AI時代のリーダーと組織の在り方|世界女性サミット2026レポート(3) | ”自分が変わる 組織が変わる” 「働き力アップのスマート仕事術」

”自分が変わる 組織が変わる” 「働き力アップのスマート仕事術」

キャリ・ソフィア代表の木山美佳が、「キャリア」「女性の働き方」「ワークライフバランス」、ときどき日々の出来事を綴ります。

AI時代に選ばれるブランドをつくる組織とリーダーの役割
~世界女性サミットで語られたAI・多様性・対話~


2026年6月4日から6日まで、トルコ・イスタンブールで開催された「Global Summit of Women 2026」に参加しました。
本コラムでは、現地で見聞きしたことを、日本企業の組織開発や人材育成にどのように活かせるのかという視点から考えます。

今回、会議のなかで多く語られていたキーワードの一つが、AIです。
世界各国から女性リーダーが集まる会議で、
AIやテクノロジーをめぐる議論が数多く行われていたことが印象に残りました。

その内容は、「AIをどう使うか」「どのツールが便利か」といった話にとどまりません。
AIによって、ビジネスや組織はどう変わるのか。

顧客との関係はどう変わるのか。

そして、その変化を誰が設計し、誰が意思決定するのか。
そこには、ダイバーシティや対話、そして、
これからのリーダーのあり方につながる多くの問いがありました。

では、AI、ダイバーシティ、対話は、企業ブランドとどのようにつながるのでしょうか。

サミットでは、複数のテーマから参加者が選んで参加する分科会が
設けられていました。

私が参加した一つが、
「Enhancing Your Brand Through Technology(テクノロジーで磨くブランド)」
というセッションです。
(写真は分科会セッションとは異なります)

■企業ブランドをめぐる変化

このセッションでは、AIやテクノロジーだけでなく、
これからの企業ブランドのあり方についても語られていました。
これまで企業は、自社の理念や価値を言葉にし、
広告やホームページなどを通じて発信することで、ブランドをつくってきました。

しかし、今はそれだけではありません。
SNSや口コミ、そこで働く人の発信、顧客との日々の接点、
商品やサービスの実際の使われ方など、
さまざまなところから企業の姿が見えるようになっています。

もはや、
「うわべだけの聞こえのよい言葉を使っても、さまざまな接点から企業の本質が見抜かれる時代になった」
ということです。

セッションの冒頭、司会者は、次のように語りました。

“Brands today are no longer built through what they say. They’re built through how intelligently they operate.”

今日のブランドは、企業が何を語るかによってつくられるのではなく、
どれだけ的確に事業を運営しているかによってつくられる、という意味です。

さらに、顧客一人ひとりとどのようにつながり、
あらゆる接点の背後でテクノロジーをいかにシームレスに活用しているかも、
ブランドを形づくる要素として挙げられていました。

つまり、これからのブランドは、企業が一方的に「語るもの」から、
日々の事業運営を通じて示すものへと変化しているということです。

以下は私が考えた例ですが、
たとえば、企業が「社員を大切にする会社です」と発信していても、
実際にそこで働く人が大切にされていなければ、その矛盾はいずれ外部にも伝わっていきます。
また、「多様性を尊重します」と掲げながら、
意思決定の場に似たような属性や考え方の人しかいないとすれば、
やはり言葉と実態の乖離が見抜かれます。

ブランドとは、企業が「こう見られたい」と語るものから、
日々の意思決定や事業運営を通じて、結果として伝わっていくものへ。

AIやデジタル技術が進化した時代だからこそ、
企業には、掲げる言葉と実際の行動を一致させることが、これまで以上に求められています。



■「AIを導入すること」が目的になっていないか

この分科会では、AI活用について、ある数字も紹介されました。
登壇者の一人は、AIを活用するプロジェクトの95%が失敗しているという
データを紹介していました。
その理由として語られたのが、「技術ありき」で始めてしまうことです。
登壇者は、AI活用の出発点について、次のように明確に述べています。

“The main starting point is the problem, not the technology.”

出発点となるのは、技術ではなく課題である、という意味です。
「AIが話題だから導入しよう」

「とにかくDXを進めよう」
こうなってしまうと、うまく進まないわけです。

そもそも自社の何を解決したいのかが明確になっていなければ、
最新の技術を導入しても十分に活用されません。

ここからは私が考えた例ですが、
組織にチャットボットを導入したとしても、
「それによって、自社のどのような課題を解決したいのか」が明確でなければ、
結局、誰にも使われないということが起こり得ます。
重要なのは、

「AIで何ができるか」から考えるのではなく、「私たちは何を解決したいのか」から
考えることです。

さらに、セッションでは、AIをブランドの資産に変えられた企業と、
実際の業務に組み込めていないツールに費用を投じただけの企業との違いを
問いかけていました。

AIを導入すること自体が成果なのではありません。
自社の課題を明確にし、
その解決に必要な技術を選び、実際の業務で機能する状態にすることが重要なのです。

■AIによって「対話」はなくなるのか

もう一つ、私が興味深いと感じたのが、AIと「対話」の関係です。
AIが普及すると、商品選択などが、より機械的になっていくようにも思えます。
ところが、このセッションで語られていたのは、AIの活用によって、
むしろ一人ひとりに寄り添った、人間味のある提案が可能になるという見方でした。

これまでインターネットで商品を探す場合、
私たちは検索窓に「バーベキューコンロ」「セラミック製」など
自分でキーワードを入力していました。
つまり、検索する側が、自分の求めているものを表す適切なキーワードを、
ある程度知っていることが前提でした。

しかし、生成AIとの対話では、
「週末に庭で、家族4人でバーベキューをしたい」
「手入れが簡単なものがよい」
「予算はこのくらい」
と、自分の状況や希望を伝えながら探すことができます。
登壇者は、それを、母親や父親、親しい親戚に相談するような
温かい対話に近づいていくと表現していました。

その話を聴きながら、私は、結局、人は対話を求めているのではないかと感じました。

技術は、必ずしも対話を奪うものではありません。
使い方によっては、一人ひとりに寄り添う対話の質を高めることができます。

対話を専門領域の一つとしてきた私にとっても、非常に興味深い論点でした。

■AIをつくり、意思決定する側に偏りがあれば

セッションの後半で取り上げられたのが、AIとダイバーシティです。
登壇者は、「AIそのものは中立であり、偏りは作り手から生まれる」との
見解を示していました。

開発やテストに関わる人たちの属性が似ていると、
自分たちにとって問題なく使えるものが、
異なる属性の人にも同じように使えるとは限らないという事例も紹介されました。
ここで重要なのは、
誰かが意図的にマイノリティの属性を無視したかどうかではありません。

似た属性の人だけで開発や意思決定をしていると、
自分たちには見えない問題そのものに気づけないことがあります。

つまり、AIをつくり、学習させ、何を採用するのかを決める人たちの側に
偏りがあれば、その偏りがAIにも反映される可能性があるということです。

これはAIだけの問題ではありません。
私は、組織の意思決定にも同じことが起こり得ると考えます。
だからこそ、意思決定の場に多様性が必要なのです。

「使う側」から「意思決定する側」へ
この議論のなかで、もう一つ印象的な数字が紹介されました。
登壇者によると、AI人材全体に占める女性の割合は約40%である一方、
意思決定層に立つ女性は22%にとどまるということです。
そして登壇者は、女性たちに対して、
「AIを使う側にとどまらず、意思決定する側に立つことが重要だ」
という趣旨のメッセージを投げかけていました。

実際、登壇者はここで、“users”と“decision makers”という言葉を対比させています。

私は、この「使う側から、意思決定する側へ」という言葉が
強く印象に残りました。

AIをうまく使うことにとどまらず、AIを何に使うのか、
どのような判断をAIに委ねるのか、その意思決定に関わる側に立つ必要がある
ということです。

これは、単に女性リーダーを増やしましょう、という話ではありません。

性別、年齢、国籍、文化、専門性、働き方など、
異なる背景を持つ人が意思決定に参加することは、
これからの企業にとって単なる理念ではなく、
実務上の要件になっていくのではないでしょうか。
多様な視点がなければ、誰かが見落としている問題に気づくことができません。

つまりダイバーシティは、
製品やサービス、そして意思決定の質に関わる経営上の課題なのです。

AI時代に問われるリーダーのあり方
AIによって、私たちの仕事はこれから大きく変わっていくでしょう。
しかし、世界女性サミットで議論を聴きながら感じたのは、
テクノロジーが進化すればするほど、人間の役割が小さくなるという
単純な未来ではありませんでした。

むしろ、
何を課題として設定するのか。
誰の声を聴くのか。
誰が意思決定するのか。
その決定によって、見落とされる人はいないのか。

という、人間側の問いがより重要になるのではないでしょうか。
AIは膨大な情報を処理できます。
しかし、何を問いとして設定するのか、どのような価値を大切にするのかを決めるのは
人です。

また、自分一人では見えないものがあるからこそ、
異なる立場の人との対話が必要になります。

今回のセッションで一貫して語られていたのは、
「技術は、人とのつながりを置き換えるものではなく、高めるための手段である」
という考え方でした。

AI時代のダイバーシティとは、単に多様な人を集めることではありません。
多様な人が意思決定の場に参加し、互いに対話できる組織をつくることです。

そして、企業が掲げる理念やブランドも、聞こえのよい言葉だけでなく、
そこで行われている日々の意思決定や行動によって評価されます。

そのなかでも特に大きな影響を与えるのが、リーダーの価値観と行動です。

セッションでは、リーダーとブランドの関係について、次のような言葉もありました。

“You are your brand, and you have to remember that, and you have to live it.”

あなた自身がブランドであり、それを忘れず、体現しなければならない、という意味です。

たとえば、企業が「顧客を大切にする」「社員を大切にする」という
理念を掲げていたとしても、リーダーが数字だけを見て意思決定しているのであれば、
部下は、会社が掲げる理念よりも、そのリーダーの行動を見て仕事をするでしょう。

そこで生まれた行動の積み重ねが顧客との接点にも表れ、
やがて企業ブランドを形づくっていきます。

AIによって企業のさまざまな情報が可視化される時代だからこそ、
リーダー自身のあり方もまた、ブランドをつくる重要な要素になります。

リーダーが何を語るかだけでなく、何を大切にし、どう意思決定し、どう行動しているのか。

そのすべてが、組織の文化や顧客との関係、そして企業ブランドにつながっていきます。

AIを活用する時代だからこそ、企業の本質が問われる。

そして、AIを活用する時代だからこそ、多様性と対話、さらにリーダーのあり方が
これまで以上に重要になる。

■AIを活用する時代だからこそ、企業の本質が問われる。

そして、AIを活用する時代だからこそ、多様性と対話、さらにリーダーのあり方が、これまで以上に重要になる。
これが、今回の世界女性サミットの分科会から私が持ち帰った、大きな学びの一つです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 
次回で、世界女性サミットのレポートは最終回となります。
その後は、デジタル国家・エストニアで得た学びについてもお伝えする予定です。

※本稿は、Global Summit of Women 2026の分科会「Enhancing Your Brand Through Technology(テクノロジーで磨くブランド)」で交わされた議論をもとに、筆者の視点からまとめたものです。
※この記事は、人事・経営層向けの専門メディア「日本の人事部」に掲載いただいたコラムを、一部加筆・変更して掲載しています。