”自分が変わる 組織が変わる” 「働き力アップのスマート仕事術」

”自分が変わる 組織が変わる” 「働き力アップのスマート仕事術」

キャリ・ソフィア代表の木山美佳が、「キャリア」「女性の働き方」「ワークライフバランス」、ときどき日々の出来事を綴ります。


2026年6月4日から6日まで、トルコ・イスタンブールで開催された

「Global Summit of Women 2026」に参加しました。

本コラムでは、シリーズで

現地で見聞きしたことを、日本企業の組織開発や人材育成に

どのように活かせるのかという視点から考えます。

今回のテーマは、会議のなかで強く印象に残ったプログラムの一つ、

少人数で行われた「メンター・フォーラムII」です。

このセッションでは、トルコを代表する女性経営者が、

自らのキャリアに影響を与えた人々や、

困難な状況で支えとなったメンターの存在について語りました。

その内容は、「経験豊かな人が若い人に助言する」といった、

一方向の支援にとどまりません。

人生やキャリアが思いどおりに進まないとき、

人はどのように立ち直り、再び前へ進むのか。

リーダーが自らの人生とキャリアを主体的に選択するために、

メンターはどのような役割を果たすのか。

そして、メンタリングを互いに学び合う対話にするためには、

何が必要なのか。

イスタンブールで交わされた言葉を手がかりに、これからのリーダー育成と

メンタリングのあり方を考えます。

■キャリアを積み重ねた女性リーダーと対話の場


会議の中で実施された「メンター・フォーラムII」は、

事前登録制で行われた約40名の少人数セッションです。

メンターを務めたのは、

トルコ有数の高級小売企業Beymen GroupのCEO兼取締役、

Elif Capci(エリフ・チャプチュ)氏。

モデレーターは、メキシコのCoppelで内部監査責任者を務める

Monica Loaiza(モニカ・ロアイザ)氏でした。

Elif氏は、コンサルティング、金融、小売という異なる業界を歩みながら、

キャリアを築いてきました。

少人数の会場で語られたのは、経歴の華やかな部分だけではありません。

どのような人から影響を受けたのか、困難な局面で何を選択したのか、

そして、どのように回復したのか。

自身の迷いや転機も含め、率直に語ってくれる場でした。

登壇者と参加者の間の対話は、一人の女性リーダーの経験を手がかりに、

参加者も自分自身の人生やキャリアを考える時間になっていました。

■キャリアを支えたメンターの存在


「現在の自分に影響を与えた人は誰ですか」という問いに、

Elif氏は、トルコ共和国の建国者であるアタテュルク、

困難な環境のなかで道を

切り拓いてきた女性たち、

そして自身のキャリアを支えたメンターを挙げました。

Bainに入社した当時、同社の若手パートナーだった

Brian Tennyson(ブライアン・テニソン)氏が、Elif氏を気にかけ、

継続的に支えてくれたといいます。

会社から正式にメンターとして任命されたというよりも、

仕事上の関係を通して自然に育まれたメンタリングだったことが、

Elif氏の語りからうかがえました。

“He was always a strong mentor, and that’s why I very much believe in the importance of mentorship.”

「彼はいつも心強いメンターでした。だからこそ、

私はメンタリングの重要性を強く信じています」


この言葉からは、メンターが一時的に助言を与えるだけの存在ではなく、

その人の考え方や行動に長く影響を与える存在であることが

伝わってきます。

そのメンターが繰り返し伝えた言葉として紹介されたのが、

次の言葉でした。

「上司をマネジメントする」と聞くと、

少し違和感のある表現に思えるかもしれません。

しかし、ここでいう“Manage up”は、

上司を思いどおりに動かすことではありません。

自分が何を目指しているのか、

どのような機会や支援を必要としているのかを言葉にし、

上司との関係にも主体的に働きかけるという意味です。

自分のキャリアの主導権を、会社や上司に委ねきらない。

その姿勢をメンターが繰り返し伝えたことが、困難に直面したときの

Elif氏を支えたのでしょう。



■人生とキャリアは一直線ではない


Elif氏は30代前半、ニューヨークの銀行で働いていたとき、

トルコに住む父親が重い病気になった経験を語りました。

米国に残ってキャリアを継続するのか、家族の近くへ戻るのか。

それは仕事だけでも、家族だけでも決められない、

人生全体に関わる選択でした。

彼女は、順調だった仕事を離れ、トルコへ戻ることを決断します。

帰国後は仕事が決まらず、不安や恐れを感じた時期もあったといいます。

それでも、彼女はその選択を後悔していませんでした。

“Our lives, our personal lives, our careers—it’s never a straight line.”

「私たちの人生も、私生活も、キャリアも、決して一直線ではありません」

キャリアは、常に右肩上がりに進むものではありません。

立ち止まることもあれば、後ろ向きになったように感じることもあります。

家族、健康、社会情勢など、自分だけではコントロールできない

出来事によって、

予想していた道を変更せざるを得ないこともあります。

それでも、転んだときや歩みが遅くなったときには、

いったん後ろに下がり、

そこから再び前へ進めばよい。Elif氏は、そのように語りました。

それは、何があっても耐え続ける強さが求められるのではなく

状況に応じて柔軟に考え、自分に使える力や資源を探し、

もう一度動き出す力です。

Elif氏は、不確実な状況を生きるうえで、

レジリエンスとともに、柔軟であること、そして、

利用できる資源を見いだし

活用することの重要性にも触れました。

“How crucial resilience is, and how crucial it is to be flexible and resourceful.”

「レジリエンスがいかに重要か。そして、柔軟であり、

自分に使える力や資源を見いだすことが、いかに重要か」


キャリアにおけるレジリエンスとは、

元の状態に戻ることだけではありません。

状況の変化を受け止め、自分の持つ経験や人とのつながりを

組み替えながら、

新しい進み方を見つける力ではないでしょうか。

■偶然の出来事をキャリアに変える力


この経験を聞きながら考えたのが、

キャリア理論家ジョン・D・クランボルツらが提唱した

「計画された偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」です。

クランボルツは、人のキャリアの約8割が、

予期しない出来事に影響されていると

指摘しました。

そこには、できれば起こってほしくなかった出来事も含まれます。

ただし、偶然が起こるのを待つという意味ではありません。

好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心という5つの行動特性を持ち、

予期しない出来事を新たな可能性へと変えていくことが重要だと

されています。

父親の病気をきっかけにニューヨークでの仕事を離れ、

トルコへ戻ることは、Elif氏が当初描いていたキャリア計画には

なかったでしょう。

しかし、その選択から生まれた経験や出会いが、その後のキャリアへと

つながっていきました。

組織で働くなかでも、予期しないライフイベントや異動、

役割の変更などが起こります。

そのとき、本人だけでは「計画から外れてしまった」としか

捉えられない出来事があったとしても

対話を通して経験を捉え直し、本人がまだ気づいていない選択肢や可能性を

一緒に探すメンターの存在が重要になるのではないかという

気づきがありました。


■人生という一枚のキルト


もうひとつ

Elif氏の話を聞きながら、私はキャリア理論家サニー・ハンセンの

「統合的人生設計」を思い浮かべました。

ハンセンは、仕事だけを切り離してキャリアを考えるのではなく、

家族、学習、余暇、地域や社会における役割など、

人生を構成する要素を統合して捉えることを提唱しました。

その考え方は、色や形の異なる布を縫い合わせる「キルト」に

例えられます。

一つひとつの布だけを見れば、色も形も異なります。

予定していた模様に合わない布や、思いがけず手にした布もあるでしょう。

しかし、それらを組み合わせていくことで、その人にしかつくれない

一枚のキルトが生まれます。

人生100年時代、予想外の出来事は多く起こるでしょう。

この国際女性会議のセッションでも

ニューヨークでの金融の仕事も、父親の病気を機にトルコへ戻ったことも、

その後、小売企業のCEOとなったことも、一直線には見えません。

しかし、それぞれの経験は途切れているのではなく、

Elif氏の人生という一枚のキルトを構成しています。

キャリアを考えるとき、私たちはつい、

昇進や転職、肩書といった仕事上の出来事だけを

一本の線で捉えようとします。

しかし実際には、仕事と私生活は完全に分けられるものではありません。

家族の事情によって仕事の選択が変わることもあれば、

仕事で得た経験が地域や家庭での役割に活かされることもあります。

一見、遠回りや中断に見えた経験が、

後になって別の経験と結びつくこともあります。

その意味を本人より先に決めるのではなく、

対話を通して一緒に見いだしていくことも、メンターの大切な役割です。

です。

■メンタリングは互いに学ぶ対話


このセッションを通して改めて感じたのは、

メンタリングは、経験のある人が若い人に正解を与えるだけの

一方向の関係ではないということです。

メンターは、自らの経験を言葉にするなかで、

自分の歩みや意思決定を振り返ります。

異なる世代や文化、価値観を持つ相手から問いを受けることで、

自分では気づかなかった経験の意味を見いだすこともあります。

メンティーもまた、助言を受け取るだけではありません。

自分の問いや経験を通じて、

メンターに新しい視点や気づきをもたらします。

メンタリングとは、「教える人」と「教えられる人」を

固定する関係ではなく、

互いの経験と問いによって学び合う、双方向の対話なのです。

この日の会場でも、成功したCEOの話を参加者が静かに

聞くだけではありませんでした。

Monica氏の問いかけによってElif氏の経験が掘り下げられ、

参加者も自分の人生やキャリアを重ねながら、

その語りを受け止めていました。

問いによって経験の意味が引き出され、

その言葉が別の人の問いにつながっていく場でした。

■日本では新人支援に偏るメンター制度


最後に、この気づきを組織開発に活かすとしたらという視点で考えます。

日本でも、メンター制度は大企業を中心に導入され、増えています。

しかし、その対象は新入社員に大きく偏っています。

労務行政研究所の「人事労務諸制度の実施状況調査」(2022年)では、

回答企業292社のうち、メンター制度を実施している企業は38.0%でした。

その導入企業の99.1%が新卒新入社員を対象に含む一方、

中途入社社員を対象とする企業は13.6%にとどまります。

日本では、メンターが「新人を支える先輩」や

「職場への定着を助ける人」として

理解され、ブラザー・シスター制度やOJTの教育係と

役割が重なることも少なくありません。

もちろん、新入社員や若手社員を支えることは重要です。

ただし、メンタリングの可能性は、新人の職場適応や早期離職の防止だけに

役立つわけではありません。

役割が上がり、周囲から「判断する人」「支える人」と

見られるようになったリーダーほど、

自分の迷いや弱みを話せる相手が少なくなります。

管理職が迷いや不安を口にすれば、

「管理職なのに自分で判断できないのか」「頼りない」と

受け取られるのではないか。そのような不安から、

一人で問題を抱えることもあります。

だからこそ、評価関係から離れ、自分の価値観やキャリアについて

安心して話せるメンターが必要です。

Elif氏が困難な局面でメンターの言葉を思い出したように、

メンタリングは、リーダーが自らの人生とキャリアを

主体的に選択するための支えにもなります。

■女性管理職を輩出する仕組み


誰にとっても、育児や介護、家族の病気など、予期しない出来事によって

キャリアについて考えるタイミングがあります。

一方、女性管理職がまだ少ない組織では、

女性社員が身近なロールモデルや、

将来のキャリアについて相談できる相手を見つけにくい場合があります。

メンタリングは、離職を防ぐためだけの施策ではありません。

予期しない出来事に直面したとき、自分の経験や価値観を捉え直し、

キャリアを継続する方法や新たな可能性を見いだすための対話の

機会になります。

こうした支援は、性別を問わず必要です。

そのうえで、女性管理職が少ない組織においては、

女性が次の役割への挑戦を諦めずに済む環境をつくることが、

女性管理職を継続的に輩出する仕組みにつながります。

そんな気づきも得たセッションでした。

■会議最終日の一体感


さて、4回にわたり、イスタンブールでの国際女性会議について

お伝えしました。いかがでしたでしょうか。

最終日には次回の開催国タイの踊りや、

会場が一体になるダンスタイムもあり、会議は終了しました。


全員ダンスで熱気あふれる最終日の夜


実は、8月終わりには、エストニアの会議に行ってまいりました。

次回から、フィンランド・エストニアについて

お伝えしていこうと思います。

次回も、お読みいただけましたら幸いです。

※本稿は、Global Summit of Women 2026の「メンター・フォーラムII」で交わされた議論をもとに、筆者の視点からまとめたものです。
※この記事は、人事・経営層向けの専門メディア「日本の人事部」に掲載いただいたコラムを、一部加筆・変更して掲載し

AI時代に選ばれるブランドをつくる組織とリーダーの役割
~世界女性サミットで語られたAI・多様性・対話~


2026年6月4日から6日まで、トルコ・イスタンブールで開催された「Global Summit of Women 2026」に参加しました。
本コラムでは、現地で見聞きしたことを、日本企業の組織開発や人材育成にどのように活かせるのかという視点から考えます。

今回、会議のなかで多く語られていたキーワードの一つが、AIです。
世界各国から女性リーダーが集まる会議で、
AIやテクノロジーをめぐる議論が数多く行われていたことが印象に残りました。

その内容は、「AIをどう使うか」「どのツールが便利か」といった話にとどまりません。
AIによって、ビジネスや組織はどう変わるのか。

顧客との関係はどう変わるのか。

そして、その変化を誰が設計し、誰が意思決定するのか。
そこには、ダイバーシティや対話、そして、
これからのリーダーのあり方につながる多くの問いがありました。

では、AI、ダイバーシティ、対話は、企業ブランドとどのようにつながるのでしょうか。

サミットでは、複数のテーマから参加者が選んで参加する分科会が
設けられていました。

私が参加した一つが、
「Enhancing Your Brand Through Technology(テクノロジーで磨くブランド)」
というセッションです。
(写真は分科会セッションとは異なります)

■企業ブランドをめぐる変化

このセッションでは、AIやテクノロジーだけでなく、
これからの企業ブランドのあり方についても語られていました。
これまで企業は、自社の理念や価値を言葉にし、
広告やホームページなどを通じて発信することで、ブランドをつくってきました。

しかし、今はそれだけではありません。
SNSや口コミ、そこで働く人の発信、顧客との日々の接点、
商品やサービスの実際の使われ方など、
さまざまなところから企業の姿が見えるようになっています。

もはや、
「うわべだけの聞こえのよい言葉を使っても、さまざまな接点から企業の本質が見抜かれる時代になった」
ということです。

セッションの冒頭、司会者は、次のように語りました。

“Brands today are no longer built through what they say. They’re built through how intelligently they operate.”

今日のブランドは、企業が何を語るかによってつくられるのではなく、
どれだけ的確に事業を運営しているかによってつくられる、という意味です。

さらに、顧客一人ひとりとどのようにつながり、
あらゆる接点の背後でテクノロジーをいかにシームレスに活用しているかも、
ブランドを形づくる要素として挙げられていました。

つまり、これからのブランドは、企業が一方的に「語るもの」から、
日々の事業運営を通じて示すものへと変化しているということです。

以下は私が考えた例ですが、
たとえば、企業が「社員を大切にする会社です」と発信していても、
実際にそこで働く人が大切にされていなければ、その矛盾はいずれ外部にも伝わっていきます。
また、「多様性を尊重します」と掲げながら、
意思決定の場に似たような属性や考え方の人しかいないとすれば、
やはり言葉と実態の乖離が見抜かれます。

ブランドとは、企業が「こう見られたい」と語るものから、
日々の意思決定や事業運営を通じて、結果として伝わっていくものへ。

AIやデジタル技術が進化した時代だからこそ、
企業には、掲げる言葉と実際の行動を一致させることが、これまで以上に求められています。



■「AIを導入すること」が目的になっていないか

この分科会では、AI活用について、ある数字も紹介されました。
登壇者の一人は、AIを活用するプロジェクトの95%が失敗しているという
データを紹介していました。
その理由として語られたのが、「技術ありき」で始めてしまうことです。
登壇者は、AI活用の出発点について、次のように明確に述べています。

“The main starting point is the problem, not the technology.”

出発点となるのは、技術ではなく課題である、という意味です。
「AIが話題だから導入しよう」

「とにかくDXを進めよう」
こうなってしまうと、うまく進まないわけです。

そもそも自社の何を解決したいのかが明確になっていなければ、
最新の技術を導入しても十分に活用されません。

ここからは私が考えた例ですが、
組織にチャットボットを導入したとしても、
「それによって、自社のどのような課題を解決したいのか」が明確でなければ、
結局、誰にも使われないということが起こり得ます。
重要なのは、

「AIで何ができるか」から考えるのではなく、「私たちは何を解決したいのか」から
考えることです。

さらに、セッションでは、AIをブランドの資産に変えられた企業と、
実際の業務に組み込めていないツールに費用を投じただけの企業との違いを
問いかけていました。

AIを導入すること自体が成果なのではありません。
自社の課題を明確にし、
その解決に必要な技術を選び、実際の業務で機能する状態にすることが重要なのです。

■AIによって「対話」はなくなるのか

もう一つ、私が興味深いと感じたのが、AIと「対話」の関係です。
AIが普及すると、商品選択などが、より機械的になっていくようにも思えます。
ところが、このセッションで語られていたのは、AIの活用によって、
むしろ一人ひとりに寄り添った、人間味のある提案が可能になるという見方でした。

これまでインターネットで商品を探す場合、
私たちは検索窓に「バーベキューコンロ」「セラミック製」など
自分でキーワードを入力していました。
つまり、検索する側が、自分の求めているものを表す適切なキーワードを、
ある程度知っていることが前提でした。

しかし、生成AIとの対話では、
「週末に庭で、家族4人でバーベキューをしたい」
「手入れが簡単なものがよい」
「予算はこのくらい」
と、自分の状況や希望を伝えながら探すことができます。
登壇者は、それを、母親や父親、親しい親戚に相談するような
温かい対話に近づいていくと表現していました。

その話を聴きながら、私は、結局、人は対話を求めているのではないかと感じました。

技術は、必ずしも対話を奪うものではありません。
使い方によっては、一人ひとりに寄り添う対話の質を高めることができます。

対話を専門領域の一つとしてきた私にとっても、非常に興味深い論点でした。

■AIをつくり、意思決定する側に偏りがあれば

セッションの後半で取り上げられたのが、AIとダイバーシティです。
登壇者は、「AIそのものは中立であり、偏りは作り手から生まれる」との
見解を示していました。

開発やテストに関わる人たちの属性が似ていると、
自分たちにとって問題なく使えるものが、
異なる属性の人にも同じように使えるとは限らないという事例も紹介されました。
ここで重要なのは、
誰かが意図的にマイノリティの属性を無視したかどうかではありません。

似た属性の人だけで開発や意思決定をしていると、
自分たちには見えない問題そのものに気づけないことがあります。

つまり、AIをつくり、学習させ、何を採用するのかを決める人たちの側に
偏りがあれば、その偏りがAIにも反映される可能性があるということです。

これはAIだけの問題ではありません。
私は、組織の意思決定にも同じことが起こり得ると考えます。
だからこそ、意思決定の場に多様性が必要なのです。

「使う側」から「意思決定する側」へ
この議論のなかで、もう一つ印象的な数字が紹介されました。
登壇者によると、AI人材全体に占める女性の割合は約40%である一方、
意思決定層に立つ女性は22%にとどまるということです。
そして登壇者は、女性たちに対して、
「AIを使う側にとどまらず、意思決定する側に立つことが重要だ」
という趣旨のメッセージを投げかけていました。

実際、登壇者はここで、“users”と“decision makers”という言葉を対比させています。

私は、この「使う側から、意思決定する側へ」という言葉が
強く印象に残りました。

AIをうまく使うことにとどまらず、AIを何に使うのか、
どのような判断をAIに委ねるのか、その意思決定に関わる側に立つ必要がある
ということです。

これは、単に女性リーダーを増やしましょう、という話ではありません。

性別、年齢、国籍、文化、専門性、働き方など、
異なる背景を持つ人が意思決定に参加することは、
これからの企業にとって単なる理念ではなく、
実務上の要件になっていくのではないでしょうか。
多様な視点がなければ、誰かが見落としている問題に気づくことができません。

つまりダイバーシティは、
製品やサービス、そして意思決定の質に関わる経営上の課題なのです。

■AI時代に問われるリーダーのあり方


ここまでの話をまとめると

AIによって、私たちの仕事はこれから大きく変わっていくでしょう。
しかし、世界女性サミットで議論を聴きながら感じたのは、
テクノロジーが進化すればするほど、人間の役割が小さくなるという
単純な未来ではありませんでした。

むしろ、
何を課題として設定するのか。
誰の声を聴くのか。
誰が意思決定するのか。
その決定によって、見落とされる人はいないのか。

という、人間側の問いがより重要になるのではないでしょうか。
AIは膨大な情報を処理できます。
しかし、何を問いとして設定するのか、どのような価値を大切にするのかを決めるのは
人です。

また、自分一人では見えないものがあるからこそ、
異なる立場の人との対話が必要になります。

今回のセッションで一貫して語られていたのは、
「技術は、人とのつながりを置き換えるものではなく、高めるための手段である」
という考え方でした。

AI時代のダイバーシティとは、単に多様な人を集めることではありません。
多様な人が意思決定の場に参加し、互いに対話できる組織をつくることです。

そして、企業が掲げる理念やブランドも、聞こえのよい言葉だけでなく、
そこで行われている日々の意思決定や行動によって評価されます。

そのなかでも特に大きな影響を与えるのが、リーダーの価値観と行動です。

セッションでは、リーダーとブランドの関係について、次のような言葉もありました。

“You are your brand, and you have to remember that, and you have to live it.”

あなた自身がブランドであり、それを忘れず、体現しなければならない、という意味です。

たとえば、企業が「顧客を大切にする」「社員を大切にする」という
理念を掲げていたとしても、リーダーが数字だけを見て意思決定しているのであれば、
部下は、会社が掲げる理念よりも、そのリーダーの行動を見て仕事をするでしょう。

そこで生まれた行動の積み重ねが顧客との接点にも表れ、
やがて企業ブランドを形づくっていきます。

AIによって企業のさまざまな情報が可視化される時代だからこそ、
リーダー自身のあり方もまた、ブランドをつくる重要な要素になります。

リーダーが何を語るかだけでなく、何を大切にし、どう意思決定し、どう行動しているのか。

そのすべてが、組織の文化や顧客との関係、そして企業ブランドにつながっていきます。

AIを活用する時代だからこそ、企業の本質が問われる。

そして、AIを活用する時代だからこそ、多様性と対話、さらにリーダーのあり方が
これまで以上に重要になる。

■AIを活用する時代だからこそ、企業の本質が問われる。

そして、AIを活用する時代だからこそ、多様性と対話、さらにリーダーのあり方が、これまで以上に重要になる。
これが、今回の世界女性サミットの分科会から私が持ち帰った、大きな学びの一つです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 
次回で、世界女性サミットのレポートは最終回となります。
その後は、デジタル国家・エストニアで得た学びについてもお伝えする予定です。

※本稿は、Global Summit of Women 2026の分科会「Enhancing Your Brand Through Technology(テクノロジーで磨くブランド)」で交わされた議論をもとに、筆者の視点からまとめたものです。
※この記事は、人事・経営層向けの専門メディア「日本の人事部」に掲載いただいたコラムを、一部加筆・変更して掲載しています。

~世界のリーダーシップ潮流から考える「Vulnerability(ヴァルネラビリティ)」~

2026年6月4日~6日に、トルコ・イスタンブールで開催された「Global Summit of Women 2026」に参加してまいりました。

 

そこで、現地で見聞きしたことを、日本企業の組織開発や人材育成にどう活かせるのかという視点で考えています。

 

第1回では、会場で出会った女性リーダーたちの姿から、「自分の意見を言える人材」はどのように育つのかについて考えました。

 

第2回となる今回は、これからのリーダーのあり方について考えてみたいと思います。

サミットの初日、ロールモデルについて語られる中で、耳に残った言葉がありました。

 

“show vulnerability even though you have a high ambition.”

 

高い志を持っていても、Vulnerability(ヴァルネラビリティ)を示すこと。

 

Vulnerabilityは、日本語では「脆弱性」「傷つきやすさ」などと訳されますが

 

ヴァルネラビリティの研究で有名な

ブレネー・ブラウンの著書『本当の勇気は「弱さ」を認めること』で使われている

「弱さ」ということばに置き換えると、イメージしやすいのではないかと思います。

 

■ 「完璧なリーダー」でなければならないのか

 

研修をしていると、管理職やリーダーから、さまざまな悩みを伺います。

「部下より仕事ができなければならない」

「聞かれたことに正解を持っていなければならない」

「迷っている姿を見せてはいけない」

責任のある立場になるほど、自分に求めるものも大きくなります。

特に女性の場合、仕事に加えて家庭や周囲への配慮まで含めて、

「きちんとできなければ」と考えている方も少なくありません。

リーダーは、スーパーウーマンであることを求められている。

そんなふうに感じてしまうのだそうです。

 

もちろん、高い目標を持ち、自分の能力を磨き続けることは大切です。

ただ、ここで少し考えてみたいと思います。

何でもできる。

迷わない。

失敗しない。

いつも正しい答えを持っている。

そのような「完璧な人」が、

本当に次の世代にとってのロールモデルになるのでしょうか。

「あの人だからできる」

「自分は、あんなふうにはなれない」

そう感じる存在は、

憧れにはなっても、次世代が目指せる

ロールモデルにはなりにくいと言えるのではないでしょうか。

 

サミットで何度か耳にしたVulnerability(ヴァルネラビリティ)という言葉は、

これまでのステレオタイプであった「強いリーダー像」を、

少し違う角度から考える時代になってきていることを

示唆しているように思います。

 

■ 「部下のほうが詳しい」と悩むリーダー

 

最近、管理職研修では、異動したばかりのリーダーから、

こんな悩みを伺うことが多くあります。

新しい部署に管理職として着任したものの、

業務については長く、そこで働いてきたメンバーのほうが詳しい。

「管理職なのに、部下より知らなくていいのだろうか」と不安になるのです。

しかし、異動して間もないリーダーが、その部署で何年も経験を積んできた

メンバーより知らないことがあるのは、むしろ自然なことです。

わからないことは、詳しい人に聞く。

「この分野については、あなたのほうが詳しいので、教えてもらえますか」

そう言うことで、解決できます。

そして、それが本当の強さともいえるでしょう。

 

「リーダーは常に答えを持っていなければならない」

 

という思いこみが強いほど、この一言が難しくなります。

そしてそこに囚われてしまうと

知らないことを隠したり、質問することをためらったり、

ときにはわかっているように振る舞ったりすることもあります。

 

しかし、「わからない」と認めることと、

リーダーとして責任を持たないことは同じではありません。

知らないことは、知っている人に聞く。

メンバーの経験や専門性を尊重する。

異なる知識を持つ人の力を借りる。

そのうえで、必要な判断をし、責任を引き受ける。

これからのリーダーに求められるのは、

すべてを自分一人で知っていることではなく、

チームの中にある知識や経験を引き出し、活かす力なのではないでしょうか。

 

■ 世界で注目されている「ヴァルネラビリティ」

 

Vulnerabilityという言葉を世界的に広く知らしめた研究者の一人が、

冒頭にもご紹介した

米国の研究者ブレネー・ブラウン氏です。

2010年にTEDxHoustonで行った「The Power of Vulnerability」は、

TED公式サイト単体でも7,000万回以上視聴され、

世界で最も広く視聴されたTED Talksの一つとなっています。

ブラウン氏は、Vulnerabilityや勇気、

人と人とのつながりについて長年研究を続けています。

リーダーシップについて論じた著書、

dare to lead リーダーに必要な勇気を磨く』(サンマーク出版)では、

リーダーが常に正しい答えを持っているふりをするのではなく、

好奇心を持ち、問いを投げかけることの重要性についても述べています。

 

ここで注意したいのは、Vulnerabilityとは、

ただ単に「弱さを見せればよい」ということではありません。

実際、そういう意味ではないことを、ブラウン氏は

著書で伝えています。

 

「わからない」

「間違えた」

「教えてほしい」

「あなたの意見を聞きたい」

「ここは力を借りたい」

必要な場面で、そう言えること。

自分の不完全さを受け入れて、それをチームの力や自身の経験につなげること。

不確実な状況でも他者と関わり、周囲の力を借りながら前へ進む。

Vulnerabilityという考え方をそのように捉えると、

職場を活性化させる

リーダーシップにもつながってくるように思います。

 

■ 「完璧でなければ」を自分にも他者にも求めていないか

 

もう一つ、ブラウンの研究から考えさせられるのが、完璧主義についてです。

完璧であろうとすることは、一見すると強さや向上心のようにも見えます。

しかしブラウンは、完璧主義を、傷つくことや批判されることから

自分を守るためにまとう「鎧」の一つとして捉えています。

「間違えてはいけない」

「弱さを見せてはいけない」

「常に正しくなければならない」

こうした基準を自分自身に厳しく課していると、

その基準を知らず知らずのうちに周囲にも求めてしまうことがあります。

部下が「わかりません」と言ったときに、

「そんなことも知らないのか」

と感じる。

失敗したメンバーに、

「どうしてこんなこともできないのか」

と思う。

助けを求める人を見て、

「もっと自分で何とかするべきだ」

と考える。

もちろん、完璧主義の人がハラスメントをする、という単純な話ではありません。

ただ、ブラウンは組織文化を論じる中で、ハラスメントなどが見られる場合、

その背景に、人が不完全さや失敗を安心して示せない文化がないかを

検証する必要があると指摘しています。

リーダー自身が「失敗してはいけない」「弱さを見せてはいけない」という

強い鎧をまとっていれば、その価値観が、日々の言葉や態度を通して周囲にも

伝わっていくことがあります。

 

それは、リーダー自身の生きづらさだけでなく、

メンバーが「わからない」「助けてほしい」と言えるかどうかにも影響します。

だからこそ、Vulnerabilityは、単に個人が「弱さを見せる」ための話ではなく、

成長途中にある不完全さをどのように受け止める組織なのか

という問いにもつながります。

 

■ 組織で「言える文化」をつくる

 

ブラウン氏は

「これからはリーダーも『わからない』と言いましょう」

と、個人に求めるだけでは十分ではないと語っています。

大切なのは、それを受け止められる組織文化があるかということです。

 

実際には「わからない」と言った途端に、

「管理職なのに、そんなことも知らないのか」

と思われる。

失敗について率直に話せば、評価が下がる。

助けを求めれば、「能力が足りない」と見られる。

そのような職場で、「もっと自分を開示しましょう」と言われても難しいでしょう。

つまり、心理的安全性が保たれていない状態です。

リーダー個人のあり方と同時に、

「わからない」と言ってもよい文化

必要なときには助けを求められる文化

をつくっていくことが必要です。

 

話をSummitに戻します

最終日に行われた「Building Mental Wellness for Successful Leadership」でも、

職場で自分らしくいられること、

心理的安全性、孤独、バーンアウトなどとともに、

リーダー自身が必要なときには助けを求めてもよいという

考え方が語られていました。

Vulnerabilityは、個人の向き合い方だけの問題ではありません。

それを許容し、受け止められる関係性や組織文化があるか。

そこまで含めて考えることが必要なのだと思います。

 

■ 「わからない」から、多様性が活きる

 

VUCAの時代、AIの進化、価値観の多様化、働き方の変化など---

変化が加速化し、過去の成功体験だけでは答えを出せない問題が増えています。

一人のリーダーが、すべての専門知識と正解を持つことは、ますます難しくなっています。

だからこそ、

「わからない」

「教えてほしい」

「あなたはどう思う?」

と言えることが重要になります。

わからないから、人に聞く。

人に聞くから、自分とは異なる知識や経験に出会う。

違いがあるから、対話が生まれる。

そして対話することで、一人では考えつかなかった答えを、ともにつくることができる。

 

私は日々、リーダーの悩みを伺う中で

会議で何度か耳にした、Vulnerabilityは

ダイバーシティ、そして現代の対話の接点があると考えています。

多様な人材を集めるだけでは、多様性は組織の力にはなりません。

それぞれが持つ経験、専門性、価値観、

ものの見方が実際の意思決定に活かされて初めて、多様性は価値を生みます。

 

そのためには、リーダー自身が「自分が答えや正解を持っている」という

前提から少し離れ、他者の考えが入ってくる余白をつくることも

リーダーの必須要素のように思います。

 

■ おわりに

 

サミットの初日に耳にした、

“show vulnerability even though you have a high ambition.”

という言葉から、これからのリーダー像やロールモデルのあり方について、

あらためて考えてまいりました。

「わからない」と言える。

「教えてほしい」と言える。

そして、周囲の人の「わからない」や「助けてほしい」も受け止めることができる。

 

そのようなリーダーがいることで、異なる意見や経験が語られ、

心理的安全性のある組織・対話が生まれます。

そして、その対話を支えるのは、個人の勇気だけではなく、

それを許容する組織文化です。

次回も、各セッションで印象に残ったテーマを取り上げながら、

日本の組織開発や人材育成にどのように活かせるのかを考えていきたいと思います。

あわせてお読みいただけますと幸いです。

お読みいただき、ありがとうございました。

■ 参考文献

ブレネー・ブラウン(2025)『dare to lead リーダーに必要な勇気を磨く』片桐恵理子訳、サンマーク出版。

Brené Brown, “The Power of Vulnerability,” TEDxHouston, 2010.

※この記事は、人事・経営層向けの専門メディア「日本の人事部」に掲載いただいたコラムを、一部加筆・変更して掲載しています。