アクション一辺倒でないのが良い『ブリット』(ピーター・イェーツ監督作品) | Eagle-eyed Cinema Review-鷲の目映画評-

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イーグルドライバーの観た映像作品について、あれこれ書いて行きます。
主に「洋画」ですが、ジャンルにはあまりこだわらず、インスピレーションで拝見する作品を選んでいます。
海外の「ドラマ」も最近は気になります。

『ブリット』(原題:Bullitt /1968年アメリカ/113分)

監督:ピーター・イェーツ

脚本:アラン・R・トラストマン、ハリー・クライナー

製作:フィリップ・ダントーニ

製作総指揮:ロバート・E・レリア

音楽:ラロ・シフリン

撮影:ウィリアム・A・フレイカー

編集:フランク・P・ケラー

出演者:スティーブ・マックイーン、ジャクリーン・ビセット、ロバート・ヴォーン、ドン・ゴードン、サイモン・オークランド、ノーマン・フェル、ロバート・デュヴァルら

100点満点中88


 スティーブ・マックイーン主演のサンフランシスコを舞台にしたヒューマン要素とアクション性のあるクライム・スリーラー作品。

 1968年公開と古い作品ですが、60年代ファッションとその時代の名車たち(1968年型フォード・マスタングファストバックGT390、同ダッジ・チャージャー)が登場し、なんとも懐かしいがスタイリッシュなムード漂う落ち着いた大人の刑事ものです。

 サンフランシスコの刑事ものというと、クリント・イーストウッド主演の『ダーティーハリー』シリーズが有名ですが、かの作品の1作目が公開されたのは、1971年なので、「ハリー・キャラハン」刑事の人物像や舞台設定に、本作が少なからず影響を与えたと考えられます。

 

 監督のピーター・イェーツはイングランド、ハンプシャーのアルダーショット出身の映像作家でありプロデューサーです。イギリスでTV制作に携わった後、本作がハリウッドでのデビュー作品です。1969年公開の『ジョンとメリー』や1983年公開の『ドレッサー』等があります。



 主演のスティーブ・マックイーンは「フランク・ブリット」を演じます。この役は、サンフランシスコ市警本部捜査課の警部補で、特の嗅覚と捜査手法をもった現場たたき上げの捜査員です。上司からは絶大なる信頼を得ているベテランであり、劇中では出発間際の国際線の旅客機を、職権で止めてしまいます。そんなことも・・・許される人物。この頃の彼は、現役のプロレースドライバーでもあったため、本作でもチューンナップしたフォード・マスタングファストバックGT390(↓)を駆って、アップダウンの激しいサンフランシスコ市街から、カーブの多い郊外へと、暗殺者が乗り込むダッチ・チャージャーを猛追するカーチェイスを繰り広げます。これは、ハリウッド作品の中では、カメラ視点を車内に置いたり等、当時カーチェイスの革新的シーンとなりました。確かに、今見てもすごい迫力で、車酔いしそうなほどに鬼気迫るものがあります。





 共演のジャクリーン・ビセットは「キャシー」を演じます。この役は、 「フランク」の恋人であり、女性ながら当時としては先端の職業である工業デザイナーです。この時、24歳のジャクリーンは、昨今の女優とは違って“小顔”ではないですが、知性あふれる健康的なお色気を放つ美女で、無表情な彼氏に健気に後からついて行く、やや気弱なキャリア・ウーマンを演じています。そして・・・まーその可愛いいこと可愛いいこと!!



 共演のロバート・ボーンは「ウォルター・チャルマース」を演じます。この役は、シカゴの犯罪組織の幹部が司法取引に応じ、身柄の保護を申し出たことを利用して、閣僚等の官職を得ようとする上院議員で、捜査協力と言いながら、捜査員を消耗品のように扱ったり、議員の立場を利用して、立場の弱い者に対して上から圧力を掛けて我を通したりと、いわゆる“人間のクズ”です。ボーン本人は、TVシリーズ『0011ナポレオン・ソロ』や1960年公開の『荒野の七人』の出演で有名ですね。


 また、あのロバート・デュバルがタクシー運転手役を演じていますが、チョイ役で、さほどセリフがないですが、劇中で捜査進展のきっかけを与える重要な役柄です。まだ、この頃のデュバルは主役級の俳優ではなかったようですが、地味に演じても存在感はたっぷりです。


 これら豪華俳優陣でアクション性のあるクライム・スリラーをおくるわけですが、鑑賞中、心がジーンとなるところがあって、それは、終盤のジャクリーン演じる「キャシー」とマックイーン演じる「フランク」のやり取りで、犯罪捜査に身を置く「フランク」の心の闇に触れた「キャシー」が、自身の怯えと彼への思慕の情をぶつけていく場面です。この辺が、単なる犯罪映画ではない深みのあるヒューマン作品の要素も強く感じるところです。


(あらすじ)

 シカゴの犯罪組織から足抜けを決意した「ジョー・ロス」は、組織から雇われた暗殺者に命を狙われていた。彼は組織の内部情報を土産に、身柄の保護を求めて上院議員「チャルマース」に接触し司法取引することとなる。サンフランシスコ市警本部捜査課の警部補「フランク・ブリット」はこの上院議員から呼び出され、翌週月曜日の公聴会開催まで、「ジョー・ロス」の身辺警護を直接依頼される。「フランク」と彼のチームは、手はず通り、サンフランシスコ市内の安ホテルで、「ジョー・ロス」を保護することとなり、三交代制で昼夜付き添うこととなるが、その晩、「チャルマース」上院議員だと偽りを名乗る暗殺者2名の急襲を受け、チームの一員「スタントン」刑事は膝を散弾銃で打たれ重症、当の「ジョー・ロス」は肩と顔に散弾を浴び、意識不明の重体となる。その深夜、さらに暗殺者は、「ジョー・ロス」の息の根を止めようと、収容先の病院にまでやってくるが、「フランク」の機転により、未遂に終わる。上院議員「チャルマース」は、この失態を攻めながら、何としても2日後の公聴会には「ジョー・ロス」に証言させると息巻く。しかし、次の日の早朝、「ジョー・ロス」は息を引き取ってしまう。一計を案じた「フランク」は、担当医と申し合わせて、「ジョー・ロス」の死亡を隠すため、市の死体安置所にその亡骸を移し、再度、殺し屋が現れるのを待つことにする。そして、生前の「ジョー・ロス」のいくつかの不審な行動を糸口に独自の捜査を開始する。そして、そこには意外な真実が隠されていることが分かってくる。