”自分が変わる 組織が変わる” 「働き力アップのスマート仕事術」

”自分が変わる 組織が変わる” 「働き力アップのスマート仕事術」

キャリ・ソフィア代表の木山美佳が、「キャリア」「女性の働き方」「ワークライフバランス」、ときどき日々の出来事を綴ります。


 
【図1 キービジュアル】



最近、海外の会議に参加すると、ヴァルネラビリティ(vulnerability)という言葉をよく耳にします。ヴァルネラビリティは、英語で「傷つきやすさ」「弱さ」などを意味する言葉です。本記事では、自分の弱みや不確かさを他者に開示することに焦点を当て、自社調査の結果をご紹介します。

「心理的安全性を高めるには、上司が弱みを見せることが大切」。研修や講演の場でも、この言葉を聞く機会が増えました。

一方で、管理職の方からは、こんな声も届きます。

「弱みを見せろと言われても、何をどこまで話せばいいのか分からない」

「話したら、部下を不安にさせてしまいそうで怖い」

たとえば、「異動先の業務に分からないことがあっても、上司という立場から部下に聞くことをためらってしまう」といった声です。



一方で、部下の立場にある方からは、「上司に不安を打ち明けられ、自分まで不安になった」という声も聞かれます。

ヴァルネラビリティ研究で知られるブレネー・ブラウン氏(Brené Brown)も、ヴァルネラビリティには境界線が必要だと指摘しています。私自身も、弱みは何でもそのまま伝えればよいわけではなく、伝える目的や相手との関係を考える必要があると感じています。



そこで当社では、部下を指導・育成する立場にある上司200名を対象に「上司のヴァルネラビリティ調査2026」を実施しました。

何を弱みと捉え、何を、どのように伝え、その後どんな変化があったのか。今回の記事では、その結果をご紹介します。



「ゴール添え」で伝えた上司は、率直な意見が出るようになった割合が約4.3倍
まず、一番お伝えしたい結果はこれです。

部下に弱みを伝えた上司148名のうち、「達成したい目的や目標を併せて伝えた」上司は、その後の変化として「部下から率直な意見が出るようになった」を58.7%が挙げました。

この伝え方を選ばなかった上司では13.7%。その割合に、約4.3倍の差がありました。



当社では、このように目的や目標を併せて弱みを伝えることを「ゴール添え」と呼んでいます。


【図2 ゴール添えと変化】

たとえば、「この件は正直、私は判断に迷っている」とだけ伝えるのか。


それとも、「来月までに競合に勝てる提案を出したい。そのうえで、この点は私も判断に迷っている。あなたの意見を聞きたい」と伝えるのか。



同じ「迷い」でも、目指す先を共有することで、
部下も「こうしてはどうですか」と意見を出す
手がかりを持てるのではないでしょうか。
弱みを、チームで前に進むための材料にする伝え方です。

調査では伝え方を9項目で尋ねましたが、それぞれ選んだ上司と選ばなかった上司で比べると、「部下から率直な意見が出るようになった」の差が最も大きかったのが、この「ゴール添え」でした。

※回答者が8名だった項目は、比較から除外しています。

ただし、実際に「ゴール添え」で伝えていた上司は31.1%。約3割にとどまっています。


【図3 伝え方】

なお、ここで示しているのは、上司本人が感じた変化と伝え方との関連です。「ゴール添え」によって変化が起きたという因果関係を示すものではありません。

「分かっていること・分かっていないこと」を整理した上司は、マイナスの変化が少ない
もう一つ、注目したい伝え方があります。

「現在分かっていることと、分かっていないことを整理して伝えた」上司は、マイナスの変化(部下を不安にさせた、頼りなく思われた、など)があった割合が9.8%でした。

この伝え方を選ばなかった上司では24.1%。整理して伝えた上司のほうが、マイナスの変化を感じた割合が低い結果となりました。

ここからは私の仮説ですが、分かっていることと分かっていないことを整理して伝える姿が、「状況を冷静に把握している」という安心感につながるのかもしれません。


【図4 整理とマイナスの変化】

「ゴール添え」が前向きな意見を促す手がかりになるとすれば、「整理」は部下の不安を抑える手がかりになるのかもしれません。

そして、この2つを両方使っていた上司は約1割でしたが、そのうち73.3%が「部下から率直な意見が出るようになった」と答えています。


【図5ゴール添え×整理】

何を「弱み」と捉えるかは、人それぞれ
では、上司は何を「弱み」だと感じているのでしょうか。

「部下に伝えると、上司として弱みを見せることになる」と感じる内容を12項目から選んでもらったところ、最も多い「失敗や間違い」「不安やプレッシャー」(各29.0%)から、同率6位の「分からないことがある」「今後の見通しを持てていない」(各23.5%)までが、わずか5.5ポイントの差で並びました。


【図6 弱みと感じる内容】

上司が「弱み」と感じる内容は、一つに集中しているわけではありません。

ある人にとっては何でもないことが、別の人にとっては大きな弱みになる。だからこそ、「弱みを見せましょう」と一律に求めるのではなく、一人ひとりの捉え方を出発点にすることが大切だと、私は考えています。

部下の弱みには「親近感」。でも、自分の弱みは見せにくい
興味深いねじれも見えてきました。

部下から「分からない」「自信がない」「助けてほしい」と伝えられたとき、上司の受け止め方で最も多かったのは「率直に伝えてくれたことに親近感を持つ」(38.5%)でした。

「自信や能力が不足していると感じる」(8.0%)など、否定的な受け止めの各項目は1割未満です。



【図7 部下の弱みの受け止め方】

ところが、自分が弱みを見せる側になると、ためらう理由の最多は「部下を不安にさせそうだから」(19.0%)。


【図8ためらいの理由】

部下の弱みには親近感を持つ一方で、自分の弱みは「相手を不安にさせるのでは」とためらってしまう。

立場や責任の違いはありますが、そこには、部下への配慮もあるのではないかと思います。だからこそ、「弱みを見せることが大切」と伝えるだけでなく、どう伝えればよいのかまで支える必要があります。

上司の約3割が「隠れ孤立」
もう一つ、見過ごせない結果があります。

仕事上の本音や不安、迷いを安心して話せる相手が「いない」(10.5%)、「いるが、十分には話せていない」(18.5%)上司は、合わせて29.0%でした。

当社では、本音や不安を安心して十分に話せていないこの状態を「隠れ孤立」と呼んでいます。



【図9 隠れ孤立】

部下の話を聴く役割を担っていても、上司自身に、本音を話せる相手や場があるとは限りません。

調査では、自分の不安や負担を伝えることが中心だった上司は、マイナスの変化があった割合が高い傾向も見られました。

上司が不安を抱くこと自体に問題があるわけではありません。ただ、その不安を受け止め、上司自身を支える役割まで、部下に担わせてよいのかは別の問題です。

部下に伝える内容や目的を考えることと、上司自身が安心して話せる相手を持つこと。その両方が必要だと考えています。

上司が求めているのは「判断基準」と「伝え方」
上司の皆さんが、弱みや迷いを部下へ適切に伝えるために必要だと感じている支援の最多は、次の2つでした。

部下に伝えてよい内容と、伝えないほうがよい内容の判断基準

部下を不安にさせない伝え方

いずれも30.0%です。



【図10 必要な支援や学び】

「弱みを見せる勇気」を求めるだけでは、現場の上司の困りごとには十分に応えられません。

何を伝えるかを判断できること。そして、どう伝えるかを学べること。今回の結果からは、こうした具体的な支援へのニーズが見えてきます。

心理的安全性の高い職場づくりに向けて、2つの提案
今回の結果から、当社は次の2つを提案しています。

1.弱みの捉え方と伝え方を学ぶ教育
何を弱みと捉え、何を部下に伝えるかの判断基準を学ぶこと。

そして、「ゴール添え」や、分かっていること・分かっていないことの整理といった伝え方を、研修やチームビルディングの場で練習し、実務で使えるようにすることです。

たとえば、自分が実際に迷っている場面を取り上げて、「何を目指しているのか」「どこまで分かっているのか」「何について意見や協力がほしいのか」を言葉にしてみる。そうした練習が、日々の対話につながります。

2.仕組みとしてのメンタリング
上司の不安や迷いを受け止める「部下以外の相手」を、偶然に任せず、組織の仕組みとして用意することです。

相談できる相手がたまたまいる人だけが支えられるのではなく、必要なときに安心して話せる機会をつくる。そのためのメンタリングを、管理職育成の一部として位置づけることが大切だと考えています。

部下に弱みを伝えるときは、伝え方を工夫する。それとは別に、上司自身の不安を受け止める場をつくる。

この2つが、心理的安全性の高い職場づくりに向けた重要な視点です。

自由記述に表れた、上司たちの経験
自由記述には、弱みや迷いを伝えることで対話が生まれた経験と、伝える内容の難しさを感じた経験の両方が寄せられました。その一部をご紹介します。

迷いを、意見を聞くきっかけに

二つまでは絞っているが、そのうちの一つに決められない局面にあること。意見を聞くための材料になった。

(60代・男性/医療・福祉)


苦手を伝えたことで、部下も話してくれた

部下に、自分が苦手なことを伝えたら、部下も自分が苦手なことを話してくれて仲が深まりました。

(30代・女性/商社・卸売り・小売業)


協力につながった経験と、伝えて後悔した経験

正直に伝え協力してもらった。後悔したことは、家庭の事情。

(60代・男性/建設業)


※本調査の自由記述回答から抜粋。回答は原文のまま掲載し、年齢は年代で表記しています。

迷いを伝えることが、部下の意見を聞くきっかけになる。苦手なことを認めることで、部下も自分の苦手を話せるようになる。一方で、伝えた内容によっては後悔が残ることもある。

これらの声からも、「弱みを見せるか、見せないか」だけでは捉えきれない、現場の経験がうかがえます。何を、何のために、どのように伝えるのか。そして、上司自身の不安や迷いを誰が受け止めるのか。その両方を考える必要があると感じています。

おわりに
「心理的安全性のために、上司が部下に弱みを見せる」。

そこで終わらせず、どのように伝えれば、チームの対話やマネジメントに生きるのかを考えること。そして、上司自身も安心して本音を話せる場を持つこと。

弱みは、ただ見せればよいものではありません。何のために伝えるのか、どこまで伝えるのか、相手に何を求めるのか。その目的と境界線を考えることが大切です。

一方で、ゴールの伴わない弱さも、解決していく必要があります。
相談できる相手がいないと答えた人がいるように、上司のメンタリングを充実させていく必要があります。

今回の調査が、「弱みを見せられる上司になるべきだ」という新たな負担ではなく、上司と部下の双方を支える対話を考えるきっかけになればと思います。

▼調査結果の詳細はこちら
https://www.career-sophia.jp/vulnerability-survey-2026/

※現在、PHP関連のメンテナンスにより、一時的に閲覧できない場合があります。

調査概要
調査名:上司が部下に自分の弱みを見せることに関する調査(上司のヴァルネラビリティ調査2026)
調査主体:株式会社キャリ・ソフィア
調査方法:インターネット調査
調査対象:部下を指導・育成する立場にある上司(スクリーニング済み)
有効回答数:200名(男性150名・女性50名)
調査期間:2026年9月15日

▼本調査の引用・転載について
本調査の結果や図表を引用・転載する際は、出典として「株式会社キャリ・ソフィア『上司のヴァルネラビリティ調査2026』」を明記し、以下の調査結果ページまたはプレスリリースへのリンクを掲載してください。

【調査結果ページ】
https://www.career-sophia.jp/vulnerability-survey-2026/

※現在、PHP関連のメンテナンスにより、一時的に閲覧できない場合があります。

【プレスリリース(@Press)】
https://www.atpress.ne.jp/news/642128

※Q4・Q5は、最も最近部下に伝えた弱みや迷いについて具体的な内容を回答した148名が母数です。伝えた後の変化は、上司本人が感じた変化を尋ねています。

#心理的安全性 #管理職 #マネジメント #1on1 #ヴァルネラビリティ #人材育成 #キャリソフィア #調査レポート

エストニアでの国際交流事業の行程に組み込んだ、

1日のフィンランド・ヘルシンキ視察について、

ロコタビさんのnoteに掲載いただきました。

現地在住者とともに大学・オフィス街・図書館を歩いた様子を

 

ご紹介いただいています。

 

記事はこちらからご覧いただけます。
https://note.com/locotabi/n/na498aaedaae5

2026年6月4日から6日まで、トルコ・イスタンブールで開催された

「Global Summit of Women 2026」に参加しました。

本コラムでは、シリーズで

現地で見聞きしたことを、日本企業の組織開発や人材育成に

どのように活かせるのかという視点から考えます。

今回のテーマは、会議のなかで強く印象に残ったプログラムの一つ、

少人数で行われた「メンター・フォーラムII」です。

このセッションでは、トルコを代表する女性経営者が、

自らのキャリアに影響を与えた人々や、

困難な状況で支えとなったメンターの存在について語りました。

その内容は、「経験豊かな人が若い人に助言する」といった、

一方向の支援にとどまりません。

人生やキャリアが思いどおりに進まないとき、

人はどのように立ち直り、再び前へ進むのか。

リーダーが自らの人生とキャリアを主体的に選択するために、

メンターはどのような役割を果たすのか。

そして、メンタリングを互いに学び合う対話にするためには、

何が必要なのか。

イスタンブールで交わされた言葉を手がかりに、これからのリーダー育成と

メンタリングのあり方を考えます。

■キャリアを積み重ねた女性リーダーと対話の場


会議の中で実施された「メンター・フォーラムII」は、

事前登録制で行われた約40名の少人数セッションです。

メンターを務めたのは、

トルコ有数の高級小売企業Beymen GroupのCEO兼取締役、

Elif Capci(エリフ・チャプチュ)氏。

モデレーターは、メキシコのCoppelで内部監査責任者を務める

Monica Loaiza(モニカ・ロアイザ)氏でした。

Elif氏は、コンサルティング、金融、小売という異なる業界を歩みながら、

キャリアを築いてきました。

少人数の会場で語られたのは、経歴の華やかな部分だけではありません。

どのような人から影響を受けたのか、困難な局面で何を選択したのか、

そして、どのように回復したのか。

自身の迷いや転機も含め、率直に語ってくれる場でした。

登壇者と参加者の間の対話は、一人の女性リーダーの経験を手がかりに、

参加者も自分自身の人生やキャリアを考える時間になっていました。

■キャリアを支えたメンターの存在


「現在の自分に影響を与えた人は誰ですか」という問いに、

Elif氏は、トルコ共和国の建国者であるアタテュルク、

困難な環境のなかで道を

切り拓いてきた女性たち、

そして自身のキャリアを支えたメンターを挙げました。

Bainに入社した当時、同社の若手パートナーだった

Brian Tennyson(ブライアン・テニソン)氏が、Elif氏を気にかけ、

継続的に支えてくれたといいます。

会社から正式にメンターとして任命されたというよりも、

仕事上の関係を通して自然に育まれたメンタリングだったことが、

Elif氏の語りからうかがえました。

“He was always a strong mentor, and that’s why I very much believe in the importance of mentorship.”

「彼はいつも心強いメンターでした。だからこそ、

私はメンタリングの重要性を強く信じています」


この言葉からは、メンターが一時的に助言を与えるだけの存在ではなく、

その人の考え方や行動に長く影響を与える存在であることが

伝わってきます。

そのメンターが繰り返し伝えた言葉として紹介されたのが、

次の言葉でした。

「上司をマネジメントする」と聞くと、

少し違和感のある表現に思えるかもしれません。

しかし、ここでいう“Manage up”は、

上司を思いどおりに動かすことではありません。

自分が何を目指しているのか、

どのような機会や支援を必要としているのかを言葉にし、

上司との関係にも主体的に働きかけるという意味です。

自分のキャリアの主導権を、会社や上司に委ねきらない。

その姿勢をメンターが繰り返し伝えたことが、困難に直面したときの

Elif氏を支えたのでしょう。



■人生とキャリアは一直線ではない


Elif氏は30代前半、ニューヨークの銀行で働いていたとき、

トルコに住む父親が重い病気になった経験を語りました。

米国に残ってキャリアを継続するのか、家族の近くへ戻るのか。

それは仕事だけでも、家族だけでも決められない、

人生全体に関わる選択でした。

彼女は、順調だった仕事を離れ、トルコへ戻ることを決断します。

帰国後は仕事が決まらず、不安や恐れを感じた時期もあったといいます。

それでも、彼女はその選択を後悔していませんでした。

“Our lives, our personal lives, our careers—it’s never a straight line.”

「私たちの人生も、私生活も、キャリアも、決して一直線ではありません」

キャリアは、常に右肩上がりに進むものではありません。

立ち止まることもあれば、後ろ向きになったように感じることもあります。

家族、健康、社会情勢など、自分だけではコントロールできない

出来事によって、

予想していた道を変更せざるを得ないこともあります。

それでも、転んだときや歩みが遅くなったときには、

いったん後ろに下がり、

そこから再び前へ進めばよい。Elif氏は、そのように語りました。

それは、何があっても耐え続ける強さが求められるのではなく

状況に応じて柔軟に考え、自分に使える力や資源を探し、

もう一度動き出す力です。

Elif氏は、不確実な状況を生きるうえで、

レジリエンスとともに、柔軟であること、そして、

利用できる資源を見いだし

活用することの重要性にも触れました。

“How crucial resilience is, and how crucial it is to be flexible and resourceful.”

「レジリエンスがいかに重要か。そして、柔軟であり、

自分に使える力や資源を見いだすことが、いかに重要か」


キャリアにおけるレジリエンスとは、

元の状態に戻ることだけではありません。

状況の変化を受け止め、自分の持つ経験や人とのつながりを

組み替えながら、

新しい進み方を見つける力ではないでしょうか。

■偶然の出来事をキャリアに変える力


この経験を聞きながら考えたのが、

キャリア理論家ジョン・D・クランボルツらが提唱した

「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」です。

クランボルツは、人のキャリアの約8割が、

予期しない出来事に影響されていると

指摘しました。

そこには、できれば起こってほしくなかった出来事も含まれます。

ただし、偶然が起こるのを待つという意味ではありません。

好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心という5つの行動特性を持ち、

予期しない出来事を新たな可能性へと変えていくことが重要だと

されています。

父親の病気をきっかけにニューヨークでの仕事を離れ、

トルコへ戻ることは、Elif氏が当初描いていたキャリア計画には

なかったでしょう。

しかし、その選択から生まれた経験や出会いが、その後のキャリアへと

つながっていきました。

組織で働くなかでも、予期しないライフイベントや異動、

役割の変更などが起こります。

そのとき、本人だけでは「計画から外れてしまった」としか

捉えられない出来事があったとしても

対話を通して経験を捉え直し、本人がまだ気づいていない選択肢や可能性を

一緒に探すメンターの存在が重要になるのではないかという

気づきがありました。


■人生という一枚のキルト


もうひとつ

Elif氏の話を聞きながら、私はキャリア理論家サニー・ハンセンの

「統合的人生設計」を思い浮かべました。

ハンセンは、仕事だけを切り離してキャリアを考えるのではなく、

家族、学習、余暇、地域や社会における役割など、

人生を構成する要素を統合して捉えることを提唱しました。

その考え方は、色や形の異なる布を縫い合わせる「キルト」に

例えられます。

一つひとつの布だけを見れば、色も形も異なります。

予定していた模様に合わない布や、思いがけず手にした布もあるでしょう。

しかし、それらを組み合わせていくことで、その人にしかつくれない

一枚のキルトが生まれます。

人生100年時代、予想外の出来事は多く起こるでしょう。

この国際女性会議のセッションでも

ニューヨークでの金融の仕事も、父親の病気を機にトルコへ戻ったことも、

その後、小売企業のCEOとなったことも、一直線には見えません。

しかし、それぞれの経験は途切れているのではなく、

Elif氏の人生という一枚のキルトを構成しています。

キャリアを考えるとき、私たちはつい、

昇進や転職、肩書といった仕事上の出来事だけを

一本の線で捉えようとします。

しかし実際には、仕事と私生活は完全に分けられるものではありません。

家族の事情によって仕事の選択が変わることもあれば、

仕事で得た経験が地域や家庭での役割に活かされることもあります。

一見、遠回りや中断に見えた経験が、

後になって別の経験と結びつくこともあります。

その意味を本人より先に決めるのではなく、

対話を通して一緒に見いだしていくことも、メンターの大切な役割です。

です。

■メンタリングは互いに学ぶ対話


このセッションを通して改めて感じたのは、

メンタリングは、経験のある人が若い人に正解を与えるだけの

一方向の関係ではないということです。

メンターは、自らの経験を言葉にするなかで、

自分の歩みや意思決定を振り返ります。

異なる世代や文化、価値観を持つ相手から問いを受けることで、

自分では気づかなかった経験の意味を見いだすこともあります。

メンティーもまた、助言を受け取るだけではありません。

自分の問いや経験を通じて、

メンターに新しい視点や気づきをもたらします。

メンタリングとは、「教える人」と「教えられる人」を

固定する関係ではなく、

互いの経験と問いによって学び合う、双方向の対話なのです。

この日の会場でも、成功したCEOの話を参加者が静かに

聞くだけではありませんでした。

Monica氏の問いかけによってElif氏の経験が掘り下げられ、

参加者も自分の人生やキャリアを重ねながら、

その語りを受け止めていました。

問いによって経験の意味が引き出され、

その言葉が別の人の問いにつながっていく場でした。

■日本では新人支援に偏るメンター制度


最後に、この気づきを組織開発に活かすとしたらという視点で考えます。

日本でも、メンター制度は大企業を中心に導入され、増えています。

しかし、その対象は新入社員に大きく偏っています。

労務行政研究所の「人事労務諸制度の実施状況調査」(2022年)では、

回答企業292社のうち、メンター制度を実施している企業は38.0%でした。

その導入企業の99.1%が新卒新入社員を対象に含む一方、

中途入社社員を対象とする企業は13.6%にとどまります。

日本では、メンターが「新人を支える先輩」や

「職場への定着を助ける人」として

理解され、ブラザー・シスター制度やOJTの教育係と

役割が重なることも少なくありません。

もちろん、新入社員や若手社員を支えることは重要です。

ただし、メンタリングの可能性は、新人の職場適応や早期離職の防止だけに

役立つわけではありません。

役割が上がり、周囲から「判断する人」「支える人」と

見られるようになったリーダーほど、

自分の迷いや弱みを話せる相手が少なくなります。

管理職が迷いや不安を口にすれば、

「管理職なのに自分で判断できないのか」「頼りない」と

受け取られるのではないか。そのような不安から、

一人で問題を抱えることもあります。

だからこそ、評価関係から離れ、自分の価値観やキャリアについて

安心して話せるメンターが必要です。

Elif氏が困難な局面でメンターの言葉を思い出したように、

メンタリングは、リーダーが自らの人生とキャリアを

主体的に選択するための支えにもなります。

■女性管理職を輩出する仕組み


誰にとっても、育児や介護、家族の病気など、予期しない出来事によって

キャリアについて考えるタイミングがあります。

一方、女性管理職がまだ少ない組織では、

女性社員が身近なロールモデルや、

将来のキャリアについて相談できる相手を見つけにくい場合があります。

メンタリングは、離職を防ぐためだけの施策ではありません。

予期しない出来事に直面したとき、自分の経験や価値観を捉え直し、

キャリアを継続する方法や新たな可能性を見いだすための対話の

機会になります。

こうした支援は、性別を問わず必要です。

そのうえで、女性管理職が少ない組織においては、

女性が次の役割への挑戦を諦めずに済む環境をつくることが、

女性管理職を継続的に輩出する仕組みにつながります。

そんな気づきも得たセッションでした。

■会議最終日の一体感


さて、4回にわたり、イスタンブールでの国際女性会議について

お伝えしました。いかがでしたでしょうか。

最終日には次回の開催国タイの踊りや、

会場が一体になるダンスタイムもあり、会議は終了しました。


全員ダンスで熱気あふれる最終日の夜


実は、8月終わりには、エストニアの会議に行ってまいりました。

次回から、フィンランド・エストニアについて

お伝えしていこうと思います。

次回も、お読みいただけましたら幸いです。

※本稿は、Global Summit of Women 2026の「メンター・フォーラムII」で交わされた議論をもとに、筆者の視点からまとめたものです。
※この記事は、人事・経営層向けの専門メディア「日本の人事部」に掲載いただいたコラムを、一部加筆・変更して掲載し