【目次】
① 石丸選対(自民党)も私と同じロジックだった
② 改革派の分裂面の一つは「事大主義者」
③ 成功者は正しいから成功した
④ 改革派の分裂面の二つ目は「懲罰主義者」
⑤ 結論:エンパワーメントと産業政策
前回の記事では、日本人の6~7割、特に無党派は改革派マインドにあると定義しました。
日本人は、4割が年収300万円以下の低所得層なのに9割が「自分は中流」と考え、世界一「医療・教育の無償化」に反対し、8割近くが「公共の民営化」に賛成し、世界一「弱者に冷酷」です。
この点に関して、私は、候補者が弱者救済や社会保障の拡大を強調して訴えてもあまり刺ささらないと予想しました。
また、「社会の役に立ちたい」、「生活に政治は重要」、「民主主義に為政者への従順さは必要ない」と世界トップレベルで考える正義感の強い人達なのに、それは建前や口先だけであり、実際には社会・政治活動やボランティアにもほとんど参加せず、他人任せで、唯一の民主主義的行動が投票行為だと考える、欺瞞に満ちた人たちだとする調査結果も紹介しました。
さらには多くの人々が、候補者の政策なんか見ておらず、「この人は改革してくれそうだ」というイメージのみで投票していること、加えて、人々は社会・政治活動などを一切しないのに「なんで民意が反映されないんだ!」と怒ってさえいることをお伝えしました。
上記すべては世論調査の結果から導き出しました。
私は、経済学で言う「代表的個人」として、上記のような人物像を無党派層の代表的人格「改革派トライブ」と設定しました。
改革派トライブとは「改革派・ネオリベ・B層・意識高い系」とほぼ同種です。
今回の記事のまとめを最初に示しておきます。
概略図って感じです。
日本人とはこんな人たち、また無党派や改革派はこんな傾向があるってことをまとめました。
今回、2本の記事を5日間くらいかけて書いているのですが、つい一昨日興味深い記事を見つけました。
石丸陣営で選対事務局長を務めた藤川晋之助氏(自民党)が、「有権者は政策なんか見ていないので、石丸の演説の中身がなくても関係ない」、そして「規制緩和はやらなければいけない」ことで、「こういう候補者こそが政策を見ない無党派層にアプローチできる」と語っています。
「私たち若い世代は候補者の政策を見て判断し石丸さんに投票したのに、上の世代にバカにされて悔しい!」と嘆いていた若者に対し石丸陣営の選対事務局長がさらなる追い打ちをかける。 https://t.co/JtfSthAgIW pic.twitter.com/oNsktb4mNh
— 勿忘草 (@H_forgetme_not) July 13, 2024
藤川氏の方針は、私の立てた仮説そのまんまではないでしょうか。
彼は優秀な選挙のプロ、いえ、「B層対策のプロ」と言えますので、私は自分のロジックとの類似に驚きました(笑)
ちなみに「B層対策のプロ」はすなわち「国民B層化プロパガンダ」の使い手であることも意味します。
今回はこのB層、つまり「改革派トライブ」が、どうやら二手に分かれるようだという仮説を綴っていきます。
私は、改革派の分裂面の一つは「事大主義者」で、もう一つは「懲罰主義者」(反逆者)と設定しました。
事大主義者と反逆者では相反するように感じるでしょうが、この二つはどちらにしても改革派なので似たようなものだし、両方を兼ね備える人たちも多いだろうとも思います。
石丸や小池百合子の話を聞けばわかるように、まるで一貫性のない、相反する政策を訴えています。
例えば石丸は先日の「言って委員会」で、「少子化で東京都は15年しかもたない。一夫多妻制を導入するとか、100年200年300年かけてSFみたいに遺伝子的に子供を作り出す!」と発しました。 https://x.com/izumi_akashi/status/1812459346682581474
「15年しか持たない」はずなのに「100年以上かけて遺伝子操作する」との矛盾した意見を言っても、本人も支持者も特に気にしません。
私は、以前から「『政治に為政者への従順さは必要ない』と考えながら、実際には社会・政治活動もボランティアもしない」人々の分裂傾向を、政治に対する無知や、政治は難しいし面倒だからとする逃避、または建前や上っ面を重視することから社会階層上位の者には「事なかれ」の姿勢で対峙する「事大主義」なのだと位置づけていました。
そこには丸山眞男による「勝ち馬に乗ったもん勝ち」を重視する日本人像も重ね合わせていました。
改革派の分裂面の一つは「事大主義者」だと思います。
改革派のうち「事大主義者」は、自民党や公明党、小池百合子に投票します。
日本人は学校でちゃんと主権者教育をされていないため、「『民主主義とは投票に行くこと』であり、投票に行きさえすれば民主主義に対する原罪は洗い流される」程度の感覚でいる人が多いのだろうと考えていますが、こういった人たちのなかでも特に為政者を「お上」と捉えて歯向かうこともなければ意見も言わないタイプの人達が「事大主義者系の改革派」なのだろうと思います。
「詳しくはわからないけど、お偉いさんの言ってるカイカクや規制緩和、民営化は良いことなんだ」くらいにしか政治を認識していません。
社会階層上位の者に対する畏怖や過剰な尊敬は経済的側面を見ても顕著です。
「経済的な安定こそが幸せ」と答えた日本人が、英独加中香の中で断トツ1位(73%:2位ドイツとの差28%)だったという調査があります。
https://www.fidelity.co.jp/static/japan/pdf/whatsnew/20210218.pdf
経済的な勝ち組こそが多くの日本人の価値基準体系の上位に位置づけられるのです。
少し古い調査(2007と2002)ですが、内閣府が「高い地位と多くの報酬を得る望ましい人は?」と聞いたところ、「努力し、実績のある人」と答えた人が86~89%を占めています。
https://survey.gov-online.go.jp/h15/h15-shakai/
https://survey.gov-online.go.jp/h14/h14-shakai/
この調査は2002年から2007年のわずか5年しか実施されていませんが、どの年も圧倒的偏りを見せているので、調査する必要がないと判断してやめたのかもしれません。
石丸は都知事選最後の最終演説を、「大銀行に勤めてニューヨークに赴任した。丸ビルの上層階のフレンチレストランで上司と食事をした」などと、自分は仕事のできる奴だ、経済に詳しい、勝ち組だ、成功者だという自慢話だけで終わらせました(笑)
https://www.youtube.com/watch?v=-HYsUB2EYKw
https://www.youtube.com/live/cAwpbSHy2cs
リベラル左派からは「中身なし」と批判されていましたが、実はこれは重要で、多くの日本人は「金持ちや成功者は正しいから成功した」と思っています。
これが、堀江や成田、ひろゆきのような醜悪なネオリベの人気がある理由です。
彼らのファンはこのような話が100年も前にアントニオ・グラムシに完全論破されていることなど知る由もないでしょう。
彼らが知るのは自己啓発本の内容くらいで、サンデルのメリトクラシーの議論も知らないと思います。
グラムシは、支配階級による支配は、支配的グループの支配に同意するように人々を社会化する社会制度により成立しているのだとしています。
「成功者は正しく努力したから成功したんだ」という話は、現在の社会が「正しい状態」であることを前提としていますが、汚いことをしてでも勝ち上がった者が自分に都合の良いシステムを構築するのだから、正しいもへったくれもありません。
この「文化ヘゲモニー」と彼に呼ばれる虚構のシステムに従順である者こそが優先的に成功者となり、システムの正当化へ寄与し、強靭化し、また再生産するのです。
マルクスの「“資本家にとって都合のいい”メンタリティを、労働者が自ら内面化することで、資本の論理に取り込まれていく」の拡大版ですね。
https://president.jp/articles/-/66298?page=5
先日「政治的発言、特に為政者に逆らう発言をした芸能人はメディアから排除される」とラサール石井氏が証言していました。
https://youtu.be/x9QA2ybucCs?t=6461
同様のことは山本太郎氏も繰り返し発言していますし、そもそも業界では常識で、芸能界に接点のある私も身をもって知るところです。
支配グループとそこに連なる信奉者は、逆らう者を業界からドロップアウトさせます。そうならないようにその業界にいる者たちはルールに従順になるのです。
下記ポストは石丸支持者による投稿です。
石丸伸二の発言などを見た時にパワハラと感じる人、理論で考えられず仕事ができないタイプと思われてしまいますので注意しましょう。
— dimender (@Dimender) July 8, 2024
コストパフォーマンスを考える。
一流企業のビジネスマンであればこそシビアに見ます。
当たり前です。#石丸伸二#仕事のできる人の特徴
「コスパを重視した勝ち組の一流ビジネスマンこそが正しいのだから民衆の代弁者になるべきで、その論理に従うべきだ」との意志がにじみ出ています。
文化的ヘゲモニーに取り込まれています。
日本社会において高い地位にある「勝ち組」の経団連や新浪の経済同友会なんかも典型的な改革派であることを思い出してください。
マスコミは彼らの飼い犬であり彼らを批判することはしませんので、マスコミのスタンスに影響された多くの人達が経団連や金持ちを尊敬すべき人達であり、彼らが発するカイカクは正しいことなんだと勘違いしても仕方ありません。
これこそ「文化ヘゲモニー」の構造そのものではないでしょうか。
社会全体がネオリベ的価値観で染められてしまっているから、成功者もまたネオリベなのです。
下記の三春氏の分析データは、暖色系で石丸、寒色系で蓮舫の得票率の高さを示しています。
東京都知事選挙 石丸伸二氏と蓮舫氏の得票率の差
— 三春充希(はる)⭐第50回衆院選情報部 (@miraisyakai) July 7, 2024
石丸伸二氏がリードする地域を黄色から赤で、蓮舫氏がリードする地域を水色から青で表示。 pic.twitter.com/QlOeQBPzKE
ここからわかることは、石丸は東京都区外では人気がないということです。
大田区・世田谷区から以西、江戸川区・葛飾区までを含む地域では人気が高く、東京都区でもわりと北部(杉並・練馬・足立・荒川)は比較的反応が薄いですね。
所得階層で考えると高めの地域が石丸に反応(江戸川区・葛飾区はタワマン族?)していると言えそうです。
ここからも石丸ファンには「勝ち馬に乗ったもんが勝ち論」が好きそうな人たちが多そうだと推測できます。
私なんかは職業柄この手の人達とも接するので、彼らの政治的傾向はなんとなく知ってるつもりですが、彼らは「俺たちのビジネスがやりにくいのは規制緩和しないからだ。行政のお役所仕事はドンくさい」なんて考えています。
公共の役割なんかに考えは及ばず、ひたすら「民間の俺たち」のほうが優れていると妄信しています。
改革派トライブには「事大主義者」のほかに「懲罰主義者」がいると仮定しました。
私は、今回の石丸の躍進で、改革派には事大主義者だけではなく「為政者には従わんぞ!」とする反逆心も存在することに思い至っていなかった点に気づきました。
これが「懲罰主義者系の改革派」となります。
思い返せば、小泉純一郎や小池百合子、橋下徹だって、最初は「既存勢力に立ち向かうんだ!」という作り話で人気を博した経緯がありました。
先述したように、日本人の75.7%が「国の政策に民意が反映されていない!」と怒っています。
彼らは社会・政治活動はほとんどしませんが、65%は投票行動のみで政治が変えられるかもしれないと考えている(もしくはただの惰性的行動)ので、わりと投票には行きます。
反逆心は懲罰感情にも言い換えることができると考えられます。
為政者への反逆心や懲罰感情は、わりとそこかしこで遭遇しますよね。
例えば、やっぱり自民党の裏金問題/脱税容疑には多くが腹を立てていますし、多くが罰したいと思っているはずです。
あまり政治に興味のない人でもこの話題だけは知っていますしね。
「ルールから逸脱した者を罰したい」という感情は日本人全般に一般化できると考えられます。
たとえば、2019年の内閣府の世論調査では、「死刑もやむを得ない」と答えた人の割合が80.8%もいました。これもだいぶ偏った数字です。
https://survey.gov-online.go.jp/r01/r01-houseido/2-2.html
死刑制度を継続している先進国は日本とアメリカしかありません。
https://www.amnesty.or.jp/human-rights/topic/death_penalty/DP_2023_country_list.pdf
また、公共財へのフリーライドを罰する度合いを測るための実験で「スパイト(いじわる)実験」というものがあります。
大阪大学社会経済研究所の西條辰義教授らの研究によると、被験者に集団で公共財を作るゲームをしてもらったところ、日本人は米国人や中国人と比較して他者の足を引っ張り、罰しようとする傾向が強いとの結果が得られたそうです。
この傾向を示す結果はアメリカ人12%に対し日本人63%でした。
https://data.wingarc.com/spiteful-behavior-33866
そういえば日本人はズルをしたと認めた人をやたらと罰しようとする場面が散見されます。
不正受給をした生活保護利用者がわずかにいる(0.3%以下)だけで、受給要件自体を厳しくしようとしたり、受給金額を下げようとまでして罰を与えようとします。
先般の選挙でも、蓮舫の支持者が街中に「Rシール」を貼っただけで大騒ぎです。
「炎上」というのは、ルールを逸脱したと見受けられる者を罰しようとする人がさかんに燃やすことで起こります。
コロナ禍では「自粛警察」なんてものもありましたが、他の国でこんな事象が起こったという話を聞いたことはありません。
日本人は、「ルールから逸脱した者を罰したい」という感情が異常に強いようです。
このあたりの気質が「懲罰主義者系の改革派」の背景ではないでしょうか。
「国の政策に民意が反映されていない!(75.7%)」、「民主主義に為政者への従順さは必要ない(67%)」のだから、罰してやる!!
こんな文脈が成り立つと想像できます。
石丸に投票した人は「懲罰主義者系の改革派」に近いのではないでしょうか。
維新や国民民主の支持者の多くが石丸ないし小池に投票していました。
ご存じの通り、この2党は改革派政党です。
石丸や小池が改革派トライブの心を掴んだことは言うまでもありません。
そして最大の票田である無党派(投票者の4割ほど)も多くが同じ投票行動をとっていますので、彼らのうち多くが私の仮説「事大主義者系の改革派」か「懲罰主義者系の改革派」に属するのではないでしょうか。
さて、今回も徒然なる長話におつきあいいただきありがとうございます。
やっと結論にたどり着きました。
「改革派トライブ」対策でもっとも大事なのは「前進する改革のイメージ」です。
日本人の6~7割を占める改革派の心を掴めなければ、絶対に選挙には勝てません!
それには次のようなイメージ作りが重要になるでしょう。
(週刊少年ジャンプの三原則「友情・努力・勝利」とほぼ同じ)
②儲かりそう! 得をしそう! 最先端っぽい!
(意識高い系に届き、「勝ち馬に乗ったもん勝ち」論を踏襲)
「ずいぶんと幼稚だな」と思われましたか?
大半の日本人のレベルに合わせようとすればこうなることは縷々語って来た通りです。
例えばれいわ新選組に関しては、①はできていますが、②がいまいちです。
②に関しては産業政策をもっと前面に打ち出すべきではないでしょうか。
れいわ新選組は「無党派層」や「選挙に行かない層」をターゲットにしていて、これは先述した小泉政権の「4層分類」でいうとB層とD層(政治無関心層・諦めた層)にあたると思います。
選挙に行かないD層を引っ張り出すのは極めてハードルが高いため、私は無党派と同義となるB層をもっとターゲットとして認識してもいいんじゃないかと思っています。
そして当たり前ですが、改革派のうち「事大主義者系の改革派」は為政者に従順であるため取れないと思いますので、もう半分を占める「懲罰主義者系の改革派」を狙うべきだと思います。
また、繰り返しますが、「弱者救済」や「社会保障の拡大」はメインで訴えるべきことではありますが、「人々にあまり刺さらない」のだと認識することが大事です。
人々の善意に期待して内面から変えてやろうとすることも意味のあることでしょうが、こちらから少し歩み寄るのもアリではないでしょうか。
「弱者救済」や「社会保障の拡大」を発する場合でも、例えばセットで「為政者への懲罰」を付随させることで人々の捉え方が変わるのではないでしょうか?
「自民党の裏金が野放しになっている裏で、貧困層が数百円の商品を万引きしたことで逮捕されている」など、レトリックはいろいろ考えられます。
または「弱者救済」や「社会保障の拡大」をすることで経済が活性化され、景気が良くなるだとか、そういう向きで結論をもっていくことが必要だと思います。
例えば「消費減税」を掲げるにしても、「消費者が助かる」という切り口以上に、「減税で企業がよみがえる(預かり税ではなく第二法人税であるため)」、「経済が活性化されて儲かる」という点を強調すべきです。
私が先生と慕う松尾匡教授は、2016年に「この経済政策が民主主義を救う: 安倍政権に勝てる対案」を執筆して以来、経済政策、特に反緊縮の経済政策を打ちだすことを自民党に勝つ対策として提案してきました。
山本太郎とれいわ新選組もその路線を踏襲してきたはずです。
私の今回の提案は、そこにさらに追加させたい事案となります。
下の動画はここ最近私が最も好きな山本太郎氏の街宣なのですが、エンタメとしての必須要素が全て詰まっていると思います。
山本太郎氏のこのエンパワーメントのパワーは常人にはありません。
ここからの13分間(1:54~2:07)ヤバいな。
— cargo 💴💶💵🌹🐾🍉 (@cargojp) May 9, 2024
山本太郎の凄さはこのエンパワーメントの力だとつくづく再確認した。
マルコムXとかキング牧師みたいな限られた人にしかこの力はない。
2019年の原点に戻るようなスタイルは頻繁に見たい。https://t.co/HgKIq17SXc
ここに「産業政策で景気を上げろとみんなで日本政府に突きつけよう」というようなメッセージをプラスすればさらに最強になれると私は考えています。
2021年に書いた私の選挙対策の結論は以下の感じになります。
結局、今もあまり変わっていません。
れいわ・山本太郎は「経済的弱者を助けて格差を解消すると、中産階級や富裕層も儲かる。本物の好景気を見せてやる」という路線をもっと強調すべきだと思います。
別に弱者救済や中間層の底上げを脇に置くわけでなく、やることは同じで、ただ、訴え方を少し変えるべきだと思うのです。
自己評価が異様に高い日本人は「自分は惨めな貧困層ではない!」と考えていますので、「貴方たちをもっと儲けさせますよ!」と射幸心を煽ったほうが効くのではないかということです。
選挙や街宣では、笑いあり、涙あり、義憤を感じることもあれば、勇気も得られる、そして観たあとに「明日もがんばろう!」と思えるような、万人受けの良い映画を作る感覚が必要です。
2021-07-10
・・・・・・・・
以上です。
cargo