民政策」のシッポを掴めない構造になっている。

しかもそれが国会で審議すらされず、人知れずひっそりと閣議決定されていたりする。

例えば今年の骨太方針には下記のようにあるが、どうも棄民政策には「国土強靭化基本計画」が関係してそうだということで、「国土強靭化基本計画」を読みこむと今度はそこに「防災移転支援計画」や「都市構造再編集中支援事業」、「立地適正化計画」なるものが根拠とされており、それぞれを読みこむと、ガッツリと「棄民政策」が記述されているのだ。



つまり、何か隠したい「棄民政策」がある場合は、その内容を表には出さず、誰も読みそうにない小さな分科会レベルの資料内に隠すという「入れ子の構造」になっているのだ。(このへんのことは次回にでも詳細を報告したい)

 

例えば、上画像内の「人口動態を見据えたストック効果の高い事業」が何なのかは、下図のようにその下の階層のそのまた下の階層(小さな分科会の資料:国交省 社会資本整備審議会 計画部会の「社会資本整備重点計画」に書かれているという具合だ。


隠匿したい棄民政策を、小さな箱の中に押し込み、それを大きな箱や修飾語だらけのラッピングで覆いつくしてゆく。

上図でいうと「ストック効果の最大化」や「集約化」の意味とは、インフラの撤去や廃止のこととなる(笑)
「悪意のマトリョーシカ」である。

https://juken-sansu.net/sonota/irekosan.html


とにかく、官僚とは、心底姑息極まりない奴らである。


◇◇◇◇

さて、藤井聡教授や室伏氏が騒いでいて、気づいた方もいると思うが、先般発表された「骨太方針(原案)」にとんでもないことが隠されていた。

まずは報道から確認しよう。

●岸田文雄首相は4日の経済財政諮問会議で、経済再生と財政再建の両立に向けた「経済・財政新生計画」を策定すると表明した。新計画の期間は2025~30年度の6年間。月内の閣議決定を目指す経済財政運営の基本指針「骨太の方針」と合わせてまとめる。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2024060400980&g=eco

●2030年度までに、新たな経済ステージへ移行させ持続可能な経済社会へと軌道に乗せるべく、骨太方針で示す経済・財政新生計画に基づき、経済・財政・社会保障を一体とした改革を進め、国民が豊かさと幸せを実感できる持続可能な経済社会を実現していきます。(6月11日)
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202406/11keizai.html

また新たな「経済・財政新生計画」とかってのを立ち上げたのか?と思い、私も少し調べた。

第一生命の説明ではこうなる。
「第3章は今回の注目点である中長期の経済財政政策の枠組みについて。今回骨太は財政再建計画見直しのタイミングであり、新しい計画として2030年までを対象とする「経済・財政新生計画」を掲げた
https://www.dlri.co.jp/report/macro/340667.html

骨太方針本文第三章を読んでも私はよくわからなかったが、先日の藤井氏のYoutubeで、やっと何が起こっているのか把握した。

今年の「骨太方針(原案)」には、「三年間で一般歳出1.6兆、社会保障費1.5兆円の増加に留める。つまり、25年度~27年度の三年間は毎年社会保障費以外の支出は333億円しか増やせない」ということがこっそり書かれている。
https://youtu.be/JEqvbGkVGZg?t=437

室伏氏の報告はこちら
▼【Front Japan 桜】骨太の方針を巡る攻防、本丸は「経済・財政新生計画」だ!
https://www.youtube.com/watch?v=MHcJnEHStW8

同様のことを「現代誌」で藤井氏は報告しているので、ぜひ読んでもらいたい。

・・・・・・・
藤井教授「この超絶に複雑な構図を構築した内閣府、あるいは「財務省」は、「3年間で非社会保障費の増分を1000億円以下にする」という文言を一切明記しないまま、その内容を超超絶にわかりにいかたちで記述することを通して、総理をはじめとした政治家、そして国民を欺き、そのような規律など存在していないかのように見せかけていると考えざるを得ない。実に姑息な話だ。」
https://gendai.media/articles/-/131973
・・・・・・・


さて、「この超絶に複雑な構図」とはどういうことだろうか?
これは私が言う「悪意のマトリョーシカ」のことだが、実際に原典に当たって確認してみよう。

まずは、今年の「骨太方針(原案)」を確認する。

・・・・・・・
「骨太方針(原案)
p35
第三章
政府はこれまで、骨太方針2018で示された新経済・財政再生計画の下で、財政健全化目標や主要分野の改革方針等を定め

p36
人口減少が本格化する2030年度までを対象期間とする、「新たなステージ」への移行を支える「経済・財政新生計画」を定め、経済・財政一体改革を推進する。特に、計画期間の当初3年間(2025~2027年度)に集中的に改革を講ずる。

p37
予算編成においては、集中的に改革を講ずる2025年度から2027年度までの3年間について、上記の基本的考え方の下、これまでの歳出改革努力を継続139する140

https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/minutes/2024/0611/shiryo_01.pdf
・・・・・・・


この「注釈139」部分に超小さくこんな風に書かれている。



「経済財政運営と改革の基本方針2021(21年の骨太方針)」に、「経済・財政新生計画」の「3年間の歳出改革努力」が載っているだと?

ちなみに官僚が「歳出改革」というニュースピークを使用したら、それは即「緊縮財政」「歳出削減」のことだ。

21年の骨太を確認する。


なんじゃこりゃあ。
財政健全化目標となる「経済・財政新生計画」の元ネタは「骨太方針2018の新経済・財政再生計画」に書いてあると(笑)
どんなマトリョーシカやねん

とにかく、18年の骨太を確認しょう。


●2018の骨太方針(p.4)
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2018/2018_basicpolicies_ja.pdf

三章が「新経済・財政再生計画」となるとのことだ。
確認しよう。
・・・・・・・
●第3章 「経済・財政一体改革」の推進 (p48)
1.経済・財政一体改革の進捗と評価 
安倍内閣では、「経済再生なくして財政健全化なし」との基本方針の下、再生計画を定め、「デフレ脱却・経済再生」、「歳出改革」、「歳入改革」の3本柱の改革を一体として推進し、経済と財政の一体的な再生を目指してきた。計画期間の当初3年間(2016年度~2018年度)を「集中改革期間」と位置付け、財政健全化目標等を定め、主要分野の改革の方向性を具体化するとともに「改革工程表」を策定し、その取組を進めてきた。
〔中略〕
財政健全化については、歳出面では、集中改革期間においては再生計画で定めた一般歳出等の目安に沿った予算編成165が行われたほか、歳入面では、2018年度の国・地方の税収は過去最高の水準を更新する見込みである。
・・・・・・

「注釈165」??
また小さい字で何か書いてある。


なんじゃこりゃ。これが「新経済・財政再生計画」ということだ。

他にも「2018年度のPB赤字対GDP比166の見込みは2.9%程度と、当初の想定よりも進捗に遅れがみられる」と、そして[注釈166]には「再生計画では、改革努力のメルクマールとして1%程度としていた」とある。

やばいぞ。
2025年からPB赤字対GDP比を1%以内に抑えるべく、一般歳出は年333億円しか増やすことができないということだ。

p52にはこうある。
・・・・・
●骨太方針(p52) 
2020、2021年度は75歳に入る高齢者の伸びが鈍化するが、2022年からは団塊世代が75歳に入り始め、社会保障関係費の急増が見込まれる。
それまでの2019年度~2021年度を「基盤強化期間」と位置付け、経済成長と財政を持続可能にするための基盤固めを行う
・・・・・

あれやこれやで2020年度のPB黒字化目標の達成は困難となった、強化期間にしようとしてたらコロナでできなくなったから、もう一回やるということで、2021年の骨太に持ち越され、さらにコロナとインフレが原因で目標達成できなさそうなので、今年の2024年に持ち越されたということだ。


もう一度、今年24年の骨太方針(原案)に戻る。

「新経済・財政再生計画」とは、「三年間で一般歳出1.6兆、社会保障費1.5兆円の増加に留める。つまり、25年度~27年度の三年間は毎年社会保障費以外の支出は333億円しか増やせない」とした歳出削減計画のこと。

こういうことだ。

室伏氏は上掲した動画で「なんで誰からも選挙で選ばれていない財務省と民間委員が、国民の負託を受けた国会議員を差し置いて、予算編成してるの?憲法違反じゃないの?」との向きで疑問を呈していたが、まったくその通りだ。

「悪意のマトリョーシカ」構造内に棄民政策を隠し、財政民主主義を無視して勝手にド緊縮政策を決めている。

FACK YOU 財務省!!凸(`Д´メ)凸(`Д´メ)凸(`Д´メ)

これは、なんとかしないといけない。

とにかく皆さんもこの事実をシェアしてほしい


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